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今日は、休職理由に含まれない事由での休職期間満了による自然退職が認められないとされた事案を見ていきましょう。
シャープNECディスプレイソリューションズ事件(横浜地裁令和3年12月23日・労経速2483号3頁)
【事案の概要】
本件は、平成26年4月1日から株式会社であるY社と雇用契約を締結して労務に従事したが、適応障害を発症して平成28年3月26日に私傷病休職を命じられ、休職期間の満了により平成30年10月31日に自然退職とされたXが、①Xの休職理由は遅くとも平成28年5月には消滅したから、Y社は同月の時点でXを復職させなければならなかったと主張して、Y社に対し、雇用契約上従業員としての地位を有することの確認と、雇用契約の賃金請求権に基づき、賃金として、同年6月以降、支払期日である毎月26日限り、賃金月額21万9401円+遅延損害金の支払と、賞与として、平成28年以降、毎年6月20日限り、52万3000円、及び毎年12月10日限り、51万5000円+遅延損害金の支払を求めるとともに、②Y社が従業員4名掛かりでXの四肢を抱えてXの自席からY社の正面玄関まで運んだことは、Xの身体の自由及び人格権を侵害する不法行為に該当し、これによりXは精神的苦痛を受けたと主張して、Y社に対し、不法行為の損害賠償請求権に基づき、100万円+遅延損害金の支払を求め、③Y2は、必要な検査等を経ることなく、Y社の意を汲んで、Xが発達障害であるかのように誤導させる内容の診断をし、これによりXは精神的苦痛を受けたと主張して、Y2に対し、Xとの診療契約上の債務不履行の損害賠償請求権又は不法行為の損害賠償請求権に基づき、300万円+遅延損害金の支払を求める事案である。
【裁判所の判断】
1 地位確認認容
→バックペイ
2 Y2への請求棄却
【判例のポイント】
1 Xの休職は、あくまで適応障害により発症した各症状(泣いて応答ができない、業務指示をきちんと理解できない、会話が成り立たない)を療養するためのものであり、Xが入社当初から有していた特性、すなわち、職場内で馴染まず一人で行動することが多いことや上司の指示に従わず無届残業を繰り返す等の行動については、休職理由の直接の対象ではないと考えるべきである。
2 本件において、Xの休職理由はあくまで適応障害の症状、すなわち、Y社における出来事に起因する主観的な苦悩と情緒障害の状態であり、人格構造や発達段階での特性に起因するコミュニケーション能力、社会性等の問題は、後者の特性の存在が前者の症状の発症に影響を与えることがあり得るとしても、相互に区別されるべき問題である。そうすると、Y社の従業員就業規則79条の規定に基づきXの復職が認められるための要件は(休職の理由の消滅)としては、適応障害の症状のために生じていた従前の職務を通常の程度に行うことのできないような健康状態の悪化が解消したことで足りるものと解するのが相当である。
3 これに対し、Y社は、同年4月28日付けで、XのY社内での復職について不可と判断した理由として、自身の能力発達の特性を受容できていないこと、意図することが伝わらず、双方向コミュニケーションが成立しない場面が多いこと、一般的な社会常識及び暗黙の了解に対する理解が乏しく、被害者意識が強く誤解が生じやすいことなどを挙げている。また、Y社は、本件休職命令の延長期間満了までの間、Xが自己の障害ないし特性についての認識を欠いており、コミュニケーション能力、社会性の会得に真摯に取り組んでいないことなどを主張する。
しかし、これには、Xの休職理由である適応障害から生じる症状とは区別されるべき本来的な人格構造又は発達段階での特性が含まれており、休職理由に含まれない事由を理由として、いわゆる解雇権濫用法理の適用を受けることなく、休職期間満了による雇用契約の終了という法的効果を生じさせるに等しく、許されないというべきである。
賛否両論あり得るところですが、形式的には、当該裁判所の考え方も理解できなくはありません。
実際、現場において明確に区別できるかどうかわかりませんが。
リハビリ出勤をさせる場合は、顧問弁護士の助言の下に慎重に進めることをおすすめいたします。