賃金233 労働条件の切下げに対する同意の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、労働条件の切下げに対する同意の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

医療法人社団新拓会事件(東京地裁令和3年12月21日・労判ジャーナル123号38頁)

【事案の概要】

本件は、Y社とアルバイトの雇用契約を締結していた医師Xが、Y社から一方的に勤務日及び勤務時間を削減されるという労働条件の切り下げを受けた後に違法に解雇されたと主張して、賃金支払請求権に基づき差額賃金等の支払を求め、解雇予告手当支払請求権に基づき解雇予告手当等の支払を求め、付加金支払請求権に基づき付加金等の支払を求め、また、上記労働条件の切下げ及び上記解雇が違法であるとして、不法行為による損害賠償請求権に基づき損害賠償等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

1 Y社は、Xに対し、189万9833円+遅延損害金を支払え。

 Y社は、Xに対し、30万円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 Y社は、Xが、令和元年5月16日、被告に対し、「了解しました。よろしくお願いいたします。」というLINE上のメッセージを送り、勤務日及び勤務時間の削減に同意したと主張する。
しかし、Xは、勤務日及び勤務時間の削減について同意していない旨をLINE上で明確に伝え、本件雇用契約書への押印を拒否しているのであり、Cとの交渉の過程で発せられた上記メッセージを取り出してこれをもって原告が勤務日及び勤務時間の削減に同意したものと認めることはできない
また、Y社は、Xが、令和元年5月15日、被告に対し、「勤務につきましては週に3~4日程度定期的に入れれば幸いです。」というLINE上のメッセージを送ったことにより、週3日の勤務とすることに合意した旨主張する。
しかし,上記メッセージは、XがY社と交渉する経緯の中での妥協案として提案したものと認められるところ、Y社は、結局、この提案を受け容れたものとは認められないことに照らせば、上記メッセージをもってXとY社が週3日の勤務日とする合意をしたものと認めることはできない
したがって、Y社の前記主張を採用することはできない。

2 Y社は、Xの勤務日及び勤務時間の削減はやむを得ないものであり、Y社には「責めに帰すべき事由」はない旨主張する。
しかし、Y社は、Xとの間で、本件雇用契約において、固定した勤務日及び勤務時間について合意していたものであるから、Xに割り当てる固定した勤務日及び勤務時間を除いてシフトを組めばよいのであって、Xの勤務日及び勤務時間の削減がやむを得ないとはいえない
そもそもY社は、平成30年12月の時点で登録していた医師が約50名にすぎず、b社の担当者の「はい。大歓迎でございます!」というメッセージからもうかがわれるようにシフトを埋めることに努力を要する状況にあったことが推認されるところ、令和元年6月の時点で登録する医師が約200名に増加したため、Xの固定する勤務日及び勤務時間が逆に業務の支障になったものであり、Y社の都合で、それまで大幅にシフトを埋めていた原告の勤務日及び勤務時間を一方的に切り下げたものと認められる。

LINEやメールのやりとりの中で、労働者の同意の存在をうかがわせる内容があったとしても、それだけをもって裁判所が労働者の同意を求めてくれるとは限りません。

特に労働条件の不利益変更に関する労働者の同意については慎重に判断されますので注意が必要です。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理をすることが肝要です。