賃金230 訴訟上の和解による退職日の変更と未払賃金立替払制度の利用の可否(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、訴訟上の和解による退職日の変更と未払賃金立替払制度の利用の可否を見ていきましょう。

大田労基署長事件(令和4年3月1日裁決・労判1264号105頁)

【事案の概要】

Xは、民事訴訟手続で解雇無効を争い、XとY社との間で、Y社が行った解雇を撤回し、令和2年5月31日にXが退職したことを確認するなどを内容とする訴訟上の和解が成立した。しかし、Y社は、この訴訟上の和解に定められた債務の弁済を行っていない。

Xは、処分庁に対し、未払賃金の立替払いの認定申請を行った。

処分庁は、Xに対し、認定申請が、申請者の退職の日の翌日から起算して6月以内に行われていないことを理由に不認定処分をした。

Xは、本件不認定処分を不服として、審査庁(厚生労働大臣)に対し審査請求を行った。

【審査庁の判断】

本件審査請求に係る処分を取り消す。

【裁決のポイント】

1 本件では、解雇が無効であるとの裁判所の判断がされたものではないが、訴訟手続において、解雇が撤回され、令和2年5月21日に退職したとする訴訟上の和解が成立しているのであるから、先の解雇の通知は撤回されてその効力はなくなったというほかない。したがって、解雇によって退職したと認定することはできず、令和2年5月21日まで労働契約関係は継続していたとするほかない。

2 認定申請の6か月以上前に退職して労働契約関係が消滅したことが明らかであるのに、未払賃金立替払制度の利用を企て、使用者と元労働者の合意によって退職日を後日に変更するのは、未払賃金立替払制度の趣旨に反するというべきである。
しかし、本件では、審査請求人は解雇を告げられたものの、解雇無効を主張して民事訴訟手続で争い、訴訟上の和解において解雇は撤回され、令和2年5月21日に退職したとして争訟が解決していること、労働審判手続を申し立てるより前にも日本労働組合総連合会東京都連合会から本件会社に対して審査請求人の解雇理由等についての問合せがなされており、審査請求人は解雇を告げられた当初から解雇に不服を持っていたことがうかがわれること等の事情が認められる。
そうすると、認定申請の6か月以上前に退職したことが明らかである者が、使用者と意思を通じて退職日を後日に変更し、存在する余地のなかった賃金請求権を作出して立替払いの対象としたというような事案とまで断ずることは困難である

非常に珍しい事案ですが、実態に即して判断されています。

通常、当事者間の和解をベースにすると、両者の意思によって事情変更ができてしまうため、判決を求めて手続きをするほうが間違いはないと思います。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理をすることが肝要です。