おはようございます。
今日は、美容室勤務の美容師の労働者性に関する裁判例を見てみましょう。
TRYNNO事件(名古屋地裁岡崎支部令和3年9月1日・労経速2481号39頁)
【事案の概要】
本件は、美容室勤務の美容師の労働者性が争われた事案である。
【裁判所の判断】
労働者性否定
→請求棄却
【判例のポイント】
1 Xは、本件美容室での業務については、その遂行過程においてY社から指示を受けることなく、そもそも顧客からの予約を受けるか否かという点も含めて自らの判断で行っていたことが認められる。
その勤務状況を見ても、特段Y社に指示を仰ぐことなくカット等の業務をこなしており、また、勤務時間については、予約が入っていない際に本件美容室から外出することもあるなど、かなり自由に行動していたことがうかがわれ、時間的にも場所的にもY社によって拘束されていたとはおよそ認めがたい。
これらの事情だけをもっても、XとY社との間に、本件美容室の業務に関する指揮命令関係を見出すことは困難である。
2 Xは、XがY社からタイムツリーというアプリを用いて指揮命令を受けていたと主張するが、単に予約状況を共有していたというものにすぎず、それ以上に指揮命令を基礎づける事情とは言えない。
さらに、Xの給与は、毎月一定額を支給されるというもので、残業や欠勤の際に報酬が増減したといった事実は認められないのであり、労働の結果によって報酬が左右される性質を有していない。
他方で、Y社は、Xが受け取っていた給与については、給与所得として源泉徴収及び雇用保険料を徴収していたことが認められるが、報酬が固定であったことも併せ考えれば、Y社においてXに安定した収入を得させる目的で便宜的にそのような扱いをしたものと見ることができるのであり、労働者性の認定にあたって上記の推認を覆すほどの強い事情とまでいうことはできない。
また、XとY社は、もともと交際関係にあったものであり、いわゆる面接、採用という通常の雇用契約に想定される手続を経ているものではないし、就業規則や服務規律、退職金制度、福利厚生の有無についての定めも一切ない。
しかも、これらについてXがY社に不満を訴えたりした事情は認められない。これらの事情は、X及びY社が、Xの本件美容室での業務において労働基準法等の規律に服することを想定していなかったことの証左である。
3 以上に加え、Xが、本件美容室の開業について、一定の物品の負担をしたこと、Y社から店舗からの退去を求められる前後を通じて、独自の商号を用いて営業を行っていたことなどを踏まえると、Xは、Y社に対して使用従属関係にあったということができず、Xの労働者性を肯定することはできない。
労働者性の判断は非常に際どいので、業務委託とする場合には、細心の注意をする必要があります。
今回の事案では労働者性が否定されていますが、多くの事案で労働者性が肯定されていますので、安易に物まねをすると火傷をしますのでご注意を。
労働者性に関する判断は難しいケースも中にはありますので、業務委託等の契約形態を採用する際は事前に顧問弁護士に相談することを強くおすすめいたします。