おはようございます。
今日は、訴訟提起前に締結された雇用契約の確認書による、割増賃金の未払い部分の放棄が否定された事案を見ていきましょう。
メイホーアティーボ事件(東京地裁令和4年1月21日・労経速2479号33頁)
【事案の概要】
本件は、Y社との間で雇用契約を締結してY社の業務に従事し、令和2年4月30日に退職したXが、Y社から時間外労働に対する労働基準法及び雇用契約所定の割増賃金の一部が支払われていないと主張して、Y社に対し、以下の各支払を請求する事案である。
【裁判所の判断】
Y社は、Xに対し、300万6089円+遅延損害金を支払え。
Y社は、Xに対し、付加金225万7901円+遅延損害金を支払え。
【判例のポイント】
1 Y社は、本件確認書の内容で、確定効を有する和解契約が締結されたと主張する。
しかし、本件におけるY社の主張の内容のほか、本件各雇用契約の契約期間を通じて、Y社がXに対して賃金の全額を支払っていなかったことからすれば、仮に、本件確認書の作成に先立って、Y社がXに対してタイムカードないし業務月報を提示していたとしても、Y社から、Xに対し、本件確認書を作成した際、Xが現に未払の賃金請求権を有していることを説明したとは認められず、Xにおいても、未払の賃金請求権を有しているとの認識はなかったと認められる。
そうすると、本件確認書に表示された原告の意思を合理的に解釈すれば、割増賃金の未払部分を放棄するものとは解されず、また、その当時、XとY社との間に紛争が存したとも認められないから、本件確認書により、Y社が主張する内容の和解が成立したとは認められない。
このような書面の取り交わしはよく見かけますが、多くの場合、奏功しません。
奇を衒わず、労働時間を管理し、支払うべき残業代をしっかり支払うということが、最も間違いのない王道のやり方です。
策士、策に溺れないようにしましょう。
日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理をすることが肝要です。