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今日は、代表者らの背任行為の通報等を理由とする懲戒解雇の有効性について見ていきましょう。
神社本庁事件(東京地裁令和3年3月18日・労判1260号50頁)
【事案の概要】
本件は、雇用主であるY社から平成29年8月25日付けで懲戒解雇されたXが、懲戒解雇が無効であると主張して、①Y社に対する雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認、②Y社に対し、雇用契約に基づく賃金として、平成29年9月から本判決確定の日まで毎月21日限り63万5789円+遅延損害金の支払等を求めた事案である。
【裁判所の判断】
懲戒解雇無効
【判例のポイント】
1 解雇理由1にかかる行為は、庁内の秩序を保持する義務に反したものとして就業規則67条1号および3号、就業規則67条2号「社会的規範にもとる行為のあったとき」、5号の「本庁の信用を傷つけ」る行為のあったときに、それぞれ外形的に該当する行為であるといえ、Xは、Y社の神職であるから、神職懲戒規程の適用があると解されるところ、神職懲戒規程細則3条2号ハおよびニにも該当するから、この点でも就業規則67条1号の懲戒事由に外形的に該当する。
2 解雇理由1にかかる行為は、労働者が、その労務提供先である使用者の代表者、使用者の幹部職員および使用者の関係団体の代表者の共謀による背任行為という刑法に該当する犯罪行為の事実、つまり公益通報者保護法2条3項1号別表1号に該当する通報対象事実を、Y社の理事および関係者らに対し伝達する行為であるから、その懲戒事由該当性および違法性の存否、程度を判断するに際しては、公益通報者保護法による公益通報者の保護規定の適用およびその趣旨を考慮する必要がある。
3 公益通報者保護法の規定の内容、および公益通報者を保護して公益通報の機会を保障することが国民生活の安定および社会経済の健全な発展に資するとの当該規定の趣旨に鑑みると、労働者が、労務提供先である使用者の役員、従業員等による法令違反行為の通報を行った場合、通報内容の真実性を証明して初めて懲戒から免責されるとすることは相当とはいえず、①通報内容が真実であるか、または真実と信じるに足りる相当な理由があり、②通報目的が、不正な利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的でなく、③通報の手段方法が相当である場合には、当該行為がY社の信用を毀損し、組織の秩序を乱すものであったとしても、懲戒事由に該当せず、または該当しても違法性が阻却されることとなり、また、①~③のすべてを満たさず懲戒事由に該当する場合であっても、①~③の成否を検討する際に考慮した事情に照らして、選択された懲戒処分が重すぎるというときは、労働契約法15条にいう客観的合理的な理由がなく、社会通念上相当性を欠くため、懲戒処分は無効となると解すべきである。
4 丙総長及びI会長が、本件売買について背任行為を行った事実、およびL課長がこれに加担した事実については、①真実であるとは認められないものの、本件文書を理事2名に交付した当時、Xが、これを真実と信じるに足りる相当の理由があったといえ、②不正の目的であったとはいえず、③手段は相当であったから、公益通報者を保護し、公益通報の機会を保障することが、国民生活の安定などに資するとの公益通報者保護法の趣旨などに照らし、本件文書の交付をもってこれらの事実を摘示した行為は、違法性が阻却されて懲戒すべき事由といえないというべきである。
公益通報・内部通報関連の懲戒事案の対応は、上記判例のポイント3を参考にして慎重に対応することが求められます。
感情的になって、詳細な調査等をせずに懲戒解雇することは避けなければいけません。
解雇を行う場合には、必ず顧問弁護士に相談をしつつ、慎重に対応していきましょう。