Monthly Archives: 7月 2022

本の紹介1300 「話し方」の品格(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、本の紹介です。

確かに「話し方」にその人の知性や品格が現れることは事実です。

ただ、個人的には「聞き方」にこそ、より知性や品格が現れると思っています。

聞き方が下手な相手には話す気が失せます。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

コミュニケーションの世界にヒエラルキーが作られ、『話す』が上、『聞く』が下とみなされている現実は、一刻も早く打破すべきである。・・・この関係を打ち破るには、あえて『聞く』が先、特に上位者から先に聞くことを実践するとよい。聞き手がいて、コミュニケーションが成り立つ、という基本を再確認しよう。」(196頁)

はっきり言いましょう。

他者とのコミュニケーション(例えば、会食等)においては、いかに自分が気持ちよく話をしたかではなく、いかに相手に気持ちよく話してもらえたかこそが重要なのです。

実のところ、その場を支配しているのは、話し手ではなく、聞き手です。

できるだけボールポゼッション率を下げること。

できるだけ他者がトラップしやすく、シュートをしやすい質問という名のパスを出すこと。

そして、相手が話をしているときには、不必要かつ大袈裟な相槌を打たずに、また、途中で遮らずに静かに聞くことです。

一番ダメなのは「はい、はい、はい、はい」を連呼するあれです。

耳障り以外の何物でもありません。

労働者性47 プログラマーの労働者性が否定された事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、プログラマーの労働者性が否定された事案を見ていきましょう。

東京FD事件(東京地裁令和3年11月11日・労判ジャーナル122号50頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元従業員Xが、Y社に対し、雇用契約に基づく未払賃金等の支払等を求めた事案である。

原判決は、Xの請求をいずれも認容したため、Y社がこれを不服として控訴した。

【裁判所の判断】

原判決取消(請求棄却)

【判例のポイント】

1 Xは、本件契約に基づく業務を行うに当たっては、一人で現場に赴き、専門的知識を有するプログラマーとして、顧客の担当者と協議をしながら、自身の責任において、作業内容やスケジュールを決め、期限までにシステム開発を完成させることが求められていたこと、②現場において、Xに対し勤怠時間の管理や業務上の指揮命令を行う者は存在しなかったこと、③XがY社に対し毎日の作業時間を記載した勤務報告書を提出していたのは、報酬額が作業時間に連動していたためであること、④本件契約期間中、Y社を事業主とする社会保険に加入していなかったこと、⑤Y社は、従前、Xと雇用契約を締結していたが、Xが従事していたシステム開発支援業務の過程で知った顧客のソースコードやシステム構成情報の一部などを公開WEB領域にアップロードするという漏えい行為に及んだことから、当該雇用契約を解除し、その後、別の顧客との個別案件に限り業務を委託する趣旨で本件契約を締結したことが認められるから、Xは、Y社の指揮監督下において労務の提供をする者とはいえず、本件契約が雇用契約であるとは認められないから、本件賃金請求は理由がない。

珍しく労働者性が否定された事案です。

ここまで自由に、自らの裁量で仕事ができているのであれば、労働者性が否定されるのでしょうね。

労働者性に関する判断は難しいケースも中にはありますので、業務委託等の契約形態を採用する際は事前に顧問弁護士に相談することを強くおすすめいたします。

本の紹介1299 ビジネス書を読んでもデキる人にはなれない(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、本の紹介です。

今から10年前の本ですが、再度、読み返してみました。

タイトルのとおりの話が書かれていますが、まさにこの本自体が、多くのビジネス書同様、タイトルで煽って買わせるという手法を採用しております(笑)

ビジネス書を読んだだけでデキる人になれないことくらい、デキる人たちはみなわかっていることです。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

そもそも自己啓発本とは、畑にまく肥料のような本だと捉えています。読んだからといって、すぐに生活が豊かになるわけでも、業務スピードがアップして営業トークがうまくなるわけでも、職場の人間関係が劇的に改善されるわけでもありません。そうした短期的に結果が出るような効能ではなく、ジワジワと時間をかけながら、自分の思考の土台を柔軟にしたり、奥深くしたりするのを助けてくれる本だと思うのです。」(224頁)

そんなこと、わかっとるわ(笑)

誰も即効性があるなんて思っていませんから。

本を全く読まない人に比べたら、自己啓発本を読み漁っている人のほうが、格段に成長は早いでしょう。

すべて自分で経験しないと気が済まないなどと言っているようでは、時間がいくらあっても足りません。

先人の成功体験、失敗体験を読書により、ものの数十分で疑似体験ができるのですから、読書をしない理由が見当たりません。

労働時間79 タクシー運転業務の労働時間性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、タクシー運転業務の労働時間性に関する裁判例を見てみましょう。

洛東タクシー事件(京都地裁令和3年12月9日・労判ジャーナル122号1頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に勤務していたタクシー乗務員Xらが、未払いの時間外割増賃金があると主張して、Y社に対し、未払割増賃金及び付加金の支払を請求した事案である。

Y社は、乗務員らのタクシー乗車時間のうち、長時間の客なし走行などを労働時間から除外し、また、基準外手当の支給が割増賃金に当たると主張した。

【裁判所の判断】

請求一部認容(公休出勤手当を割増賃金算定基礎に含めないことを除き、請求認容)

【判例のポイント】

1 タクシー営業において、乗車希望の客を見つけるために、乗客なしに一定時間走行することは当然に想定されるところ、そのような時間であっても、乗車希望の客が見つかった場合には、当該客を乗せて走行することになると考えられる上、実際に、Xらは、それぞれが慣れた経路や地域を中心に、各自の経験に基づいて客を見つけることができると考える場所を「流し」で走行していたものであって、乗客なしの走行をしている間、Xらが行燈の表示を回送等にするなど、およそ客の乗車が想定されない状態にしていたことはうかがわれない

2 そうとすれば、Xらが、客を乗せることなく、長時間走行していたとしても、そのことから直ちに、当該時間について労働から解放されていたとは認め難く、むしろ乗車を希望する客がいた場合には、すぐに客を乗車させて運送業務を行うこととなるのであるから、当該時間についても労働契約上の役務の提供が義務付けられていたものであり、Y社の指揮命令下に置かれていたと認めるのが相当である。

まあ、そう解さざるを得ないでしょうね。

日頃から顧問弁護士に相談の上、労働時間の考え方について正しく理解することが肝要です。

本の紹介1298 「応援したくなる企業」の時代#2(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は本の紹介です。

今から10年前に紹介した本ですが、再度読み返してみました。

帯には「『売らない企業』が生き残る。」と書かれています。

今読んでも、特に違和感のない内容です。

コアな部分に関しては、10年前とあまり状況は変わっていないように思います。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

最大の違いは、多様性にある。高度成長期は、極端にいえば、みなが同じ方向を向く『十人一色』の時代だった。それが時代が進むにつれて、個々人の多様性を重視する『十人十色』となり、これからは『一人十色』といってもいいほどに、それぞれの個人のなかに多様な個人が同居している時代になるのだ。」(221頁)

日本は、個性とか多様性が尊重されない国ですが、そんな中でも、自分で自由に生きることを選択すれば、これほど楽しい時代はないと思います。

1つだけの仕事に固執する必要はなく、同時にいくつもの仕事をやっている方も決して珍しくありません(就業規則で副業が禁止されている方は別ですが)。

やりたいことをやりたいようにやる。

それが許される時代なのですから、思い切り好きなことをすればいいのです。

我慢して我慢して、気づいたら年老いていたなんて人生、まっぴらです。

人生は、すべて自分の準備と選択の結晶です。

不当労働行為291 組合が労組法の規定に適合せず、労組法上の救済を受ける資格を有しないとされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、組合が労組法の規定に適合せず、労組法上の救済を受ける資格を有しないとされた事案を見ていきましょう。

グランティア事件(東京都労委令和2年6月16日・労判1262号97頁)

【事案の概要】

本件は、組合が労組法の規定に適合するかが争われた事案である。

【労働委員会の判断】

労組法の規定に適合しない。
→申立て却下

【命令のポイント】

1 組合においては、役員以外の一般の組合員に組合の「すべての問題に参与する権利」があるとはいえず、役員は「組合員の直接無記名投票により選挙」されておらず会計報告は「組合員に公表」されていないから、労働組合法5条2項の要件を欠いている

2 加えて、組合の実態としても一般の個々の組合員が、組合を自主的に組織する主体であるということは困難であり、組合は、「労働者が主体となって自主的に・・・組織する」という労働組合法第2条の要件を欠いているといわざるを得ない。

3 したがって、組合が、労働組合法に規定する手続きに参与し、同法による救済を受ける資格を有するものであると認めることはできない

法適合組合とは認められないと判断された事案です。

労働組合との対応については、日頃から顧問弁護士に相談しながら進めることが肝要です。

本の紹介1297 40歳からの適応力#2(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、本の紹介です。

今から11年前に紹介した本ですが、再度読み返してみました。

将棋棋士羽生善治さんの本です。

著者が日頃、どのようなことを考えているのかがよくわかります。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

一時の評価というのは必ずしも当てにはならないとも思いました。自然に継続していきながら確実に身の丈を伸ばしていく。”急がば回れ”という言葉もありますが、このテーマについて考えると地道が一番と思えてなりません。」(59頁)

自然体で鍛錬を続けることがとても大切なのだと思います。

無理をしても長続きしませんし、嫌々やっても挫折します。

やはり一生懸命を楽しめる人が強いですね。

勤勉こそが結果を出し続ける秘訣なのだと思います。

休日に勉強をしている人と遊んでいる人で結果が同じわけがありません。

うさぎではなくかめのようにコツコツ地道に物事を進められる人が最後には勝つのです。

不当労働行為290 派遣元会社が、解雇の撤回等を議題とする団交申入れに応じなかったことが不当労働行為とされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、派遣元会社が、解雇の撤回等を議題とする団交申入れに応じなかったことが不当労働行為とされた事案を見ていきましょう。

アウトソーシング事件(中労委令和3年9月15日・労判1262号95頁)

【事案の概要】

本件は、派遣元会社が、解雇の撤回等を議題とする団交申入れに応じなかったことが不当労働行為にあたるかが争われた事案である。

【労働委員会の判断】

不当労働行為にあたる

【命令のポイント】

1 本件団体交渉申入れの交渉事項は、Aが会社に解雇されたものと理解した上で、①会社に対し解雇の撤回を求め、併せてこれに関する会社の見解の説明を求めるものとし、②会社に対し、Z社に働きかけてAの職場復帰を早期に実現させるように努めることを求め、併せてこれに関する会社の見解の説明を求めるものと解される。これらの交渉事項は、Aの待遇に関する事項で、かつ、会社が実行したり説明したりすることが可能なものであるから、義務的団交事項に当たる。
したがって、Aの雇用主である会社は、本件団体交渉申入れに対し、原則として速やかに団体交渉に応じて、労使双方が同席する場で、交渉事項に関する会社の立場ないし見解を組合に直接伝達して協議及び交渉を行う義務を負うものと解される。

2 会社は、Aを解雇しておらず、雇用契約が継続しているから、解雇の撤回という交渉事項は、会社が処分可能なものではなく、義務的団交事項に当たらないから、本件団体交渉申入れに応じなかったとしても、不当労働行為に当たらないと主張する。
しかし、解雇の撤回を求めるとの交渉事項は、義務的団交事項に当たる。しかるところ、会社は、Aとの雇用契約の途中解除に関する組合の認識が誤りであるというのであるから、本件団体交渉申入れに応じて、団体交渉の場で、組合に対し会社の見解を示して説明すべきであった。したがって、会社の上記主張は採用することができない。

解雇の撤回を求めるとの交渉事項が義務的団交事項に当たることは明らかです。

労働組合との対応については、日頃から顧問弁護士に相談しながら進めることが肝要です。

本の紹介1296 プロフェッショナルの働き方(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は本の紹介です。

今から10年前に出版された本ですが、再度読み返してみました。

変化の激しい時代における働き方のコツがわかります。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

発言がぶれるのはよくないこと。日本では一般的にそう思われているようです。しかし、現代のように環境が目まぐるしく変わる時代においては、変化に応じて柔軟に対応できることのほうが、むしろ重要だと私は思います。一貫性に価値を置きすぎるという日本人の傾向が重大な損失につながった例としては太平洋戦争が有名です。」(116頁)

これはよくありますね。

他人から「ぶれている」と評価されたくないばかりに、状況が変わっても、以前の判断を変えられないという人。

他人の評価が気になってしかたないのでしょうか。

状況によって意見を変えるのはむしろあるべき姿です。

他人の目、他人の評価ばっかり気にしているから、こういうしょうもないことが気になってしまうのです。

労働者性46 客室乗務員らの訓練契約の労働契約該当性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、客室乗務員らの訓練契約の労働契約該当性に関する裁判例を見てみましょう。

ケイ・エル・エム・ローヤルダツチエアーラインズ事件(東京地裁令和4年1月17日・労判1261号19頁)

【事案の概要】

本件は、オランダの航空会社であるY社との間で、契約期間を平成26年5月27日から平成29年5月26日までの3年間とする有期労働契約(以下「本件労働契約①」という。)及び契約期間を同年5月27日から令和元年5月26日までの2年間とする有期労働契約(以下「本件労働契約②」といい、本件労働契約①と併せて「本件各労働契約」という。)を締結し、客室乗務員として勤務していた各原告が、本件労働契約①の前にY社との間で締結した訓練契約が労働契約に該当し、Y社との間で締結した有期労働契約の通算契約期間が5年を超えるから、本件労働契約②の契約期間満了日までに被告に対して期間の定めのない労働契約の締結の申込みを行ったことにより、労働契約法18条1項に基づき、Y社との間で期間の定めのない労働契約が成立したものとみなされると主張して、Y社に対し、①期間の定めのない労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、②本件労働契約②の期間満了日の翌日である令和元年5月27日から本判決確定の日まで毎月末日限り36万9611円の賃金+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

地位確認認容

【判例のポイント】

1 本件訓練の内容は、EU委員会規則の要求する基準に準拠しつつも、Y社が作成した教材や被告独自のマニュアルに従い、Y社の航空機や設備等の仕様及びこれを踏まえて策定された保安業務や、就航する路線や客層に合わせたサービス業務等の内容に則ったものであり、他の航空会社と異なるY社に特有の内容を多分に含んだものである。
本件訓練は、訓練生が本件訓練に引き続いてY社において客室乗務員として就労することを前提として、そのために必要な知識や能力を習得するために実施されたものであって、Y社の運航する航空機に乗務する客室乗務員を養成するための研修であったと認められる。
また、Y社が各原告に対して本件訓練の訓練手当を支払うに当たって所得税の源泉徴収を行っていること、Y社が原告らに対して交付した推薦状や証明書において、原告らが客室乗務員としての稼働を開始した時期を本件訓練契約の始期と記載していること、⑧Y社が現在、日本人客室乗務員との間で、労働契約とは別個の訓練契約を締結することはせず、労働契約の締結後に本件訓練と同様の訓練を実施していること、いずれも、Y社において本件訓練を受講中の訓練生を労働者であると認識していたことを推認させるものである。
そうすると、本件訓練期間中、訓練生が正規の客室乗務員として乗務することがなかったとしても、本件訓練に従事すること自体が、Y社の運航する航空機に客室乗務員として乗務するに当たって必要不可欠な行為であって、客室乗務員としての業務の一環であると評価すべきであり、原告らは、Y社に対し、労務を提供していたと認めるのが相当である。

2 Y社の客室乗務員として乗務するためには本件スケジュールに従って本件訓練を受講し、これを修了するほかないのであるから、本件訓練期間中、原告らには訓練内容について諾否の自由はなく、原告らは、時間的場所的に拘束され、Y社の指揮監督下において本件訓練に従事していたこと、原告らに代わって他の者が本件訓練に従事することは想定されておらず、代替性もなかったことが認められる
したがって、本件訓練期間中の原告らは、使用者であるY社の指揮監督下において労務の提供をする者であったと認められる。

3 他方、Y社が、各原告に対し、本件訓練期間中、2週間ごとに1055ユーロもの日当を支払い、本件訓練終了後に訓練手当として18万8002円を支払い、これを所得税の源泉徴収の対象としていたこと、これらの合計には全ての法定の手当が含まれるとされていること、本件訓練が途中で終了した場合には、訓練生に支払われる訓練手当は、実際の訓練契約の長さに従って計算されるとされていることからすれば、上記の訓練手当及び日当の支払は、本件訓練に従事するという労務の提供に対する対償としてされたものであり、原告らは、労務に対する対償を支払われる者であったことが認められる。
以上によれば、本件訓練期間中の原告らは、労働契約法及び労働基準法上の労働者であることが認められるから、本件訓練契約は労働契約に該当するというべきである。

上記判例のポイント1、2の事情からすれば、労働者性、労働契約該当性が肯定されることは理解ができます。

労働者性に関する判断は難しいケースも中にはありますので、業務委託等の契約形態を採用する際は事前に顧問弁護士に相談することを強くおすすめいたします。