おはようございます。
今日は、派遣会社における同業他社への引抜き行為の違法性について見ていきましょう。
スタッフメイト南九州元従業員ほか事件(宮崎地裁都城支部令和3年4月16日・労判1260号34頁)
【事案の概要】
本訴:X社は、X社の従業員であったYが、Yの設立したZ社と共謀の上、X社に在職中、X社の他の従業員をZ社に引き抜いたと主張し、Yに対しては不法行為又は債務不履行に基づき、Z社に対しては不法行為に基づき、損害賠償金2513万0595円+遅延損害金の支払を求めた。
反訴:Yらは、X社が、Yの名誉及びZ社の信用を毀損する行動を行っていたと主張し、X社に対し、不法行為に基づき、損害賠償金+遅延損害金の支払を求めた。
【裁判所の判断】
1 Y及びZ社は、X社に対し、連帯して315万5587円+遅延損害金を支払え。
2 X社は、Yに対し、77万円+遅延損害金を支払え。
3 X社は、Z社に対し、110万円+遅延損害金を支払え。
【判例のポイント】
1 前提として、登録状態スタッフは、そもそもX社の従業員ではないこと、派遣スタッフは、より良い待遇やより多くの就業先の可能性を求め、複数の派遣元企業に登録するのが通常であることから、債務不履行又は不法行為が問題となる引き抜き行為の対象にはならない。
2ー1 本件で問題となっている引き抜き行為は、いずれも派遣先企業を変えずに、派遣元企業だけを変えたというものである。
このような場合、X社は、まずは、当該派遣スタッフの派遣料相当額の売上げを失うことになる。これに加え、当該派遣先企業のスタッフ受け入れ可能人数には上限があると考えられることから、X社が、当該派遣先企業へ代わりの派遣スタッフを派遣することが不可能になる可能性が高くなる。
そのため、X社から移籍してきた派遣スタッフをX社在籍時と同じ派遣先企業へ派遣する行為は、X社に対する影響が大きい。
2-2 Z社は、YがX社に在職中の平成30年8月1日から4名の雇用スタッフをQ3に派遣し、収益を上げている。被用者は、会社に在職中は雇用契約上、職務専念義務を当該会社に対して負っているので、当該会社が副業を認める等の特段の事情がない限り、実際に収益を上げることは許されない。
そうすると、Yが、X社在職中に、Z社を設立し、実際に収益を上げていた事情は、行為の悪質性を基礎づける。
2-3 Yは、勧誘の際、派遣スタッフに対し、X社とは話がついているかのような話をし、他方で、X社には内密にするよう依頼し、派遣先企業に対しても、派遣スタッフの移籍は、X社も了承済みであるかのような言動を行っている。
勧誘を受けた派遣スタッフにとっては、自身に対する待遇が最も大きな関心事であることは否定できないが、派遣先企業を変えることなく派遣元企業が変わることについては、従前雇用契約を締結していた原告との関係を気にして、原告による了承があるかは相当程度関心を持つのが通常であると考えられる。現に、P6も、X社と被告らとの間で、派遣スタッフの移籍について話がついていたと聞いたことが、移籍の決断をする理由となった旨供述している。
また、派遣先企業にとっても、派遣スタッフを従前派遣してくれていたX社との信頼関係の問題から、X社による了承があるかは大きな関心事であると考えられる。
そうすると、派遣スタッフ及び派遣先企業に対するYの言動には、問題があるといわざるをえない。
2-4 Q2営業所の雇用スタッフ及び粗利は、平成30年6月は163人、648万0065円であったのに対し、同年9月は133人、331万4543円であり、被告らによる引き抜き行為の前後でそれぞれ減少していることに照らすと、被告らによる引き抜き行為がX社に与えた影響は軽視することができない。
3ー1 被告らがX社に対する負の印象を喧伝し派遣スタッフを移籍させたものではないこと、Yがスタッフナビゲーターの情報を持ち出して引き抜き行為を行っていたわけではないこと、X社よりも良い待遇をうたって派遣スタッフを勧誘すること自体は問題がないこと、平成30年6月から8月は、Q2営業所の粗利率は、Q2営業所の従業員の中ではP7が担当する企業が一番高く、Yが粗利率の高いところを狙って引き抜き行為を行ったとは認められないことなどといった事情を考慮しても、本件の引き抜き行為は社会的相当性を逸脱しているといわざるを得ない。
よって、Yは、引き抜き行為について債務不履行又は不法行為責任を負う。
3-2 また、Z社は、Yにより設立され、Yが代表取締役を務めることから、Z社の行為とYの行為は一体といえ、Z社は、引き抜き行為によって、経済的利益を得ている立場にある。
よって、Z社は、Yと共謀の上、社会的相当性を逸脱した引き抜き行為を行っていたものと認められ、不法行為責任を負う。
4ー1 これらの文書中の「重大な非違行為」、「当社の事業に対して、重大な悪影響を及ぼしております」、「当社の従業員及び当社の取引先に対して、真実と異なる内容の説明を行う等をしていた」、「Y氏に対し懲戒解雇を申し渡しております」、「Y氏及びZ社は、当社が長年月をかけて構築した、このような有形・無形の資源を理由なくして侵奪しております」、「Y氏は、・・・当社の基幹システムである「スタッフナビゲーター」に保管されている顧客情報および個人情報を無断で持ち出し勝手に利用していた」等の記載は、既知の事実ということはできず、その事実の有無に関係なく、経済活動を営んでいく被告らの社会的評価を低下させるものであることは否定することができない。
4-2 上記文書に記載された内容は、X社と対立関係にある小規模な一企業にすぎないZ社及びその代表者であるYに関する事実及びその評価にすぎず、公共の利害に関する事実ということはできない。
4-3 また、その記載内容も被告らを誹謗中傷するものであり、およそ公共の利害に関するものということはできない。
4-4 また、配布された文書に記載された情報が公共の利害に関するものということはできない。その上、「Y氏からZ社へ派遣契約を切り替えるよう勧誘されたとしても、一切取り合わないようお願い申し上げます」などといった記載からは、公益を図るためというよりは、X社の経済的利益を守るために、X社は文書の配布を行ったと認められる。
4-5 さらに、配布した文書の真実性については、Yを懲戒解雇した事実や、Yがスタッフナビゲーターに保管されている顧客情報及び個人情報を無断で持ち出して勝手に利用していた事実は、真実ではなく、これを真実と信じたことに関する正当な根拠もない。
よって、公共の利害に関する事実、公益を図る目的、内容の真実性に関しては、X社の主張を認めることはできず、これらを理由とする違法性阻却事由は認められない。
4-6 また、X社は、被告らの引き抜きを受けて、自身の経済的損失を最小限に食い止めるために、派遣スタッフや派遣先企業に文書を配布せざるを得なかった旨主張する。
しかし、X社が派遣スタッフや派遣先企業に配布した文書は、被告らを誹謗中傷する内容を含んでいるものであり、それが複数回にわたり配布されていることなどに照らすと、相当性があるとは認められない。
4-7 以上より、X社の主張する違法性阻却事由は認められず、X社は、被告らの被った損害につき、不法行為に基づく損害賠償責任を負う。
本件は、派遣会社に関する紛争ですが、決して派遣業界特有の問題ではありません。
特に注意が必要なのは、上記判例のポイント4-1~7です。
引抜き行為発覚後、被害会社としての対応を誤ると、名誉毀損、業務妨害等を理由に損害賠償請求の反訴を起こされてしまいます。
感情的にならず、慎重に対応することが求められます。
引抜き行為の問題については顧問弁護士に相談をし、慎重に対応を検討してください。