おはようございます。
今日は、リハビリ期間中の賃金請求の可否に関する裁判例を見てみましょう。
ツキネコ事件(東京地裁令和3年10月27日・労判ジャーナル121号46頁)
【事案の概要】
本件は、Y社との間で労働契約を締結し、休職していたXが、Y社に対し、インク班インク製造チームへの復職命令を受けたが、同命令が違法であるとしてこれに応じずに復職後の配属先の変更を求めて出勤しなかったところ、Y社から解雇されたため、同解雇が無効であるとして、労働契約に基づき、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、上記復職命令以降Y社がXの労務提供を受領拒絶したとして、また、休職中に行った復職に向けたリハビリが労務の提供に当たるとして、労働契約に基づき、未払賃金等の支払を求めたほか、Y社の代表取締役であるCがXに対して違法な退職勧奨を行ったとして、損害賠償金約823万円等の支払を求めた事案である。
【裁判所の判断】
請求棄却
【判例のポイント】
1 Cは、リハビリの経過を観察することのほかに、リハビリを通じて本人の適性を受け入れさせること、経営がNグループに替わったことを理解させることなどの目的で、7か月余りの間にXと21回の面談を行い、その間、たびたびY社を退職して別の会社で働く選択肢もある、復職したら嫌なこともあると予想されると話すなどしており、Xに対して複数回にわたって退職勧奨を行ったことが認められるが、Xは、Cに対し、退職勧奨をも明示的に拒絶したことはないし、CもXの復職には応じない、Xを辞めさせるなどと明言したことはないことから、Cによる退職勧奨の頻度、回数はやや多いとはいえるものの、Cの退職勧奨がXの自由な意思形成を阻害したとは認められず、現に、XはCの退職勧奨に応じていないし、CもXに対して復職命令を発していること等から、Cによる退職勧奨は違法とは認められない。
2 Xは、リハビリ作業期間中、休職を前提として、傷病手当金を受給しており、傷病手当金は、「療養のため労務に復することができないとき」(健康保険法99条1項)に支給されるのであるから、Xがこのような手当を受給している以上、リハビリ作業が債務の本旨に従った労務の提供であるとは認められず、また、Xのリハビリ開始に先立つ平成30年8月8日、X、C及びKで行われた面談の際、リハビリ期間中は傷病手当金を受給し、リハビリを経て復職となり、その時点で給与が発生することが話し合われており、リハビリ期間中は無給であることが合意されたと認められるから、Xは、リハビリ期間中、債務の本旨に従った労務の提供をしたとは認められない上、その期間中は無給であることが合意されたのであるから、Xのリハビリ期間中の賃金請求を認めることはできない。
休職期間中に、復職の可否を判断するために、リハビリ出勤が行われることがありますが、その際に賃金支払義務の有無が争点となることがあります。
ポイントとしては、「債務の本旨に従った労務の提供」に該当しないように留意するという点です。
リハビリ出勤をさせる場合は、顧問弁護士の助言の下に慎重に進めることをおすすめいたします。