おはようございます。
今日は、採用内定成立は否定されたが、期待権侵害による損害賠償は認められた事案を見ていきましょう。
フォビジャパン事件(東京地裁令和3年6月29日・労経速2466号21頁)
【事案の概要】
本件は、Xが、①主位的に、Y社との間で解約留保権付労働契約(採用内定)が成立しており、Y社による採用内定の取消しが無効であると主張して、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、当該労働契約に基づく令和元年3月分から判決確定日までの賃金月額39万円+遅延損害金の支払を求め、②予備的に、Xの労働契約締結に対する期待は法的保護に値する程度に高まっていたものであり、その後、Y社が従前提示した賃金では採用しない旨を一方的に通告したことによりXY社間の労働契約が成立せず、Xが収入を失うなどの損害を被ったと主張して、不法行為(期待権侵害)に基づき、Y社に対し、損害賠償金422万4000円+遅延損害金の支払を求める事案である。
【裁判所の判断】
Xの主位的請求をいずれも棄却する。
Y社は、Xに対し、59万4000円+遅延損害金を支払え。
【判例のポイント】
1 当時、従業員の採用を決定する権限はAにあり、Bはその権限を有していなかったものと認められる。
そして、①平成31年1月21日にXがBに対しY社へ転職したい旨を告げた際、Bが、Xに対し、採用に当たり、Y社の現場責任者及び会長(A)との面接を受けることになる旨を説明したこと、②一次面接の後、BがXに対し同面接の結果が良好であった旨を告げた際にも、Aとの面接が不要である旨の発言はしていないこと、③同年2月に入った後、Xが、Eとの間で、Aとの面接について言及し、「傾向と対策」を要望したことに照らすと、同年1月31日の時点で、Xは、Bが従業員採用について自ら決定する権限を有していなかったことを認識していたものと認めるに十分であり、Y社は、Xに対し、Bの代表権に加えた制限を対抗することができるというべきである(会社法349条5項の反対解釈)。
したがって、Bの行為によりXとY社との間で解約留保権付労働契約が成立したとはいえず、Xの上記主張は採用することができない。
2 Y社の代表取締役であるBは、①平成31年1月21日、Y社への転職を希望したXに対し、採用された場合の給与が当時b社から得ていた給与(月額34万円)を上回る月額39万円となることをいわゆる定額残業代部分の有無も含めて明言し、②同月31日、Y社の現場責任者であるCらとの面接(一次面接)を終えたXに対し、同面接の結果が良好であった旨を告げるとともに、就業開始の具体的日程について言及しており、採用に関し確度の高い発言をしたものということができる。また、③それまで、b社から複数の従業員がY社に転職しており、Aとの面接の結果転職に至らなかった事例も存在せず、④b社からY社に転職した従業員の一人であるEは、一次面接の後、b社を退職した際の手順を尋ねたXに対し、Xも同様に採用されるであろうとの認識から、即座に、「明日Fさん、Gさんに辞意を表明してください」と具体的な手順を教示している。そして、Xは、これらの結果、それまでの待遇を上回る条件でY社に採用されることが確実であるとの認識を抱き、b社に対し退職届を提出したものと認められる。
以上の経過を踏まえると、Y社から書面等による正式な採用の通知はなされておらず、Xにおいても採用に至るにはAとの面接が必要であることを認識していたと認められることを踏まえても、上記のXの認識(期待)は法的保護に値するものというべきであり、Y社が、Xがb社を退職する直前(在籍最終日の2日前)になって、Bの提示(給与月額39万円)説明を覆し、それまでの待遇(給与月額34万円)をも下回る条件(給与月額30万円)を提示したことは、Xの期待権を侵害するものであって不法行為を構成する。
よく内定取消しで問題となる「期待権侵害」ですが、本件では、採用内定の成立自体は否定されましたが、期待権侵害は認められました。
なお、期待権侵害の場合は、通常、逸失利益までは認められず、慰謝料として本件同様の金額が認められることが多いです。
内容取消しをせざるを得ない場合には、事前に必ず顧問弁護士に相談するようにしましょう。