Daily Archives: 2022年3月2日

労働災害110 下請企業従業員の業務中の事故につき、元請企業の責任が否定された事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、下請企業従業員の業務中の事故につき、元請企業の責任が否定された事案を見ていきましょう。

岡本土木・日鉄パイプライン&エンジニアリング事件(福岡地裁令和3年6月11日・労経速2465号9頁)

【事案の概要】

本件は、Xがガス管敷設工事の現場監督をしていた際に、バックホーで吊された鋼矢板が落下した後、倒れてXの頭部に当たった事故について、同工事の元請企業であるY1及び同工事の下請企業でありXの使用者であるY2にそれぞれ安全配慮義務違反があるなどと主張して、債務不履行又は不法行為に基づき、連帯して損害賠償+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

Y2は、Xに対し、607万9539円+遅延損害金を支払え

Y1に対する請求は棄却

【判例のポイント】

1 元請企業と下請け企業の労働者との間には、直接の労働契約はないものの、下請け企業の労働者が労務を提供するに当たって、元請企業の管理する設備、工具等を用い、事実上元請企業の指揮監督を受けて稼働し、その作業内容も元請企業の労働者とほとんど同じであるなど、元請企業と下請企業の労働者とが特別な社会的接触関係に入ったと認められる場合には、労働契約に準ずる法律関係上の債務として、元請企業は下請企業の労働者に対しても、安全配慮義務を負うというべきである。

2 これを本件についてみると、本件事故発生時に使用されたバックホーは、Y2が手配したものであり、本件鋼矢板を吊るクランプは、Q2が用意したものであって、Y2の管理するものではなかった。また、本件鋼矢板をバックホーで吊るして運搬するという作業の選択をしたのはY2であって、Y1が指示したものではないし、Y1がY2ないしQ2の労働者の作業に関して、指揮監督を行っていたものと認めるに足りる証拠はない。また、Y1の従業員に、具体的な作業に従事する者もおらず、XとY1の従業員とでは、作業内容も異なっていた。
したがって、Y1とXとが「特別な社会的接触の関係」に入ったものと認めることはできず、Y1はXに対して安全配慮義務を負わない

3 XはY2の作業責任者であり、RKY活動を中心となって行う立場として、また本件作業全体を直接監督する立場として、特に安全を遵守すべき立場にあったこと、Xは約21年5ヶ月程度の工事経験を有しており、重機の旋回範囲内に入らないという注意については、これまで何度も受け、自己も行ってきたこと、それにもかかわらず、Xは、これに背き、作業を一旦止めるなどといった措置もとらず、重機の旋回範囲に立ち入るという重大な不安全行動をとったこと、その他本件証拠により認められる諸事情を総合考慮すると、Xがとった行動には重大な過失があるといわざるを得ず、Xの損害額について6割の過失相殺をするのが相当である。

元請責任が発生する場合について、上記判例のポイント1の考え方は理解しておきましょう。

本件では、元請会社の責任は否定されています。

日頃の労務管理が勝敗を決します。日頃から顧問弁護士に相談することが大切です。