賃金221 タイムカードの代行打刻と降格・懲戒解雇の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、タイムカードの代行打刻と降格・懲戒解雇の有効性に関する裁判例を見ていきましょう。

ディーエイチシー事件(東京地裁令和3年6月23日・労判ジャーナル117号52頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であったXが、Y社に対し、①平成30年5月1日付けでされた降格の懲戒処分及びその後にされた減給、並びに、同年7月2日付けでされた懲戒解雇がいずれも無効であるとして、雇用契約に基づき、本件減給前の賃金月額124万円で計算した同年7月支給分の未払賃金残額3万4571円、同月額で計算した同年8月支給分からXがY社を定年退職となる令和元年11月20日までの未払賃金合計1984万円(124万円×16か月=1984万円)、平成30年12月及び令和元年6月に208万円ずつ支給されるはずであった未払賞与合計416万円、及び、上記各元本に対する各支払期日の翌日から同年11月25日までの遅延損害金合計93万8546円(計算については別紙1のとおり。)の合計2497万3117円+遅延損害金の支払、②雇用契約に基づき、退職金156万円+遅延損害金の支払、③本件懲戒解雇が違法であるとして、不法行為に基づき、損害賠償金110万円(慰謝料100万円と弁護士費用10万円の合計)+遅延損害金の支払、④Xが株式会社aの取締役に就任した平成30年9月25日をもってXY社間の雇用契約が終了したと解されて第1項の一部が棄却された場合の予備的請求として、本件懲戒解雇が違法であるとして、不法行為に基づき、損害賠償金1498万2000円(同日からXがY社を定年退職となる令和元年11月までに支払を受けられたはずの給与及び賞与の合計額2131万3333円から、定年退職日となる同月20日までにa社から支払われた報酬合計873万3333円を差し引いた残額1258万円、平成30年9月25日時点での退職金の額と定年退職時の退職金額との差額104万円及び弁護士費用136万2000円の合計)+遅延損害金の支払を、各求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社は、Xに対し、1255万9315円+遅延損害金を支払え。

Y社は、Xに対し、156万円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 Y社は、部下にタイムカードの代行打刻を行わせていたことを理由として、Xを本件事業部の部長から次長に降格する懲戒処分(本件降格)を行っているところ、Y社では、就業規則(就業規則、賃金規程等は、本件事業部の従業員らに実質的に周知されていたと認めるのが相当である。)には、出退社の際は本人自ら所定の方法により出退社の事実を明示する旨規定されていたのであるから、Xの上記取扱いはY社の上記就業規則の規定に違反し、Y社による従業員の労働時間管理を妨げるものとして、Y社の業務に支障を生じさせ得るものであったというべきである。そして、本来、部下らに規則を守らせるべき本件事業部長であるX自らが部下に上記代行打刻を行わせていたこと、本件事業部の他の従業員らにも同様の代行打刻がみられ、Y社として本件事業部内の規律を正す必要があったことも考慮すれば、後に判示するXの不利益に鑑みても、Y社が本件降格を行ったことは、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないとはいえず、本件降格が懲戒権の濫用として無効となるものとは認められない。
よって、本件降格は有効である。

2 次に、本件降格が有効であるとしても、本件減給については別途労働契約上の根拠が必要であるところ、役付手当については、賃金規程において、部長は月額20万円、次長は月額15万円と明確に定められているから、本件降格に伴い、賃金規程の上記規定に従って役付手当を減額したことは、有効である。
他方、基本給については、XY社間の雇用契約書にはその減額の根拠とすべき規定はなく、賃金規程にも、第3条に雇入れの際の初任給の決定に関する規定があるのみで、雇用継続中の基本給の減額を基礎づける規定は見当たらない。そうすると、本件減給のうち基本給の減額については、労働契約上の根拠なくされたものといわざるを得ず、これに対するXの同意も得られていない以上、無効といわざるを得ない。
以上によれば、本件降格及び本件減給のうち役付手当の減額については有効であるが、本件減給のうち基本給の減額については、労働契約上の根拠を欠き無効である。

上記判例のポイント2は注意が必要です。

仮に降格が有効であったとしても、基本給の減額に関する根拠規定が存在しない場合には、当然には減額はできません。

手続きを進める際は、必ず事前に顧問弁護士に相談をし、慎重に対応しましょう。