Monthly Archives: 12月 2021

本の紹介1225 盾と矛(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は本の紹介です。

サブタイトルは、「2030年 大失業時代に備える『学び直し』の新常識」です。

2021年時点においてもすでにルーティンの要素が強い仕事は徐々になくなってきています。

本当は自動化・機械化したほうが効率は格段に良いけれど、いまだに人がやっている理由は、単にそちらの方がコストが安いからです。

つまり、自動化・機械化のコストが下がれば、その仕事が消滅することは明らかです。

この状況を理解していない人、理解していても準備しない人がまだまだ多いので、今から準備をしてもまだ間に合います。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

グローバル競争に晒されている企業は、業務遂行能力の低下した社員に高い給料を払い続けることはできません。労働分配率を考えれば、年齢を問わず優秀な人により多く払わなければ、優秀な社員ほど辞めてしまい競争力が低下してしまうからです。」(25~26頁)

昔ながらの能力度外視の年功序列の賃金体系は、安定こそしていますが、若くて優秀な人材が集まるわけがない仕組みです。

優秀な人材は、安定など求めていないからです。

なぜか?

稼ぐ自信があるからです。

そのための努力をしているからです。

現状に危機感を感じなくなったら、終わりの始まりかもしれませんね。

解雇355 横領を理由とする解雇の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、横領を理由とする解雇の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

小市モータース事件(東京地裁令和3年4月13日・労判ジャーナル114号40頁)

【事案の概要】

本件は、第1事件において、Y社との間で労働契約を締結していたXが、Y社がXに対してした解雇が無効であると主張して、Y社に対し、労働契約に基づく未払賃金として約217万円等の支払いと、Y社がした解雇が不法行為に当たるとして、不法行為に基づく損害賠償請求権として480万円等の支払を求め、第2事件において、Xが、Y社の代表者取締役であるBに対し、BとY社は実質的に同一であり、Y社は完全に形骸化しているから、その法人格は否認されるべきであると主張して、労働契約に基づく未払賃金として約217万円等の支払いと、解雇が不法行為に当たるとして、不法行為に基づく損害賠償請求権として480万円等の支払を求めるとともに、仮に法人格の否認が認められないとしても、Bは、Y社がXに賃金及び割増賃金を支払わなかったことや、違法に解雇したことについて、Y社の取締役としての任務懈怠があるとともに、民法709条の不法行為責任も負うと主張して、会社法429条1項ないし民法709条に基づく損害賠償請求権として、約697万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

解雇無効

未払賃金請求一部認容

損害賠償請求一部認容

【判例のポイント】

1 Y社における本件解雇は、単に解雇として無効というだけでなく、Xから何ら弁解を聴くことなく、十分な裏付けもとらずに会社財産を横領したものと一方的に決めつけ、Xの名誉を著しく損なう内容を記載した本件解雇辞令を、他の従業員の目にも触れるY社の本店内に掲示するという著しく不相当な方法で告知するという方法で行われるなど、著しく社会的相当性を欠いたものであり、その後、XにY社での就労を断念せざるを得ないような実力行動にも及んでいることも考慮すると、本件解雇は、違法にXの権利または法律上保護された利益を侵害するものとして、それ自体不法行為を構成すると認められる。

事前に弁護士や社労士に、解雇手続の進め方を相談できる状況にないのでしょうか。

これでは勝てるものも勝てません。

解雇をする上で必要なプロセスについては、事前に必ず顧問弁護士に相談するようにしましょう。

本の紹介1224 人生を変えるアウトプット術#2(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。

2年前に紹介をした本ですが、再度読み返してみました。

私は、成長はアプトプットの量に比例すると考えているので、まさに人生を変えたければアウトプットの量を増やすことです。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

副業が本業を超えた場合、どちらが本業でどちらが副業かわからなくなってしまうが、そのほうが自分の思い通りの人生を創造できることに気づかされたのだ。現在の私は独立して10年と少し経つが、三足の草鞋を履いている。・・・トータルの労働時間は減っているのに、トータルの収入は増え続けている。」(139頁)

人類が誕生して、これほど自由な生き方が許容されている時代があったでしょうか。

自分が選択さえすれば、どのように生きることも可能です。

仕事のしかたも例外ではありません。

労働法の適用がある人を除けば、いくつ職業を持ち、何時間働こうが自由です。

本業も副業もなく、ただやりたいことをやる。

そんな生き方が許容されている時代です。

賃金218 就業規則等に規定されていない能力給の請求は認められるの?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、未払能力給支払請求の可否に関する裁判例を見てみましょう。

白鳳ビル事件(東京地裁令和3年4月23日・労判ジャーナル114号30頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元従業員Xが、Y社に対し、網膜剥離等にり患していたXに無理な職場復帰を求めるなどといった安全配慮義務違反がY社にあり、これにより損害を被ったとして、慰謝料等の損害合計約167万円等の賠償金の支払、雇用契約に基づき、平成30年6月21日から同年7月16日までの管の就労に係る能力給約2万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xは、Y社との間の雇用契約では、偶数月の末日に能力給が支払われることが合意されていた旨主張するが、Y社の就業規則やXが同意したとして署名した本件説明書には能力給との名称の賃金についての規定がなく実際にもXに対し能力給との名称の賃金は支払われていないから、XとY社の間の雇用契約において、能力給との名称の賃金が支払われることが合意されていたとは認められず、また、Xは、賞与の支払を求めるものとも思われるが、Y社では、賞与の支払については、Y社の業績や従業員の貢献度を基にしてY社の裁量により査定をして金額を定めるものとされているところ、査定の結果は明らかではなく、賞与の具体的な金額を算定することができず、また、賞与については支払日である偶然月の末日に在籍した従業員に対してのみ支払われるものとされているところ、Xが支払を請求する平成30年6月21日から同年7月16日までの間の賞与の支払日は同年8月31日と解されるが、Xは、同日より前の同年7月17日にはY社を退職しており、これにもかかわらず賞与の支払の請求を認めるべき事情を本件証拠上見出せないから、Xは、Y社に対し、能力給ないし賞与の支払を請求することはできない

これではどうしようもありません。

口頭でそういう話を聞いたというだけでは、裁判に勝つのは難しいです。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理をすることが肝要です。

本の紹介1223 富を築く技術#2(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は本の紹介です。

3年前に紹介をした本ですが、再度読み返してみました。

まさに王道の内容が書かれております。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

何ごとにもすぐ取りかかろう。必要なら、昼も夜もなく、時季を問わず、あらゆる手を尽くしていまできることを、1時間たりともぐずぐず引き延ばしてはならない。・・・やるべきことを徹底的に実行して富を築く者もいれば、ものごとを中途半端にしかできず、貧乏にとどまる者もいる。意欲や活力に満ちていること、勤勉であること、粘り強いことは、ビジネスで成功するために不可欠な要素である。」(85~86頁)

「秘訣」なんてものは、いつだってシンプルです。

「そんなこと知ってるよ」という内容です。

結果が出ないのは、その当たり前とされていることをやり続けないからです。

途中で辞めてしまうから結果が出ないのです。

この事実もまた、多くの人にとっては「そんなこと知ってるよ」という内容です。

結果を出す方法は簡単です。

その方法をやり続けるのが難しいのです。

競業避止義務29 取引先奪取行為等を理由とする未払退職金請求(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、取引先奪取行為等を理由とする未払退職金請求に関する裁判例を見てみましょう。

ユフ精器事件(東京地裁令和3年3月30日・労判ジャーナル114号48頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元従業員Xが、本訴として、Y社に対し、退職金規程に基づき退職金約685万円等の支払を求め、これに対し、Y社は、反訴として、Xに対し、取引先を違法に奪い、在庫品を無断で搬出するなどの違法行為をしたとして、不法行為による損害賠償請求権に基づき損害約4619万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

本訴退職金請求認容

反訴損害賠償請求棄却

【判例のポイント】

1 Y社はXが本件4病院に対し、取引先を変更するよう社会通念上自由競争の範囲を逸脱した方法で働きかけた旨主張するが、社会通念上自由競争の範囲を逸脱した方法で働きかけたことを認めるに足りる証拠はなく、そして、M記念病院以外の病院、医療センター及び脳神経センターについては、Xが取引先を変更するよう働きかけたことを認めるに足りる証拠はないから、Y社の主張を認めることはできない。

2 Y社は、Xが、本件搬出行為、本件販売行為及び本件取引先奪取行為という一連の行為を行ったことにより、本件4病院は、Y社との取引を終了させたと主張するが、Xは、本件取引先奪取行為をしたと認めることができず、そして、Y社の方で、Xが退職することとなった後に本件4病院に対して積極的な営業活動を行ったことは認められず、かえってY社は、東京警察病院に対してXと連絡を取らないように求める書面を差し入れるなどしてY社の社内に紛争を抱えていることをあえて同病院に知らせてその印象を悪化させる行動にすら及んでおり、これらの状況に照らせば、本件4病院がY社との取引を終了したことは、かえって専らY社のフォロー不足が原因であると推認することができ、本件搬出行為及び本件販売行為と本件4病院がY社との取引を終了させたこととの因果関係を認めることはできないから、Y社の前記主張を認めることはできず、Y社の反訴に係る損害賠償請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。

顧客は、会社ではなく担当者につくのは、美容師やキャバ嬢に限った話ではありません。

その結果、担当従業員が退職することによって、「顧客を奪われた」ように見えてしまうことは多々あります。

しかしながら、著しく不相当な事情がない限り、裁判所は「自由競争」を重んじます。

競業避止に関する裁判は、多くの場合、会社に不利な結果となりますのでご注意ください。

競業避止義務の考え方については顧問弁護士に相談をし、現実的な対策を講じる必要があります。

本の紹介1222 それ、勝手な決めつけかもよ?(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。

サブタイトルは、「だれかの正解にしばられない『解釈』の練習」です。

さまざまな理由から同調圧力に屈しながら生活せざるを得ない方は決して少なくありません。

だれかの正解や正義を押し付けられない生き方こそが「自由」というものです。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

ペストの流行があった1665年。ケンブリッジ大学が一時休校。結局、2年間に及ぶ休校となった。ニュートンはその間に、万有引力の法則を発見した。さらに僕が驚いたのは、ニュートンが『休校期間』のことを『創造的休暇』と呼んでいたことだ。今はこの先に向けて、何かを創造する時間でもある。」(15頁)

これは、著者がコロナ真っ只中で書いた内容です。

タイトルにもあるとおり、「それ、勝手な決めつけかもよ」ということに気付けるかどうかがとても大きいです。

「自分にはどうせできない」という決めつけが多くの場合、見えない首輪となっています。

ほんとはそんな首輪、存在しないのに。

ある人は「どうせ無理」と思い、ある人は「どうせできる」と思うのです。

どうせ勝手な決めつけをするのなら、自分の価値が向上する解釈をしましょう。

「どうせ無理」と考えて、何か物事が好転することはありません。

解雇354 解雇前の出勤停止期間につき賃金支払義務が認められた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、懲戒解雇を有効としつつ、解雇前の出勤停止期間につき賃金支払義務が認められた事案を見てみましょう。

JTB事件(東京地裁令和3年4月13日・労経速2457号14頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と期間の定めのない雇用契約を締結していたXが、出張旅費や会議打合費、交際費を不正受給したことを理由に懲戒解雇されたことについて、懲戒解雇は解雇理由の一部を欠く上、不正受給額が高額でないことなどに照らすと、上記懲戒解雇は社会通念上相当とはいえず解雇権を濫用したものとして無効であると主張して、Y社に対し、雇用契約に基づき、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、平成31年2月分から同年4月分までの未払賃金として81万8320円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

解雇有効

Y社はXに対し、81万8320円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 本件における経費の不正受給行為の悪質さの程度や、XがこれによってQやY社の秩序に与えた悪影響の程度に照らすと、諭旨退職に応じるか否かを決断するために与えられた猶予期間が数日しかなく、退職金の額も告げられなかったからといって、適正手続に反するということはできない。

2 本件出勤停止命令は、本件就業規則118条に基づき、本件における経費の不正受給の調査やこれに関する懲戒審査の円滑な遂行のために業務命令として出されたものであって、懲戒処分ではないし、これに引き続いてされた賃金の一部不払いも、正当な理由が認められない賃金の不払いであって問題はあるものの、懲戒処分としてされたものではない。したがって、本件懲戒解雇は、実質的にも二重処罰に当たるものではない。

3 Y社は、給与未払について、Xが長期間・多数回に及ぶ不正受給を行っており、その態様等も考慮すると出勤させた場合には証拠隠滅のおそれがあったことから、出勤させなかったものであり、Y社によって労務の提供を拒んだことについて「債権者の責に帰すべき事由」(民法536Ⅱ)があるとはいえず、Y社には本件出勤停止命令以後の賃金の支払義務はないと主張する。
しかしながら、本件の不正受給に係るゴルフの相手方や、不正受給に当たって飲食等の相手方と偽って申請された者は、Q外の者であり、XがQに出勤したとしても、自宅待機の場合に比べて、口裏合わせ等の証拠隠滅等のおそれが高まるとは考え難い。本件で、Xの出勤を禁止しなければならない差し迫った合理的な理由があったとまでは認め難いといわざるを得ない。
本件出勤停止命令は、本件不正受給の調査やこれに関する懲戒審査の円滑な遂行、職場秩序維持の観点から執られたものではあるものの、なおY社の業務上の都合によって命じられたものというべきであり、Y社は、本件出勤停止命令後も賃金支払義務を免れないというべきである。

上記判例のポイント3は悩ましいですね。

本件事案において、自宅待機命令が明らかに不当であると現場で判断するのは極めて困難であると思います。

とはいえ、裁判所の判断は理解できるところですので、参考にしてください。

解雇をする上で必要なプロセスについては、事前に必ず顧問弁護士に相談するようにしましょう。