Monthly Archives: 11月 2021

本の紹介1216 金持ち列車、貧乏列車(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は本の紹介です。

なかなかのタイトルですが、内容はど正論が書かれています。

サブタイトルは「成功者だけが持つ『切符』を手に入れる方法」です。

日頃、どのようなことをすればいいのか、また、どのようなことをすべきではないのかがよくわかります。

おすすめです。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

多くの親は、子どもたちを間違った列車に乗せています。本当は起業したいと思っている子どもがいたとしても、親は『安定しているから』という理由で『公務員列車』に乗せます。・・・お金持ちになれない人の9割は、ほかの人が『乗れ』と言った列車に乗っています。そもそも、自分の目的地に向かわない電車に乗っているのです。・・・乗っている列車がお金持ち列車ではないことに気づいたら、一刻も早く降りてください。何より怖いのは、間違った電車に乗り続けることによって、降りる気持ちがなくなってしまうことです。」(32~33頁)

可愛い子には旅をさせよとはよく言ったものです。

旅をせずに20年、30年と「安定」列車に乗り続けてきた人が、ある日突然、リスクテイクできるでしょうか。

まさしく列車を降りる気持ちもなくなり、また、列車の乗り換えのしかたもわからなくなってしまうのではないでしょうか。

私個人もしくは私の周りを見る限り、親の安定に対する考え方・教育方針が子に与える影響は計り知れません。

失敗しないことを重視するのか、チャレンジすることを重視するのか。

この価値観の違いこそが子が乗る列車の種類を決める大きな要素となっているのでしょう。

安定とは対極の生活をしていると、リスクを取らないことが最大のリスクだということがわかります。

価値観こそがその人の生き方を決定するのです。

従業員に対する損害賠償請求10 専心義務違反等に基づく従業員に対する損害賠償請求(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、専心義務等に基づく従業員に対する損害賠償請求に関する裁判例を見ていきましょう。

フォーザウィン事件(東京地裁令和3年2月26日・労判ジャーナル112号60頁)

【事案の概要】

本件は、システム開発等を業とするY社が、Y社の従業員Xが雇用契約上の専心義務及び秘密保持義務に違反したとして、従業員に対し、民法709条に基づき、損害賠償金528万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xは、Y社は、Xとc社との間で既に合意が成立していたd社案件について、自身が対応できないのであれば、その旨Xに伝えるべきであったのに、伝えなかったことについて雇用契約上の専心義務違反があると主張する。
しかしながら、Xとc社間の取引基本契約書4条1項には、「個別契約は,甲が乙に注文書を発行し,乙がこれを承諾することにより成立する。」とされているところ,d社案件においては注文書が発行されていないばかりか,見積書,現品票,完了報告書等も作成されておらず、平成30年12月14日までにCとDとの間でd社案件の契約締結に向けてメールでやり取りが重ねられた事実を考慮しても、Xとc社間でd社案件についての個別合意が成立したとはいえない。
また、CとDとの間でメールのやり取りがなされ、Xとc社との間でd社案件をY社に業務遂行させる方向で話が進んでいたことは確かであるものの、Xからは同年12月7日頃を最後に一切Y社に連絡をしておらず、Y社はd社案件の契約に関する進捗状況を知りようがなかったと認められる。
かえって、Y社はXの契約社員なのであるから、XはY社に指揮命令すべきであるところ、Xは、d社案件について、Y社に対し、契約の進捗状況について説明をせず、業務の開始時期、業務場所等についても何ら具体的な指揮命令をしていない
このような状況下において、Y社が、Xはd社案件をY社にやらせるつもりなのか、そうでないのか判断がつかなかったとしても無理からぬことというべきである。
これらを踏まえると、Y社がd社案件に対応できない旨をXに伝えず、その後の対応をXに委ねなかったとしても、専心義務違反があったとまで認めることはできない

2 Xは、Y社がXに対して退職の意を伝えていないために、Xがc社との間で代替要員について協議する機会を失っていることを認識し得たにもかかわらず、漫然とc社に言われるままにBを紹介した結果、Xとc社との契約の成立を阻害して原告に損害を与えたのであり、少なくとも過失による不法行為が成立するとも主張する。
しかしながら、c社が最終的にXを取引相手に選ばなかったのは、c社の判断であってY社が関与するものではなく、Y社の上記行為と原告の損害との間に因果関係を認めることはできない
したがって、Y社の上記行為につき過失による不法行為が成立するとの原告の主張を採用することはできない。

3 Xは、Y社が、d社案件につきc社がエンジニアを探していること、及び当該業務のc社側の担当者の情報などのXの顧客情報を含む秘密情報をBに対して伝えたことが雇用契約上の秘密保持義務に違反すると主張する。
しかしながら、Y社は、Bに対し、c社の名前と、今後c社から連絡があるかもしれない旨を伝えたものの、それ以上にXの秘密情報を伝えたことを認めるに足りる証拠はない
Xは、Y社がc社の担当者に対しBを紹介することで、c社の担当者をして案件情報をBに流出させているとも主張するが、c社の担当者がd社案件の情報をBに話したことをもってY社が秘密保持義務違反をしたことにはならない。

会社としてはいろいろなことを主張していますが、いずれも採用されませんでした。

気持ちはわからないわけではありませんが、裁判の相場観でいうとこのような結論になってしまいます。

日頃から顧問弁護士に相談をすることを習慣化しましょう。

本の紹介1215 戦略は「1杯のコーヒー」から学べ!(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。

7年前に紹介した本ですが、再度読み返してみました。

セブンイレブン、マック、スタバ、ブルーボトル、ドトール、ネスレで提供しているコーヒーに着目して、各社がどのようなビジネス戦略に基づいてビジネスを展開しているのかをわかりやすく解説しています。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

今の言葉でいえば、ブルーオーシャン戦略そのものだ。競合同士が血で血を洗う死闘を繰り広げるレッドオーシャンから、競合とは異なる価値を提供してライバルのいない青い大海原、ブルーオーシャンという新市場を切り拓いた。そのためには、従来提供していた価値に『何を加え(足し算)』『何を捨て(引き算)』『何を増やし』『何を減らす』かを明確にしなければならない」(43頁)

ブルーオーシャンという響きがなんとも懐かしいですが、書かれていることは、今でも通用します。

詰まるところ、ビジネスは他との差別化です。

どこが違うのか、他より何が良いのかをわかりやすく示すことがとても大切です。

差別化は、売る物だけの話ではありません。

売り方、売る人でも、差別化はいくらでもできます。

ただ、これまで長きにわたり、他と同調・協調することを徹底的に叩き込まれてきているため、社会に出て、いきなり差別化と言われても、何をどうしていいのかわからないのです。

多くの人が右に行っているときに自分は左に行く勇気が必要なのです。

批判されたくない、嫌われたくない、仲間外れにされたくないという気持ちが強いとなかなかできませんが。

配転・出向・転籍47 配転命令に従わない等の業務命令違反を理由とする解雇の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、配転命令に従わない等の業務命令違反を理由とする解雇の有効性に関する裁判例を見ていきましょう。

F-LINE事件(東京地裁令和3年2月17日・労判ジャーナル112号62頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用されていたXが、Y社のXに対する平成31年1月1日付け配転命令及び同年3月1日付け懲戒解雇の意思表示は無効であると主張して、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位に在ることの確認を求めるとともに、労働契約に基づく賃金請求として、本件配転命令後の未払賃金等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

解雇有効

【判例のポイント】

1 本件において、Y社は平成30年3月5日、i社からXに対する対応を求められその後、XとD氏が接触しないよう調整するなどして対応し、その後も話し合いが続けられたが、i社の他の従業員の負担が重いことから、同年6月25日以降はi社においてD氏をc営業所の勤務から外し、i社のL係長においてD氏の業務を代替したが、L係長の負荷も重いことから、同年9月11日には、i社からY社に対し、状況の改善が見られないままではトラック5台体制の維持が難しく、4台体制とすることを考えてほしい旨の要望が出されるに至った。c営業所の○○輸送業務は、Y社のトラック4台とi社のトラック5台の9台体制で行われているところ、i社が5台体制から4台体制に縮小した場合には輸送業務に大きな影響が出ることになるが、○○輸送業務はタンクローリーによる特殊業務であり、特殊な作業手順があることから、スポット的に他社に代替を依頼することが困難であり、Y社としてはi社の業務縮小を避ける業務上の必要性があり、そのためにはXの勤務先を変更する必要性があったといえる。また、本件配転命令当時、d営業所には欠員が出ており、欠員を補充する必要もあった。
以上によれば、本件配転命令には、業務上の必要性があると認められる。
 
2 Xは、本件配転命令後、d営業所における初出勤日である平成31年1月9日に出勤することなく、同営業所のMマネージャーが電話で出勤を求めたのに対し、納得できないので業務命令には従わない旨回答し、同日以降、同年2月27日までは電話に出ることもなく、ショートメールによる連絡に対しても反応しなかった。また、Y社による同年1月15日、同月25日、同月29日及び同年2月1日付けの文書による出勤指示に対しても反応せず、同年3月1日付けで本件解雇されるまでの間、Y社に対して何らの連絡をすることなく欠勤を継続した。
前記のとおり、本件配転命令が有効であると解されることからすれば、Xによる同年1月9日から同年3月1日までの欠勤は、無断欠勤に当たると認められる。

3 以上によれば、懲戒理由③は本件就業規則の懲戒解雇事由に該当すると認められるところ、Xは、本件配転命令の内示を受けた直後から、C所長やB支店長に対して本件配転命令を拒否する姿勢を示した上、d営業所での初出勤日である平成31年1月9日、Mマネージャーに対して電話で業務命令に納得できないから従わない旨告げて以降、2か月近くにわたって被告からの連絡を無視し続けており、業務命令違反の程度は著しく、懲戒解雇処分となることもやむを得ないと考えられることに加えて、Xが、平成29年4月に本件譴責処分を受けていることや、G氏とのトラブルにおいても鉄の棒を持ったことにつき厳重注意されたことがあることのほか、配車担当者に対して配車に関する不満を継続的に述べ、上長から複数回にわたり公平に配車をしていること等の説明を受け、業務に支障を生じさせていたこと等Xのこれまでの勤務状況等にも鑑みれば、本件解雇は客観的合理的理由があり、社会通念上相当であるといえ、権利の濫用には当たらず、有効である。

配転命令が有効である場合、配転命令に応じないことは無断欠勤となります。

その程度が重い場合には、本件のように解雇事由として認められます。

実際の対応については顧問弁護士に相談しながら行うことをおすすめいたします。

本の紹介1214 心理的に正しいプレゼン(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。

プレゼンやセミナーをする機会が多い方には参考になる本です。

どのような点にフォーカスするのかがはっきりします。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

人はあなたが言ったことは忘れるかもしれないが、あなたにどんな気持ちにさせられたかということは絶対に忘れない。」(203頁)

これは決してセミナーに限った話ではありません。

仕事でもプライベートでも同じことがいえます。

発言それ自体は覚えていなくても、感覚として、エネルギーをもらえたのか、イライラさせられたのか等、そのときにその人から受けたプラス・マイナスの印象はしっかり覚えています。

日々、一緒にいなくとも、その人のことを思い出しただけで頑張れる・イライラするといった「印象」こそが、その人の好き嫌いを決めているのです。

労働時間75 通勤時間、朝礼時間、休憩時間の労働時間性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、未払賃金等支払請求と通勤時間等の労働時間性に関する裁判例を見てみましょう。

オーイング事件(福井地裁令和3年3月10日・労判ジャーナル112号54頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と雇用契約を締結して労務を提供していたXら12名が、Y社に対し、雇用契約に基づく賃金支払請求権に基づいて、未払賃金等の支払を求めるとともに、付加金請求権に基づいて、付加金等の支払を求め、さらに、不法行為に損害賠償請求権に基づいて、それぞれ100万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

未払賃金請求一部認容

損害賠償請求棄却

【判例のポイント】

1 各集合場所と高浜発電所の間のY社社有車の移動時間については、Xらは、他の従業員を乗せて社有車の運転を行う場合もあったとはいえ、社有車内で業務を行うことはなかったことからすると、自家用車等で通勤する場合と差異はないといえ、Xらが入門証の管理についてY社の指示に従っていたことから直ちに、Xらが上記移動時間中にY社の指揮命令下に置かれていたとはいえないこと等から、Xらが主張する各集合場所と同発電所までの移動時間については、これを労働時間と認めることはできない

2 午前8時に呼出周辺巡回業務を開始する警備員を対象に午前7時半頃から朝礼が行われていたこと、朝礼において、前日からの引継ぎや業務に関する注意喚起など、業務遂行に必要な連絡等が行われていたこと、朝礼に参加しない場合において注意を受けるということもあったことが認められ、そして、朝礼終了後、警備員はその日のそれぞれの配置場所に移動した上で勤務を開始していたことからすると、朝礼及びその後の配置場所までの移動までの行動を含めて、Y社の指揮命令下に置かれていたものと認められるから、呼出周辺巡回業務を担当する警備員において、午前8時に同業務を開始する日の朝礼開始後業務開始までの30分間は労働基準法上の労働時間に該当するものと認めるのが相当である。

3 Xらは、昼の60分の休憩時間全体において、ゲートの開閉等の業務について、直ちに対応することが義務付けられており、労働からの解放が保障されているとはいえず、Xらは、Y社の指揮命令下に置かれていたといえるから、昼の60分の休憩時間とされた時間は、労働基準法上の労働時間に該当するものと認めるのが相当であり、夜勤の60分間の休憩時間について、Xらは夜勤時においてもPHSを携帯していたことが認められ、これに加え、昼の60分間の休憩時間についてローテーションが機能していなかったことからすれば、夜勤の60分間の休憩時間についても、ローテーションが機能していなかったことが推認されるから、夜勤の60分間の休憩時間において、Xらは、労働からの解放が保障されているとはいえず、XらはY社の指揮命令下に置かれていたといえるから、日勤の昼の60分の休憩時間のほか、夜勤の60分の休憩時間についても、労働基準法上の労働時間に該当すると認めるのが相当である。

警備員に限らず、休憩時間の労働時間該当性についての判断として一般的なものです。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理をすることが肝要です。 

本の紹介1213 君にはもうそんなことをしている時間は残されていない#2(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は本の紹介です。

今から5年から前に紹介した本ですが、再度、読み返してみました。

タイトルのとおりです。

Time is not money.

Time is life.

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

返事のレスポンスとその人の好感度は見事に比例している。レスポンスが速い人は、周囲のすべてが応援してくれるようになる。レスポンスの速い人にチャンスは一極集中する。結果として、出世してお金持ちになっていく。
レスポンスの遅い人は、周囲のすべてから嫌われる。レスポンスの遅い人からチャンスはどんどん奪われていく。結果として、出世できずに貧乏になっていく。
わずか1秒にも満たないこの差で、人生が決まってしまうのだ。」(41頁)

真理です。

決して大袈裟な話ではありません。

私の知る限り、仕事ができる人は、電話もメールもラインもとにかくレスポンスがめちゃくちゃ速いです。

類は友を呼ぶという法則からすれば、レスポンスが速い人がレスポンスが遅い人と仕事をすることはありません。

いわゆる「合わない」のです。

のんびりしているほど人生は長くありません。

管理監督者48 投資会社の専門社員の管理監督者性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、投資会社の専門社員の管理監督者性に関する裁判例を見てみましょう。

三井住友トラスト・アセットマネジメント事件(東京地裁令和3年2月17日・労判ジャーナル111号32頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用されて就労するXが、Y社に対し、①労働契約に基づく賃金請求として、平成28年1月4日から令和元年7月31日まで(以下「本件請求期間」という。)の未払残業代合計2747万1761円+遅延損害金、②労基法114条に基づく付加金請求として、2396万3762円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社は、Xに対し、1978万0532円+遅延損害金を支払え。

Y社は、Xに対し、1402万3983円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 職責及び権限について
Xの担当する業務は、ファンドマネージャー等が示した見解を前提とした月次レポート等の内容に誤りがないかを確認したり、当該見解を踏まえてレポートを作成する業務であって、専門的かつ重要な業務ではあるものの、企画立案等の業務に当たるとはいえず、また、これらの業務が部長決裁で足りるとされていることからすれば、経営上の重要事項に関する業務であるともいえない
また、Xは、所属する部署の管理者ミーティング等に参加しておらず、月報関連業務以外に当該部署の業務を担当していたことは認められないほか、部下もおらず、人事労務管理業務に従事していたとは認められない
以上によれば、Xが経営上の重要事項に関する企画立案等の業務を担当していたとは認められず、また、人事労務管理業務も担当していないことからすれば、Xが、実質的に経営者と一体的な立場にあるといえるだけの重要な職務と責任、権限を付与されていたとは認められない

2 労働時間の裁量について
Xは、月次レポートの精査・準広告審査業務を毎月第3営業日から第14営業日の間に行い、共通コメントのチェックを第3営業日の午前9時頃から正午頃までの間に行い、臨時レポートについては年間10回程度行うことになっており、それらの業務がある期間は、基本的に当該業務のために時間的にも拘束されているものの、これらの業務の閑散期においては、比較的自由に時間を使うことが許容され、遅刻・早退があっても賃金から控除されることはなく、早朝及び深夜の業務についても、健康管理の観点から複数回の指摘はあったものの、自己の裁量で労働時間を決定できる環境にはあったといえることからすれば、労働時間について一定の裁量はあったといえる。

3 処遇について
本件請求期間におけるXの年俸は約1270万円(基本給部分が1140万円)であり、部長に次ぐ待遇であるといえ、Y社の社員の上位約6%に入ることからすると、待遇面では、一応、管理監督者に相応しいものであったと認められる。

4 小括
以上によれば、Xは、自己の労働時間について一定の裁量があり、管理監督者に相応しい待遇がなされているものの、実質的に経営者と一体的な立場にあるといえるだけの重要な職務と責任、権限を付与されているとは認められないことからすれば、Xが、管理監督者に該当するとは認められない。

開かずの扉です。

認容額をご覧ください。

管理監督者として対応することは、もはや百害あって一利なしです。

・・・とかれこれ言い続けていますが、一度、痛い目にあわないとわからないのが実情です。

労務管理は事前の準備が命です。顧問弁護士に事前に相談することが大切です。

本の紹介1212 破戒のススメ(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。

堀江さんの新刊です。

サブタイトルは「我慢の奴隷から脱出する44の行動哲学」です。

「我慢の奴隷」になっている方は読んでみるといいと思います。

読んだだけでは何も変わりませんが。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

未来を想像していいことなどあるだろうか?多くの人は保険をかけたり、家族のために家を買ったり、未来に備えて準備すると思うが、予想通りの未来が進んでいく保証など、どこにもない。逆に、社会情勢や経済の変化によって、思わぬトラブルに遭う確率の方が高いだろう。・・・先のことは、わからない。いまこの瞬間だけを考え、走り続けながら改善を重ね、やりたいことをやるのが本当の幸せだ。」(51頁)

頭ではわかっていても、多くの人が「将来」や「老後」の不安を解消するべく、せっせと預金をし、生命保険に入るのです。

そして、できるだけ損をしないように、リスクを冒さないように生きることを選択します。

ただ、どうでしょう。

人生の終盤のために、人生の大半をやりたいことも我慢し続ける・・・。まるで老後のために生きているような気がしませんか?

ずーっと我慢に我慢を重ねて年老いていくなんて、考えただけで萎えます。

楽しく生きても、我慢して生きても、どちらにせよ、人生は一度きりです。

賃金217 会社の責めに帰すべき事由に基づく未払賃金請求(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、会社の責めに帰すべき事由に基づく未払賃金請求に関する裁判例を見てみましょう。

ホームケア事件(横浜地裁令和2年3月26日・労判ジャーナル112号42頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と雇用契約を締結し、訪問介護(デイサービス)施設の利用者の送迎業務に従事していたXが、Y社に対し、週の所定労働日数が5日であったにもかかわらず、会社の責めに帰すべき事由によりこれに満たない日数しか労務を提供することができなかったと主張して、雇用契約に基づき、未払賃金等の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

一部認容

【判例のポイント】

1 本件雇用契約における週の所定労働日数について、は、原審のX本人尋問における供述は、X本人尋問を通じて一貫しており、その内容に特段、不合理な点も見当たらないから、信用することができ、そして、Xの使用者であり、出勤簿等をもってXの出勤簿を管理していたことがうかがわれるY社が、平成29年以前のXの勤務実態について立証しないことを踏まえると、Xは、本件請求期間より前である平成29年以前は、おおむね週4日勤務していたものと推認されるから、本件雇用契約における所定労働日数に係る合意は、契約当事者の意思を合理的に解釈すれば、週4日であったと認めるのが相当である。

2 Xの出勤日は、Y社において、利用者の送迎計画表を作成することによって決定されることが認められるところ、Xを送迎計画表に入れるかどうかは、Y社の判断に委ねられているのであり、各日の送迎計画表をもって具体的な勤務を命じられていたXは、送迎計画表に入らなかった日については、当該日の送迎業務に従事することを命じられておらず、これを受けた労務の提供の有無を観念する局面に至っていなかったというべきであるから、Xが就労しなかったことは、基本的にはY社の責めに帰すべき事由によるものであったと解するのが相当であるから、Y社がXを送迎計画表に入れなかった日については、Xが就労しなかったことは、Y社の責めに帰すべき事由によるものと認めるのが相当であって、Xは、Y社に対する賃金請求権を失うものではない

当事者の合理的意思解釈により勤務日数が週4日と認定されています。

その結果、シフトを作成する上で、週4日を下回る場合には、会社都合により休ませたこととなり、ノーワークノーペイの例外として賃金が発生します。

シフト制だからといって、勤務日数を全く自由に決定できるわけではないということをしっかり押さえておきましょう。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理をすることが肝要です。