従業員に対する損害賠償請求10 専心義務違反等に基づく従業員に対する損害賠償請求(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、専心義務等に基づく従業員に対する損害賠償請求に関する裁判例を見ていきましょう。

フォーザウィン事件(東京地裁令和3年2月26日・労判ジャーナル112号60頁)

【事案の概要】

本件は、システム開発等を業とするY社が、Y社の従業員Xが雇用契約上の専心義務及び秘密保持義務に違反したとして、従業員に対し、民法709条に基づき、損害賠償金528万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xは、Y社は、Xとc社との間で既に合意が成立していたd社案件について、自身が対応できないのであれば、その旨Xに伝えるべきであったのに、伝えなかったことについて雇用契約上の専心義務違反があると主張する。
しかしながら、Xとc社間の取引基本契約書4条1項には、「個別契約は,甲が乙に注文書を発行し,乙がこれを承諾することにより成立する。」とされているところ,d社案件においては注文書が発行されていないばかりか,見積書,現品票,完了報告書等も作成されておらず、平成30年12月14日までにCとDとの間でd社案件の契約締結に向けてメールでやり取りが重ねられた事実を考慮しても、Xとc社間でd社案件についての個別合意が成立したとはいえない。
また、CとDとの間でメールのやり取りがなされ、Xとc社との間でd社案件をY社に業務遂行させる方向で話が進んでいたことは確かであるものの、Xからは同年12月7日頃を最後に一切Y社に連絡をしておらず、Y社はd社案件の契約に関する進捗状況を知りようがなかったと認められる。
かえって、Y社はXの契約社員なのであるから、XはY社に指揮命令すべきであるところ、Xは、d社案件について、Y社に対し、契約の進捗状況について説明をせず、業務の開始時期、業務場所等についても何ら具体的な指揮命令をしていない
このような状況下において、Y社が、Xはd社案件をY社にやらせるつもりなのか、そうでないのか判断がつかなかったとしても無理からぬことというべきである。
これらを踏まえると、Y社がd社案件に対応できない旨をXに伝えず、その後の対応をXに委ねなかったとしても、専心義務違反があったとまで認めることはできない

2 Xは、Y社がXに対して退職の意を伝えていないために、Xがc社との間で代替要員について協議する機会を失っていることを認識し得たにもかかわらず、漫然とc社に言われるままにBを紹介した結果、Xとc社との契約の成立を阻害して原告に損害を与えたのであり、少なくとも過失による不法行為が成立するとも主張する。
しかしながら、c社が最終的にXを取引相手に選ばなかったのは、c社の判断であってY社が関与するものではなく、Y社の上記行為と原告の損害との間に因果関係を認めることはできない
したがって、Y社の上記行為につき過失による不法行為が成立するとの原告の主張を採用することはできない。

3 Xは、Y社が、d社案件につきc社がエンジニアを探していること、及び当該業務のc社側の担当者の情報などのXの顧客情報を含む秘密情報をBに対して伝えたことが雇用契約上の秘密保持義務に違反すると主張する。
しかしながら、Y社は、Bに対し、c社の名前と、今後c社から連絡があるかもしれない旨を伝えたものの、それ以上にXの秘密情報を伝えたことを認めるに足りる証拠はない
Xは、Y社がc社の担当者に対しBを紹介することで、c社の担当者をして案件情報をBに流出させているとも主張するが、c社の担当者がd社案件の情報をBに話したことをもってY社が秘密保持義務違反をしたことにはならない。

会社としてはいろいろなことを主張していますが、いずれも採用されませんでした。

気持ちはわからないわけではありませんが、裁判の相場観でいうとこのような結論になってしまいます。

日頃から顧問弁護士に相談をすることを習慣化しましょう。