競業避止義務28 競業避止義務違反に基づく会社からの損害賠償請求の可否(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、競業避止義務違反に基づく会社からの損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

レジェンド元従業員事件(福岡高裁令和2年11月11日・労判1241号70頁)

【事案の概要】

本件は、保険代理店業等を営むY社が、かつてY社の従業員であったXにつき、①Y社在職中に同業他社の使用人となった、②Y社在職中に、同業他社のための営業活動を行い、競業避止義務に違反した、③Y社を退職して同業他社に就職した場合にY社の顧客に営業活動を行わない旨競業避止義務を負っていたにもかかわらず、Y社を退職した後に就職した同業他社においてY社の顧客に対する営業活動を行って、競業避止義務に違反した、④Y社を退職して同業他社に就職した後に秘密保持義務に違反したという義務違反があり、これにより、Y社の顧客の一部が保険契約を更新せず、Y社は契約の更新がされていれば得られたはずの代理店手数料を得ることができず、損害を被ったと主張し、Y社に対し、債務不履行に基づく損害賠償請求としてY社に生じた損害の一部である179万9386円+遅延損害金の支払を求めている事案である。

原判決は、Xについて、上記③の競業避止義務が認められると判断し、Y社の請求のうち141万2059円+遅延損害金の支払を認める限度で認容し、その余の請求を棄却した。

Xは、上記認容部分を不服として控訴した。

【裁判所の判断】

原判決中、X敗訴部分を取り消す。

前項の部分につき、Y社の請求を棄却する。

【判例のポイント】

1 本件競業避止特約によって課されるような退職後の競業避止義務は、労働者の営業の自由を制限するものである。このような退職後の競業避止義務については、労働者と使用者との間の合意が成立していたとしても、その合意どおりの義務を労働者が負うと直ちに認めることはできず、労働者の利益の程度、競業避止義務が課される期間、労働者への代償措置の有無等の事情を考慮し、競業避止義務に関する合意が公序良俗に反して無効であると解される場合や、合意の内容を制限的に解釈して初めて有効と解される場合があるというべきである。

2 ・・・本件競業避止特約は、その文言によれば、XがX既存顧客に対しても営業活動を行わない義務を課す内容であり、Xがこのとおりの義務を負うとすれば、Xが受ける不利益は極めて大きいものである。

3 XがY社に在職中に受領した賃金や報酬が、Xが退職後に競業避止義務を負うことの実質的な代償措置であると認めることもできない

4 こうした事情の下では、本件競業避止特約により、Xが、Y社退職後に、X既存顧客を含む全てのY社の顧客に対して営業活動を行うことを禁止されたと解することは、公序良俗に反するものであって認められない。そして、本件競業避止特約の内容を限定的に解釈することにより、その限度では公序良俗に反しないものとして有効となると解する余地があるとしても、少なくとも、XがX既存顧客に対して行う営業活動であって、XからX既存顧客に連絡を取って勧誘をしたとは認められないものについては、本件競業避止特約に基づく競業避止義務の対象に含まれないと解するのが相当である。

このように競業避止義務については、かなり限定的に解釈されることは理解しておきましょう。

従業員に独立、転職されること、それに伴い顧客が一定数減少することは、もはや雇用契約に内在するリスクと捉えるほうが現実的だと思います。

競業避止義務の考え方については顧問弁護士に相談をし、現実的な対策を講じる必要があります。