おはようございます。
今日は、統括バイヤーの管理監督者性と未払割増賃金等請求に関する裁判例を見てみましょう。
石田商会事件(大阪地裁令和2年7月16日・労判1239号95頁)
【事案の概要】
本件は、日用雑貨、食料品、書籍雑誌、服飾雑貨、タバコ、酒類の販売等を目的とするY社の従業員であったXがY社に対し、労働契約に基づき、未払時間外、休日及び深夜割増賃金計346万3286円+遅延損害金、労基法20条1項に基づき、解雇予告手当の一部である21万9519円+遅延損害金の各支払を求める事案である。
【裁判所の判断】
Y社は、Xに対し、267万4781円+遅延損害金を支払え。
Y社は、Xに対し、5万0032円+遅延損害金を支払え。
Y社は、Xに対し、4万5601円+遅延損害金を支払え。
【判例のポイント】
1 Xは、Y社における4番目のポジションである統括バイヤーとして、どのような商品をどの程度仕入れ、当該商品をどの店舗にどのように割り振るかという仕入れ業務及び各店舗への商品の振分け業務等を行い、Y社代表者、B専務及びC本部長が出席する会議に出席してi店対策等を担当し、また、自らが幹部であるとの認識の下、他のバイヤーに指示したり、店長に指導を行うこともあった。Y社が小売業者であることからすると、商品の仕入れや各店舗の振分けを行うXの業務は、相当程度重要なものであったといえる。また、Xが仕入れを行うに当たっては決裁を要しなかった。
しかしながら、Xは、統括バイヤーという地位にあったとはいえ、営業本部の下に3部門あるうちの商品部という一部門の責任者にすぎず、自らもヤング・ヤングミセス・服飾等の部門のバイヤーとして、その仕入れ作業、売り場の設営等を行っていた。また、他の部門のバイヤーは、雑貨部門のJのほかは、B専務やC本部長というXより上のポジションの者であった。
さらに、Xの下のアシスタントバイヤーも1名ないし3名であり、専従ではなく、店舗の従業員も兼ねるなどしていた。加えて、上記会議も商品部の会議である以上、その責任者であるXが出席するのは当然であり、そのことから直ちにXがY社の経営に関与していたといえるものではなく、同会議において各対策を決めるに当たってXが果たした寄与・貢献についても必ずしも明らかでない。
そうすると、Xが管理監督者に相応しい業務内容や権限及び責任の重要性があったとまで認めることができない。
2 Xの賃金額計約31万円は、Y社の従業員の中では高額な給料であるが(店長で22万円から27万円)、Y社の求人票記載の賃金額が計20万6420円から計49万1180円であったことからしても、客観的に特に高額な金額とはいえない。
以上の検討を総合すると、②労働時間管理が緩やかではあったものの、①業務内容や権限及び責任の重要性や③賃金等の待遇については管理監督者に相応しいものとまではいえず、Xが管理監督者であったとは認められない。
3 Y社は、Xの職務手当には、76時間の超過勤務手当が含まれている旨主張する。確かに、試用期間中の雇用契約書には、職務手当には26時間以内の超過勤務手当を含む旨記載されている。しかしながら、試用期間経過後については、X・Y社間で雇用契約書が取り交わされていない。また、あくまで名目が職務手当である上、Y社の主張によっても、その中に統括バイヤーの役職に対する手当も含まれるというのであるから、通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金の部分が明確に区分されておらず、仮に職務手当を固定残業代とする合意があったとしても、そのような合意が有効とはいえない。
管理監督者性のハードルの高さはいつものとおりです。
また。判例のポイント3で争点となっている固定残業代の有効性についても、試用期間経過後の契約書を作成していないことから有効性を否定されています。おしいです。
労務管理は事前の準備が命です。顧問弁護士に事前に相談することが大切です。