おはようございます。
今日は、無期職員と契約職員との地域手当、住居手当、昇給基準を巡る待遇差が不合理でないとされた裁判例を見てみましょう。
独立行政法人日本スポーツ振興センター事件(東京地裁令和3年1月21日・労経速2449号3頁)
【事案の概要】
本件は、Y社と期間の定めのある労働契約(以下「有期労働契約」という。)を締結しているXが、①Xの学歴・経歴によれば、Y社の基準に照らし基準月額を81号俸とすべきであるのに、Y社がXに対し、基準月額を61号俸とする労働契約の締結を余儀なくさせた、②Y社が期間の定めのない労働契約(以下「無期労働契約」という。)を締結している職員に対して支給している地域手当及び住居手当をXに支給せず、また、無期労働契約において設けている昇給基準をXに適用せず昇給させないのは不合理な労働条件の相違であり、平成30年法律第71号による改正前の労働契約法20条(同条は、前記改正により削除され、令和2年4月1日施行の有期雇用労働者法8条に統合された。同条は、前記改正前の労働契約法20条の内容を明確化して統合したものであるから、以下、同法20条に関する当事者の主張は、有期雇用労働法8条による主張と整理した上判断する。)に違反する旨主張して、不法行為に基づく損害賠償請求として平成28年4月分から令和元年7月分までの基準月額、地域手当、住居手当、基準月額に連動する契約職員手当、超過勤務手当及び特別手当の各差額賃金相当額701万1762円+遅延損害金の支払を求める事案である。
【裁判所の判断】
請求棄却
【判例のポイント】
1 無期職員は、転居を伴う異動の可能性があり、配置される地域の物価の高低によって必要とされる生活費に差額が生じることから、勤務地の物価の高低に応じ、生活費の差額を補てんする必要があるといえるが、契約職員は異動が予定されておらず、東京都特別区にしか配置されていないことから、勤務地の物価の高低による生活費の差額は生じず、これを補てんする必要がない。
したがって、無期職員に対して地域手当を支給する一方で、契約社員に対してこれを支給しないという待遇の相違は、不合理であると評価することができるものとはいえないから、有期雇用労働者法8条にいう不合理と認められる待遇に当たらないと解するのが相当である。
2 無期職員は、転居を伴う異動の可能性があり、転居がない場合と比較して住宅に要する費用が多額となり得ることから、住宅に要する費用を補助する必要がある一方、契約職員については東京都特別区内にしか配置されておらず、転居を伴う異動の可能性はない。
したがって、無期職員に対して住居手当を支給する一方で、契約社員に対してこれを支給しないという労働条件の相違は、不合理であると評価することができるものとはいえないから、有期雇用労働者法8条に違反するものではないと解するのが相当である。
3 本件昇給基準は、無期職員に適用されるものであるところ、その文言によれば、管理又は監督の地位にある職員以外の職員について、「おおむね」、昇給区分Aの割合を100分の5、昇給区分Bの割合を100分の20とするものであって、おおむねの割合を示すものと解されること、及び、本件昇給基準より上位の規定である職員給与規則は、無期職員の昇給は予算の範囲内で行わなければならない旨規定し、昇給に予算の制約を設けていることを考慮すると、本件昇給基準は、昇給区分AないしBとすべき職員の割合についての決まりを設けたものと認めることはできない。
したがって、本件昇給基準に関し、無期職員について昇給の決まりを設けているとはいえないから、無期職員について昇給の決まりを設ける一方、契約職員について昇給の決まりを設けていないという不合理な待遇の相違があり、不法行為に該当する旨のXの主張は、その前提を欠くものである。
各種手当に関する格差については、当該手当の趣旨から議論がスタートします。
格差について合理的理由を説明できるか否かがポイントとなります。
同一労働同一賃金の問題は非常にセンシティブですので、顧問弁護士に相談して対応するようにしてください。