おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。
今日は、スト―カー行為等を理由とする諭旨免職処分等の有効性に関する裁判例を見てみましょう。
PwCあらた有限責任監査法人事件(東京地裁令和2年7月2日・労判ジャーナル106号48頁)
【事案の概要】
本件は、Y社との間で期間の定めのない雇用契約を締結した労働者であるXが、使用者であるY社に対し、
(1)Y社がXに対してした懲戒処分としての諭旨免職処分、人事権の行使としての降格決定及び普通解雇がいずれも無効であると主張して、①雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認(請求1項)、②諭旨免職処分が無効であることの確認(請求2項)、③降格決定が無効であることの確認(請求3項)、④降格決定から平成31年2月末をもって普通解雇されるまでの未払賃金(降格決定による減額分)及びこれらに対する遅延損害金の支払(請求4項)、⑤普通解雇の翌月である同年3月から本判決確定の日までの賃金及びこれらに対する遅延損害金の支払(請求5項)、⑥平成30年7月から本判決確定の日までの毎年7月の賞与及びこれらに対する遅延損害金の支払(請求6項)、⑦平成30年12月の未払賞与(降格決定による減額分)及びこれに対する遅延損害金の支払(請求7項)を求めるとともに、
(2)上司らによるパワーハラスメント、降格決定、諭旨免職処分及び女性職員との接触を伴う業務の制限が違法であると主張して、民法709条、715条の不法行為責任又は民法415条の債務不履行責任(職場の環境配慮義務違反)に基づき、慰謝料及びこれに対する遅延損害金の支払(請求8,9項)を求め、
(3)Y社の語学学校費用補助制度を利用できなかったことやY社から裁判期日への出席の際に有給休暇を取得するように指示されたことが違法であると主張して、民法709条の不法行為責任に基づき、損害賠償金及びこれに対する遅延損害金の支払(請求10項,11項)を求める事案である。
【裁判所の判断】
1 Y社がXに対して平成30年7月1日付けで行ったアソシエイト・ライトからアソシエイト・プライマリーへの降格が無効であることの確認を求める訴えを却下する。
2 Xが、Y社に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
3 Y社がXに対して平成30年5月11日付けで行った諭旨免職の懲戒処分が無効であることを確認する。
4 Y社は、Xに対し、平成31年3月から令和2年3月まで、毎月25日限り、36万1640円+遅延損害金を支払え。
5 Xのその余の請求をいずれも棄却する。
【判例のポイント】
1 Xは、Y社から事情聴取を受けた際に、反省の弁を述べる一方で、被害女性が、入院したり、PTSDになったりはしておらず、普通に出勤しているのであるから問題はないのではないかなどといった被害女性への配慮を欠く発言をしていることからすると、Xが、本件ストーカー行為が被害女性に与えた精神的苦痛を十分に理解し、本件ストーカー行為を行ったことについて真に反省していたかは疑わしく、Y社において、Xには本件ストーカー行為を行ったことについて反省の態度が感じられないと判断したこと自体に問題があったとはいえない。
しかしながら、Xには、本件警告を受けた後も被害女性に対するストーカー行為を継続していたといった事情や、他の女性職員に対してストーカー行為に及ぶ具体的危険性があったといった事情までは認められない。また、Xには、本件ストーカー行為が発覚するまでに懲戒処分歴はなく、管理職の地位にある者でもない。これらの事情を総合考慮すると、Xが本件ストーカー行為を行ったことについて真に反省していたかが疑わしい点を勘案したとしても、労働者たる地位の喪失につながる本件諭旨免職処分は、重きに失するものであったといわざるを得ない。そうすると、本件諭旨免職処分は、社会通念上相当であるとは認められない場合に当たる。
2 ①XとY社との間で令和元年度の目標設定が合意に至らなかったこと、②Xが、上司らに対し、質問事項を電子メールで繰り返し送信し、電子メールでの回答を要求することにより、上司らの業務に一定の支障が生じたこと、③Xが虚偽の内容を含む電子メールを上司らに送付したこと、④Xは、有給休暇を取得することなく、本件裁判期日に出席したことなどが認められ、これらのXの行為には問題があるといえるが、その内容や頻度、程度等に鑑みると、解雇せざるを得ないほどの重大な事由であるとまでは認めることができない。
以上によれば、Xの業務内容や勤務態度に問題があることは認められるが、すべてを総合考慮したとしても、解雇せざるを得ないほどの重大な事由があると認めることはできず、Xにつき、就業規則36条1項8号の「その他前各一号に準ずるやむを得ない事由があるとき」に該当する事由があるとはいえない。
・・・Xに就業規則所定の解雇事由は認められず、仮に解雇事由に該当する余地があったとしても、Xを解雇せざるを得ないほどの事由があるとまでは認めることができないから、本件普通解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認めることはできず、労働契約法16条により、解雇権を濫用したものとして無効である。
いつもながら相当性の判断はとても難しいです。
予見可能性は極めて低いため、訴訟リスクを考えると慎重にならざるを得ません。
日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。