おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。
今日は、労災認定後の労災民事訴訟において、使用者の安全配慮義務違反が否定された裁判例を見てみましょう。
マツヤデンキ事件(大阪高裁令和2年11月13日・労経速2437号3頁)
【事案の概要】
本件は、Y社の従業員であるXが、勤務中に、Y社のO店店長Y2、同店副店長Y3、同店従業員Y4及びY5から暴行を受け、傷害を負ったほか、心的外傷後ストレス障害(PTSD)又はうつ病に罹患して休職を余儀なくされたなどと主張して、Y社に対しては雇用契約の債務不履行(安全配慮義務違反)又は不法行為(使用者責任)による損害賠償請求権に基づき、①Y4及びY5に対しては不法行為による損害賠償請求権に基づき、Y社に対し、634万2310円たす遅延損害金の支払を、②Y4に対し、578万3730円+遅延損害金の支払を、③Y5に対し、Y社と連帯して、633万1890円+遅延損害金の支払をそれぞれ求める等した事案である。
【裁判所の判断】
本件各控訴に基づき、原判決を次のとおり変更する。
Y社はXに対し、2万0700円+遅延損害金を支払え
Y4はXに対し、1万0420円+遅延損害金を支払え
Y5はXに対し、Y社と連帯して1万0280円+遅延損害金を支払え
【判例のポイント】
1 平成25年6月23日より前に、上司や同僚からXに対する暴力を伴う指導があったことや、Xが、暴力を伴う指導の対象になっているとして自ら又は両親を介してY社に苦情を申し出たり、相談したりしたことがあったことをうかがわせる事情や証拠はない。
また、本件不法行為1が、Xに商品券を探すよう指示した際にY4が偶発的に行ったものであり、本件不法行為2も、Xから唾をかけられるなどの対応をされるようになったY5がとっさに行ったものにすぎない。
さらに、XがY社に入社して以降、人事評価において低位の評価が続いており、注意や指導が困難な社員であると受け止められていたからといって、本件全証拠によっても、Y社において、そうしたことを理由に、Xが上司や同僚から暴力を伴うような指導や叱責等を受ける可能性があることを予見することができたとは認めるに足りない。
そうすると、本件不法行為1、2当時、Y社に、Xの上司や同僚に対してXへの業務上の注意・指導を行うに当たり暴力を伴うような指導等をすることがないよう注意すべき義務があったとまでいうことはできない。
2 弁論の全趣旨によれば、P6医師は、Xあるいはこれを支援する労働組合の関係者から事情を聴いているにすぎず、職場の上司や同僚からの聴取をしていないことが認められる。そして、Xあるいはこれを支援する労働組合の関係者の陳述等は、構造化面接の際におけるXの回答を含め、次のとおり、明らかな誇張等があって到底信用できないものであるから、これらを基にした上記各意見書における意見をたやすく採用することはできない。
上記判例のポイント2の視点は、労災事件や精神疾患発症事案において必須となります。
主治医の意見書に対する証拠価値をどのように評価するかは非常に重要です。
労災発生時には、顧問弁護士に速やかに相談することが大切です。