Monthly Archives: 3月 2021

退職勧奨17 試用期間の延長の可否・程度(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、試用期間の延長の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

明治機械事件(東京地裁令和2年9月28日・労判ジャーナル105号2頁)

【事案の概要】

本件は、産業用機械の制作、販売等の事業を営むY社との間で試用期間のある労働契約を締結していた既卒採用の従業員Xが、Y社に対し、延長された試用期間中に本採用を拒否(解雇)されたところ、その延長が無効であるとともに解雇が客観的合理的理由を欠き社会通念上も相当でなく無効であるとして、雇用契約に基づき、労働契約上の地位確認などを求めるとともに、違法な退職勧奨により抑うつ状態を発症して通院を余儀なくされたなどとして、不法行為による損害賠償請求をした事案である。

【裁判所の判断】

地位確認認容

損害賠償50万円認容

【判例のポイント】

1 本件雇用契約における試用期間は、職務内容や適格性を判定するため、使用者が労働者を本採用前に試みに使用する期間で、試用期間中の労働関係について解約権留保付労働契約であると解することができる。そして、試用期間を延長することは、労働者を不安定な地位に置くことになるから、根拠が必要と解すべきであるが、就業規則のほか労働者の同意も上記根拠に当たると解すべきであり、就業規則の最低基準効(労契法12条)に反しない限り、使用者が労働者の同意を得た上で試用期間を延長することは許される
そして、就業規則に試用期間延長の可能性及び期間が定められていない場合であっても、職務能力や適格性について調査を尽くして解約権行使を検討すべき程度の問題があるとの判断に至ったものの労働者の利益のため更に調査を尽くして職務能力や適格性を見出すことができるかを見極める必要がある場合等のやむを得ない事情があると認められる場合に、そのような調査を尽くす目的から、労働者の同意を得た上で必要最小限度の期間を設定して試用期間を延長することを就業規則が禁止しているとは解されないから、上記のようなやむを得ない事情があると認められる場合に調査を尽くす目的から労働者の同意を得た上で必要最小限度の期間を設定して試用期間を延長しても就業規則の最低基準効に反しないが、上記のやむを得ない事情、調査を尽くす目的、必要最小限度の期間について認められない場合、労働者の同意を得たとしても就業規則の最低基準効に反し、延長は無効になると解すべきである。

2 Y社が本件雇用契約の試用期間を繰り返し延長した(1回目の延長及び2回目の延長)目的は、主として退職勧奨に応じさせることにあったと推認され、これを覆すに足りる証拠は存しないから、1回目の延長についても、2回目の延長についても、Xの職務能力や適格性について更に調査を尽くして適切な配属部署があるかを検討するというY社主張の目的があったと認めることはできない

試用期間の延長はそう簡単にはできないことを理解しておきましょう。

また、試用期間中の解雇や本採用拒否は、みなさんが思っているよりもハードルが高いです。

試用期間とはいえ、決して治外法権ではないことを理解した上で、顧問弁護士に相談をしながら進めて行きましょう。

本の紹介1129 学びを最大化するTTPS(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。

TTPSとは「徹底的にパクって進化させる」という意味です。

TTPという用語自体は前からありますので、まさにそれを少し進化させたものです。

タイトルだけで言わんとしていることはわかりますね。

あとは、やるかどうかの問題です。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

・・・これは仕事でも同じです。『徹底的に』パクるのです。ところが、仕事だと平気で、パクりやすいところだけパクることが少なくありません。ところが、パクりにくいところにこそ、成果を出す秘訣があったりします。そして、パクりやすいところだけを真似しても成果が出ないのです。そして、この方法はうまくいかないという話になってしまうのです。もったいなさすぎます。原因はその『方法』にあるのではなく、『徹底的に』パクらなかったからなのです。」(78頁)

表面的に模倣をしたところで、実際のところ、あまり効果はないと思います。

目に見えない努力まで徹底的に真似をしなければ、たいてい結果には結び付きません。

どんな仕事でも、一見するとわからない日々の地道な努力が輝かしい成果につながっているのです。

仕込み・準備にどれだけ時間と労力をかけるか。

料理人に限らず、すべての職業に共通することです。

メンタルヘルス5 休職命令が無効とされるのはどんなとき?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、休職命令の無効と退職無効地位確認等請求に関する裁判例を見てみましょう。

タカゾノテクノロジー事件(大阪地裁令和2年7月9日・労判ジャーナル105号38頁)

【事案の概要】

本件は、医療機器等の製造、販売等を目的とするY社の従業員であったXが、Y社から休職期間満了を理由に退職扱いとされたが、その前提となる休職命令自体が無効であり、Xは退職とならないなどと主張して、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、労働契約に基づき、出勤停止及び休職命令以降の未払賃金+遅延損害金の支払、また、Y社がY社の従業員によるXに対する性的言動を把握した後も配置転換等の適切な措置を取らなかったためにXが適応障害に罹患し、休業を余儀なくされたとして、不法行為又は債務不履行に基づき、休業損害等計412万3384円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

XがY社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

Y社は、Xに対し、582万3803円+遅延損害金を支払え。

Y社は、Xに対し、令和元年7月から令和2年3月まで毎月26日限り月額26万3640円+遅延損害金を支払え。

Y社は、Xに対し、令和2年4月から本判決確定の日まで毎月26日限り月額26万3640円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 Xの欠勤が続いていたわけではなかった。B産業医は、Xが適応障害というより、うつ病等他の何らかの精神疾患を発症している疑いがあるとの所見を持っていたけれども、平成29年8月17日、Xと面談した結果、「今、病気の症状は感じられなかった。現時点で、僕がXさんに対して就業制限とかアクションを起こすことはない。」旨述べており、その趣旨は、時短勤務や勤務配慮の必要がないというものであって、B産業医の判断を前提とすると、仮にXが何らかの精神疾患を発症していたとしても、時短勤務等の必要もない状況であり、そうである以上、Xが更に欠勤する必要がある状況ではなかった。加えて、B産業医は、上記面談時点で、M医師がXを診断した場合、何もないと言われると考えており、Y社が本件各受診命令において、Y社担当者立会い等を条件としていたのも、M医師が診断した場合、その診断の当否はともかく、Xの意向を尊重して、適応障害等の精神疾患を再発又は発症していない(あるいは治癒している)との判断がされるものと考えていたためと推測される。そうすると、現にXの欠勤が続いている状況ではなかった上、産業医及び主治医ともXが欠勤する必要があるとは考えていなかったのであるから、Xが私傷病により長期に欠勤が見込まれる、又はそれに準ずる事情があると認めることはできない

2 Y社における賞与は、人事考課等を経て初めて具体的な権利として発生するものであるから、退職扱いがなければ、労働契約上確実に支給されたであろう賃金には当たらない。

主治医及び産業医がともに欠勤の必要性を否定している場合において、それでもなお休職命令を発することは根拠がないと判断されてもやむを得ません。

非常に判断が難しい分野ですので、顧問弁護士に相談することをおすすめします。