おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。
今日は、劇団員の労働者性に関する裁判例を見てみましょう。
エアースタジオ事件(東京高裁令和2年9月3日・労判ジャーナル106号38頁)
【事案の概要】
本件は、Y社の下で劇団員として活動していたXが、Y社に対し、(1)法定労働時間に対する最低賃金法による賃金及び時間外労働に対する法定の割増率による割増賃金について未払があるとして、雇用契約に基づく賃金支払請求権に基づき、428万5143円+遅延損害金の支払並びに労基法114条に基づく付加金請求として355万6074円+遅延損害金の支払を、(2)長時間労働を強いられた上、劇団幹部らから暴言、脅迫を受けたなどとして、不法行為に基づく損害賠償請求として、慰謝料300万円+遅延損害金並びに弁護士費用30万円+遅延損害金の支払をそれぞれ求める事案である。
原審は、(1)公演への出演は任意であり、労務の提供とはいえないものの、大道具、小道具及び音響照明業務等並びにY社が経営するカフェにおける業務は、労務の提供に当たるとして、その実労働時間及びそれに伴う割増賃金を算定し、未払賃金51万6502円+遅延損害金の限度でXの未払賃金等の請求を認容したが、(2)長時間労働や劇団幹部らからの暴言、脅迫等を理由とする慰謝料等請求は理由がないとして、これを棄却した。
Xは、原判決中敗訴部分を不服として、本件控訴を提起し、Y社は、原判決中敗訴部分を不服として、本件附帯控訴を提起した。
【裁判所の判断】
Y社は、Xに対し、185万6501円+遅延損害金を支払え。
Xのその余の請求をいずれも棄却する。
【判例のポイント】
1 確かに、Xは、本件劇団の公演への出演を断ることはできるし、断ったことによる不利益が生じるといった事情は窺われない。
しかしながら、劇団員は事前に出演希望を提出することができるものの、まず出演者は外部の役者から決まっていき、残った配役について出演を検討することになり(原審におけるE及びDの証言によると1公演当たりの出演者数20から30人に対して劇団員の出演者数4人程度)、かつ劇団員らは公演への出演を希望して劇団員となっているのであり、これを断ることは通常考え難く、仮に断ることがあったとしても、それはY社の他の業務へ従事するためであって、劇団員らは、本件劇団及びY社から受けた仕事は最優先で遂行することとされ、Y社の指示には事実上従わざるを得なかったのであるから、諾否の自由があったとはいえない。また、劇団員らは、劇団以外の他の劇団の公演に出演することなども可能とはされていたものの、少なくともXについては、裏方業務に追われ(小道具のほか,大道具,衣装,制作等のうち何らかの課に所属することとされていた。)他の劇団の公演に出演することはもちろん、入団当初を除きアルバイトすらできない状況にあり、しかも外部の仕事を受ける場合は必ず副座長に相談することとされていたものである。その上、勤務時間及び場所や公演についてはすべてY社が決定しており、Y社の指示にしたがって業務に従事することとされていたことなどの事情も踏まえると、公演への出演、演出及び稽古についても、Y社の指揮命令に服する業務であったものと認めるのが相当である(Xが本件劇団を退団した後に制定されたY社の就業規則によれば、出演者が出演を取りやめる場合は代役を確保することが求められており、Xが本件劇団在籍中も同様であったものと窺われる。)。
2 Xは、本件劇団における業務について長時間労働を強いられた旨主張するが、一公演当たり稽古期間が10日間、本番期間が6日間であったことからすると、本件劇団における活動時間が長時間にわたっていたのは、X自身が自ら希望して出演者として参加するために必要な稽古等に相当な時間が割かれていたことが理由の一つであるといえるから、公演への出演を含む本件劇団の活動に多くの時間を割いていたとしても、そのことをもってY社に不法行為が成立するものとは認められない。
また、Xは、Cが平成25年7月28日にXに対して暴行を加えたことが不法行為に当たると主張し、原審において、Cが遅刻してきたXに対して他の出演者の前において控訴人の胸倉をつかみ、右の平手で左頬を殴打したと供述ないし陳述しているが、Y社はCの暴行の事実を否認しているところ、顔面を殴打した具体的態様(顔面の部位や回数等)が明らかではなく、Xの上記供述及び陳述以外にこれを裏付ける証拠がないこと、本件訴訟提起まで長年にわたりCの暴行やそれによる損害の請求等をしていないことからすれば、暴行の事実を認めるには十分ではない。他に、Cの暴行を認めるに足りる証拠はない。
さらに、Xは、Fをして労基署への相談を取り下げさせたことが不法行為に当たるとも主張するが、FがXに対して労基署への相談を取り下げるよう求めた事実は認められるものの、それを超えて、脅迫によって上記取下げを強要したとまでは認めるには十分ではなく、他にFの脅迫を認めるに足りる証拠はない。
賛否両論あると思いますが、労働者性を肯定されるリスクを考えながら、経営をしていくほかありません。
雇用と業務委託等との区別は、契約書のタイトルによって決まるものではなく、実態により判断されますので注意が必要です。顧問弁護士に相談の上、慎重に対応してください。