おはようございます。
今日は、美容師の練習会参加の労働時間該当性が否定された裁判例を見てみましょう。
ルーチェ事件(東京地裁令和2年9月17日・労経速2435号21頁)
【事案の概要】
本件は、Y社との間で労働契約を締結して就労していたXが、①平成27年8月16日から平成29年9月3日までの間(以下「本件請求期間」という。)に時間外労働及び深夜労働をした旨主張して、Y社に対し、労働契約に基づく上記の時間外労働等に対する割増賃金の支払及び労基法114条に基づく付加金の支払を求め、②Y社の代表取締役であるY2からいわゆるパワーハラスメントを受けて人格権を侵害された旨主張して、Y社らに対し、不法行為(Y社に対しては会社法350条又は債務不履行)による損害賠償金の連帯支払を求める事案である。
【裁判所の判断】
Y社は、Xに対し、44万0450円+遅延損害金を支払え。
Y社は、Xに対し、付加金30万9027円+遅延損害金を支払え。
Y社は、Xに対し、3万3000円+遅延損害金を支払え。
Y社らは、Xに対し、連帯して、5万5000円+遅延損害金を支払え。
【判例のポイント】
1 Y社がアシスタントである従業員に対してスタイリストに昇格しないことによる不利益を課していたなどの事情は証拠上見当たらないのであって、仮にスタイリストに昇格するための経験を積む機会が練習会のほかにないとしても、このことから直ちにアシスタントである従業員が練習会への参加を余儀なくされていたということはできない。加えて、証拠及び弁論の全趣旨によれば、練習会に参加する従業員は、練習のためのカットモデルとなる者を各自で調達し、カットモデルを調達できないこともあったこと、従業員は練習会でカラー剤等の費用相当額をカットモデルとなった者から徴収してY社に支払っていたが、カットモデルとなった者から個人的な報酬を受け取ることができたことが認められる。
これらのことに照らすと、練習会は従業員の自主的な自己研さんの場という側面が強いものであったというべきである。
このような練習会の性格に鑑みると、Y2が練習会における練習の開始や終了に関する指示等をしていたとしても、店舗の施設管理上の指示等であった可能性を否定することができないし、XがY2から施術について注意等を受けた際に練習不足であるとの指摘を受けたことを契機として練習会に参加したとしても、これをもって練習会への参加を余儀なくされたとはいえない。
これに対し、Xは、練習会の途中で帰宅することは許されておらず、原則として従業員全員が練習会に参加しており、体調不良等を理由として練習会に参加しない場合にはY2の許可が必要であった、スタイリストに昇格した後にY2から練習が足りないと言われて練習会への参加を命じられた、練習会でのアシスタントの指導をする必要があった旨供述等するが、これを裏付ける的確な証拠はなく、Y2がXの上記供述等の内容を否定する供述等をしており、Y2の供述等の内容に特段不自然、不合理な点は見当たらないことに照らすと、Xの供述は直ちに採用することができない。
以上に述べたところによれば、Xが練習会に参加し、自らの練習や後輩の指導をしたことがあったとしても、Y社の指揮命令下に置かれていたと評価することはできないのであって、Xが練習会に参加した時間が労基法上の労働時間に該当するとはいえない。
2 Y社の休憩時間に関する主張は、要するに、顧客の本件各店舗への来店状況(予約状況)及びカット等の施術の補助業務に要する時間に基づいてXの作業時間を推定し、当該作業時間を除く時間の大部分の時間が休憩時間であるというものである。
この点、証拠及び弁論の全趣旨によれば、青山店における客の多くはY2による施術の予約客であり、Xを含む各従業員の主たる業務は、Y2による施術の補助業務(カットの場合はシャンプーや髪を乾かすブロー)のほか、タオル等の洗濯や清掃等の業務であったが、1人の客に対する施術の補助業務は同時に複数の人数でする必要はなかったこと、Xが担当していたパソコンに関する業務は頻繁にあったわけではなかったことが認められる。そして、青山店では、Xのほかに3名の従業員がいたことに照らすと、少なくとも来客がない時間にはXが実際に業務をしていない時間が相当程度あったことが推認される。また、下北沢店におけるXの業務量が青山店におけるそれよりも多かったと認めるに足りる証拠はない。
しかしながら、本件各店舗では完全予約制が採用されているところ、当日予約も受け付けており、来客の有無にかかわらず営業終了まで継続して開店し、かつ少なくとも客からの予約の電話等があり得る状態であったことが推認されることに照らすと、営業時間中にXが業務をしていない時間があったとしても、直ちに労働からの解放が保障されていたとみることはできない。
このことに関し、Y2は、来客がない時間は従業員がそれぞれ自由に過ごすことを許しており従業員は自由に休憩を取得していたなどの旨供述等するが、証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件各店舗では、従業員間の取り決めで、それぞれ交代で1人ずつ順番に20分の休憩を取得し、1回目の休憩を「1番」、2回目の休憩を「2番」と呼称していたこと、Y2は上記取り決めに関与していないことが認められるのであり、来客がない時間に自由に休憩を取得することが許されているというのに、従業員が自発的に上記のような取り決めをして休憩を取得していたというのは不自然である。また、Y2の上記供述等を裏付ける的確な証拠はない。
したがって、Y2の上記供述等は直ちに採用することができず、Xの勤務日のうち来客がない時間帯の大部分において労働からの解放が保障されていたと認めることはできない。
ところで、前記のとおり、従業員間の取り決めで、それぞれ交代で1人ずつ順番に20分の休憩を取得して、1回目の休憩を「1番」、2回目の休憩を「2番」と呼称していたことに関し、Xは、上記取り決めのとおり休憩を取得することができたわけではなく、予約が多いときには最初の20分の休憩を取ることもできなかったことがある旨供述等する。
この点、前記のとおり、青山店の従業員の主たる業務はY2による施術の補助業務であり、少なくとも来客がない時間は実際に業務をしていない時間が相当程度あったことが推認されるところ、本件サンプル期間中の勤務日のうち来客がない時間が合計1時間以上あったと考えられる日が半数を超えていることに照らすと、Xの上記供述等が休憩の取得が最長でも1日1回の20分のみであったとする趣旨であればそのまま採用することはできない。
一方で、本件サンプル期間中には来客のない時間がなかった日も存在し、かつY社では労働時間の管理は一切されておらず、取得すべき休憩時間も定めていなかったことに照らすと、Xが毎勤務日に必ず2回以上の休憩を取得していたと認めることもできない。
これらのことに照らすと、本件サンプル期間中の1勤務日当たりの休憩時間は平均して30分であったと認めるのが相当である。
この事案においても、休憩時間と手待時間に関する論点が登場します。
予約管理を従業員に行わせ、かつ、休憩時間中も対応させる場合には、本件同様の問題は生じます。
予約管理はすべてネットで行うようにすればこの問題は解決します。
労働時間に関する対応は、事前に顧問弁護士に相談したほうが間違いがないです。