Monthly Archives: 2月 2021

本の紹介1123 無駄な仕事が全部消える 超効率ハック(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。

仕事が遅い人、どれだけ仕事をしても一向に仕事が減らない人は是非読んでみましょう。

効率のいい人が当たり前のようにやっていることがまとめられています。

特に目新しい内容ではありませんが、詰まるところ、やるかやらないかです。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

どんなに時短テクニックを駆使しても、その作業自体が必要のない作業だったとしたら意味がありません。しなくてもいいことを効率的に行うことほど、無駄なことはないのです。仕事が早い人とは、作業スピードが速い人ではなく、必要のない作業を見極めて、やめてしまえる人です。」(56頁)

しなくてもいいことだらけの世の中です。

会社のルールなのでしかたなくやっている「作業」があふれかえっています。

働き方改革が始まってかれこれ経ちますが、霞が関に限らず、県庁も市役所もいまだに夜遅くまで電気がついています。

これからますます労働力が減り、その反面、コンプライアンスの名の下に作業量は増える一方です。

時間がいくらあっても足りませんね。

解雇339 提訴時の記者会見は解雇事由となる?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、育児休業取得妨害等に基づく損害賠償等請求に関する裁判例を見てみましょう。

三菱UFJモルガン・スタンレー証券事件(東京地裁令和2年4月3日・労判ジャーナル103号84頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用されていた原告が、①Y社から育児休業取得の妨害、育児休業取得を理由とする不利益取扱いをされたとして、不法行為による損害賠償請求権(不利益取扱いについては一部債務不履行による損害賠償請求権も根拠とする。)に基づき、損害賠償金+遅延損害金の支払を求めるとともに(損害賠償請求)、②Y社がXに対してした平成29年10月18日休職命令は無効であるとして、民法536条2項に基づき、平成29年10月分の未払賃金,同年11月分の未払賃金円+遅延損害金(休職期間賃金請求)、③Y社がXに対してした平成30年4月8日解雇は無効であるとして、民法536条2項に基づき、同年12月分から本判決確定の日までの賃金+遅延損害金(解雇後賃金請求)の支払を求め、④雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求める(地位確認請求)事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Y社は、Xに対し警告をしたにもかかわらず、本件訴訟において、Y社の内部文書である本件収益一覧表を顧客名等について黒塗りすることなく証拠として提出し、第三者による閲覧及び謄写が可能な状態に置いたことは「Y社及び取引先の経営情報、営業上の秘密、その他公表していない情報を他に漏らした場合」(戦略職就業規程70条3号)に当たる旨主張する。
しかしながら、Xが訴訟代理人弁護士を通じて本件収益一覧表を提出した先は裁判所であり、Y社は閲覧制限を申し立てる方法により閲覧の対象者は当事者に制限することができ、また実際にも申立てがされていて、第三者が閲覧及び謄写した事実はない(記録上明らかな事実)。そうすると、Xの行為は軽率のそしりは免れないとしても、本件収益一覧表を他に漏らした場合に当たるとまでは評価することができない。上記Y社の主張は失当であり採用することができない。

2 Xは、本件のような労使紛争において社内的な解決を図ることができない場合に、裁判所を通じた法的措置をとり、その際に世論の喚起及び支援を求めて記者会見をし、取材を通して自らが訴訟において主張する事実関係を述べることは一般的に行われており、このような行為は表現の自由として憲法上保障されているからXの前記各発言を原告の不利益に考慮することは許されない旨主張する。
Xが記者会見をして自らが訴訟において主張する事実関係を述べること自体は表現の自由によって保障されるものであることはもとよりであるが、表現の自由も他人の名誉権や信用など法律上保護すべき権利・利益との間で調整的な文脈での内在的制約に服さざるをえないというべきであって、記者会見における表現行為であるとの一事をもって、その内容がどのようなものであっても対第三者との間において許容されるべきことにはならないというべきである。かような観点からすれば、訴訟追行に必然的なものではない記者会見を通して広く不特定多数の人に向けて情報発信をした事実が客観的真実に反する事実により占められ、Y社の名誉や信用等を侵害する場合、これを解雇理由として考慮することが許されないと解することはできない。

3 Xは、育児休業から復帰した直後からハラスメントを受けたとし、B、D及びEが繰り返しXに対しXの誤解であることを説明したものの、かえってXは広く世間に対し同内容の主張を情報発信することを繰り返した。このようなXの言動は本件解雇に至るまで続いており、Xに改善の兆しは見られない。また、Xは、自らの担当顧客について「利益を生まないし、これからもそうはならないであろう」顧客などと指弾し、担当顧客の評価を不当に貶めるような発言をした。加えて、Y社では、Xの別紙の情報発信を理由として顧客取引の停止等の影響が実害として発生していることが認められる。そして、X自身も、平成29年11月2日記者会見において、Xによるハラスメントを訴えたことを理由に既にY社との取引を止めたという噂も耳にしている、この動きは広がる一方である旨述べていて、別紙の情報発信によりY社に与える打撃及び影響を十分に認識し認容しながら、Y社からの警告を受けてもなお、あえて情報発信を継続したと理解することができる。Xは、日本株及び日本株関連商品の営業業務の担当として高い職務実績をあげY社の当該業務の成果に大きく貢献することが期待され高額の給与が保証されている戦略職であり、別紙の一連の情報発信及び情報の拡散行為は、戦略職として求められている期待に著しく反するものであって、本件雇用契約上の信頼関係は修復不可能な状態になっているということができる。

上記判例のポイント2は注意が必要ですね。

提訴時の記者会見について裁判所の考え方が示されていますので参考にしてください。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

本の紹介1122 TRACTION(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は本の紹介です。

サブタイトルは「ビジネスの手綱を握り直す」(Get a Grip on Your Business)です。

帯には「翻訳を許されなかった『禁断の書』が、遂に完全日本語化」と書かれています。

「禁断の書」は明らかに誇張ですが、経営システムを考えるにはよい本です。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

成長のための成長は間違っている場合が多い。1億ドル規模の企業になることは、世間が言うほどすばらしいことではない。」(252頁)

業種や時代によっても異なるのだと思いますが、私は、拡大=成長だと考えることには否定的です。

自分の仕事が、スケールメリットを発揮しにくいと感じるにもかかわらず、拡大するのは、まさに成長のための成長です。

手段が目的化し、結果、不必要な固定費だけが増えていくのです。

売上ではなく利益を見たときに、どの程度の大きさが適切かということを冷静に考えることがとても重要です。

賃金207 36協定を締結していない場合の固定残業制度の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、固定残業代と労働時間該当性に関する裁判例を見てみましょう。

公認会計士・税理士半沢事務所事件(東京地裁令和2年3月27日・労判ジャーナル103号90頁)

【事案の概要】

本件は、Y事務所との間で労働契約を締結していた元従業員Xが、いわゆる法内残業や法定時間外労働等を行ったとして、労働契約に基づく割増賃金請求として、約104万円等の未払割増賃金等の支払を求めるとともに、労働基準法114条に基づく付加金請求として約69万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

一部認容

【判例のポイント】

1 他の従業員の補助業務を主に担当していたXは、最寄り駅に集合するよう先輩従業員から指示されていたのであるから、集合時間後は、使用者の指揮命令下に置かれていたものと評価することができ、Aへの訪問後に本件事務所に戻って業務を行った旨主張するが、Xは、翌日のBでの業務に利用する荷物をキャリーバックに詰めるために本件事務所に戻ったというのであり、このような行動を取ることについてXがY事務所から明示又は黙示の指示を受けたことを認めるに足りる証拠はなく、Xの上記行動は、X自らの判断で行った行動であるから、使用者の指揮命令下に置かれていたものと評価することはできず、Aでの業務が終了した時点で使用者の指揮命令下から離脱したものと認めるのが相当であり、また、補助業務を行っていたXは、業務を指示していた先輩従業員の指示により休日出勤を行っているから、使用者の指揮命令下にあったものと認めるのが相当である。

2 本契約書上も給与明細上も、固定残業代である営業手当とそれ以外の給与費目及び金額が明示的に区分されて記載されていることからすれば、通常の賃金に当たる部分と固定残業代に当たる部分との判別が可能といえ、また、Y事務所主張の賃金単価とXに支払われた営業手当から算出される計算上の時間外労働時間数は、Y事務所の想定と実際との乖離は大きくないものと評価でき、そして、Y事務所は、2回目の面談の際、Xに対して営業手当を含む給与待遇や残業に関する説明を行ったものと認められるところ、36協定が締結されておらず、時間外労働が違法であるとしても、使用者は割増賃金の支払義務を免れるものではないから、これにより固定残業代を支払う合意が無効となるとは解されないから、本件契約書の記載内容、本件契約締結に至る経緯及び本件契約締結後の状況を考慮すると、営業手当は、割増賃金の対価としての性質を有するものと認められ、また、上記のとおり通常の賃金に当たる部分と固定残業代に当たる部分との判別が可能であるから、営業手当は、固定残業代といえる

36協定を締結していない場合、労基法違反になりますが、上記のとおり、その事実をもって固定残業制度が無効とは判断されません。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

本の紹介1121 見えないからこそ見えた光(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。

著者は、以前、辛坊さんとともにヨットでの太平洋横断にチャレンジされた方です。

「全盲のヨットマン」である著者の人生観が書かれています。

おすすめです。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

見えないからこそ見えてくるものがあるということに気づき、環境が自分を幸せにしてくれるのではなく、どのような環境にあっても自分の心の持ち方で幸せになれるということを知ることができたのです。」(213頁)

すぐに不安を感じてしまう人は、不安の中身が自分でコントロール可能か否かを考えてみましょう。

明日の天気を心配しても仕方ありません。

環境を選択できるのであれば、できるだけ自分にプラスになる環境を選択すべきです。

未成年のときは自分の力で環境を変えることはなかなか難しいですが、大人になれば多くの場合、自分で選択できます。

大人の事情で選択できない状況に身を置いている方もいると思いますが、根本的にはそれもまた自分の選択の結果です。

いずれにせよ選択できないことを悩んでも、解決不可能なので時間の無駄です。

自分でコントロール可能なことだけにフォーカスしましょう。

労働時間66 就業時間前後の労働時間該当性と黙示の指揮命令(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、就業時間前後の労働時間該当性に関する裁判例を見てみましょう。

淀川勤労者厚生協会事件(大阪地裁令和2年5月29日・労判ジャーナル102号30頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、雇用主であるY社に対し、①雇用契約に基づき、別紙1「集計表(原告請求分)」記載のとおりの未払時間外割増賃金等170万5546円(元本141万9006円及び確定遅延損害金28万6540円の合計額)+遅延損害金の支払、②労基法114条所定の付加金88万0960円+遅延損害金の支払、③Y社がX申請に係る年次有給休暇及び生理休暇の取得妨害等をしており、これが不法行為を構成するなどと主張して、不法行為に基づく損害賠償(慰謝料)10万円+遅延損害金の支払をそれぞれ求めた事案である。

【裁判所の判断】

Y社は、Xに対し、130万2422円+遅延損害金を支払え。

Xのその余の請求をいずれも棄却する。

【判例のポイント】

1 Xは、所定始業時刻よりも早い、本件出退勤システム上の記録時刻に依拠して、その始業時刻に関する主張を構成しており、先輩看護師から所定始業時刻前に出勤して患者情報を収集するよう指示された、看護師の「ほぼ全員」がそのようにしていたなどとこれに沿う供述をする。
そして、B師長がした平成28年3月時点の発言の中に、同年2月にした「日勤」時におけるPNS導入の下、午前8時45分以降に2名で情報収集から始めるよう指示しており、「早くから出勤する職員は減ってきている」というものが含まれているところ、これはPNS導入前、所定始業時刻前に出勤して患者情報の収集等をしていた看護師がX以外にも一定数いたことを示唆するものであり、B師長自身、所定始業時刻前に出勤していた看護師は「3分の1もいなかった」などと供述している。このような証拠関係に照らせば、Xが「ほぼ全員」と表現するまでの多数であったとは認められないにせよ、平成28年1月以前(PNS導入前)の「日勤」時には、一定数の看護師が所定始業時刻前に出勤して患者情報の収集等の業務に従事していたものと認定でき、ひいては、Y社において、このような一定数の看護師がしていた行動について、担当業務の遂行方法の一つとしてこれを容認していたとみられ、この点にY社による黙示の業務命令があったと認定でき、この認定を覆すに足りる証拠はない。
さらに、Xがそのような黙示の業務命令の下で労務提供をしていたか否かについてみるに、Xは、患者情報の収集をしていた旨供述するが、所定始業時刻前に一定数の看護師が出勤して、現に患者情報の収集等をしていたと認められるところ、Xが所定始業時刻前に出勤していた限りにおいて、そのような業務を行う者の一人であったことを否定する事情は見当たらない当時、Xは入職後間もない時期にあり、先輩看護師らが業務をする中で、あえて何の業務にも携わっていなかったというのもかえって不自然である。)。
そうすると、Xは、この期間における「日勤」時について、前記のとおりに認められる黙示の業務命令に基づき、本件病院建物への到着後間もなく、労務提供を開始していたと認定できる

2 Xは、本件出退勤システム上の記録時刻を前提として、平成27年4月10日から平成28年2月23日までについては、着替え等に要するものとして、さらに10分間早い時刻をもって始業時刻とする旨その主張を構成しているところ、Xは、この期間に限り、本件病院建物に到着後、着替え等をしてから本件出退勤システムへの時刻登録をしていたことが認められる。
そして、本件病院では、看護師の制服が採用されるとともに、Y社によってその更衣場所が定められるなどしており、清潔を保持すべき看護師という業務の性質等をも踏まえる限り、本件病院での看護師の制服への着替えは、その業務に不可欠な準備行為として、Y社から黙示的に義務付けられていると評価すべきである。このような本件における具体的事情に照らせば、この着替え等に要する時間についても、Y社の指揮命令下に置かれていたものとして、これを労働時間の一部と捉えることが相当である。
もっとも、着替え等に要する時間について,Xは10分間であるものと主張するが、これを裏付ける客観的証拠はなく、2分間くらいで、長くとも5分間もあれば十分であるといった、Xの供述に相反する趣旨の他の看護師の供述があるところ、2分間というのは短きに過ぎるものであるにせよ、5分間という内容は不自然不合理ということはできず、Xの主張は5分間の限度で認定できるにとどまる。

証人尋問での一言を拾われて、判決理由に使われている例です。

事案としては、黙示の指揮命令を認定しやすい類型だと思います。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

本の紹介1120 ゴミ人間(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。

西野さんの本です。

サブタイトルは「日本中から笑われた夢がある」です。

お笑い芸人が絵本作家になることをさんざんバッシングされた過去、それでもなおあきらめずにやり続けたことが書かれています。

いかに世間の評価が非論理的で「なんとなく」なされているかがよくわかります。

いつの世も、他人の評価なんて何の役にも立たないのです。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

夢を語れば笑われて、行動すれば叩かれてしまうので、もう誰もバカなことを言い出しません。もう誰も見上げることをしません。皆、足元を確認しながら歩くようになりました。互いの行動を監視し合い、少しでも踏み誤ると容赦なく叩く。おかげで世界はすっかり正解で溢れましたが、まもなく僕らは、正解で溢れた世界がこんなにも息苦しいことを知ります。」(75~76頁)

今の日本は「正解」ばかりで窒息しそうですね。

模範解答から少しでもズレようものなら、寄ってたかって袋叩きの刑です。

ホームランを狙って空振り三振をしようものなら、クレームとバッシングの嵐です(笑)

生き苦しいと感じている人も多いと思います。

他人の評価は気にしないに限ります。

全員から好かれることはないのと同様、全員から嫌われることもそうそうありません。

好きなように生きればいいのですよ。

解雇338 身元保証契約の効力が及ぶ範囲とは?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、窃盗を理由とする懲戒解雇に関する裁判例を見てみましょう。

近畿中央ヤクルト販売事件(大阪地裁令和2年5月28日・労判ジャーナル102号34頁)

【事案の概要】

第1事件は、乳製品乳酸菌飲料の販売等を目的とするY社の従業員であったXがY社による懲戒解雇が無効であるとして、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、主位的に、労働契約に基づき、平成29年11月分の未払賃金9万7147円+遅延損害金、同年12月から本判決確定の日まで毎月25日限り16万円の賃金+遅延損害金、別紙割増賃金一覧表「割増賃金未払額」欄記載の各割増賃金+遅延損害金、労基法114条に基づき、上記未払割増賃金のうち325万5837円と同額の付加金+遅延損害金の各支払、XとY社との間において、XのY社に対する売上金領得に係る不法行為に基づく損害賠償債務が存在しないことの確認、予備的に、不当利得に基づき、9万7147円+法定利息の支払を求める事案である。

他方、第2事件は、Y社の従業員であったXがY社の管理する自動販売機から売上金を回収する際、自動販売機内の売上金を着服(窃取)し、Y社の権利を故意に侵害したとして、Xについては不法行為に基づき、Xの同損害賠償債務をB及びCが連帯保証したとして、B及びCについては連帯保証契約に基づき、連帯して、窃取された売上金相当額等計137万0460円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

Xの債務不存在確認の訴えを却下する。

Y社は、Xに対し、別紙原告金額シート「割増賃金未払額」欄記載の各金員+遅延損害金を支払え。

第2事件被告らは、Y社に対し、連帯して123万円+遅延損害金を支払え。

Xのその余の請求及びY社のその余の請求をいずれも棄却する。

【判例のポイント】

1 Xに交付された「雇用条件」と題する書面、Xに適用される本件嘱託規程には、営業手当にみなし残業代が含まれる旨の記載がない。また、本件嘱託規程には、営業手当等の各種手当は、職務内容等を勘案し、各人ごとに個別の雇用契約書で定める旨記載されているところ、Xの労働条件通知書(雇入通知書)には、基本賃金月給15万5000円とあるのみで営業手当に関する定めがない
この点、Y社の当時の給与規程において営業手当に関し、「ただし、営業手当には、時間外勤務手当相当額を含むものとする。」との定めがあったとしても、Xとの間においてはそれと異なる約定であった可能性を否定できない。Xの労働条件通知書においては、他の箇所(休暇等)では詳細について就業規則を引用する定めがある一方、賃金については給与規程を引用しておらず、営業手当に関する定めがないことは給与規程とは別段の定めがある可能性を裏付けるものといえる。
そうすると、Xとの関係では、Y社が主張する上記固定残業代の合意があったとは認められない。

2 第2事件被告らは、本件各身元保証契約の範囲がXとY社との間の当初の労働契約の範囲(遅くとも平成28年3月31日まで)に限られる旨主張する。
しかしながら、本件各身元保証契約自体には期限が定められていない。また、XとY社との間の労働契約が当初から一定期間の継続雇用が見越されていたことは当事者間に争いがない。さらに、Xの当初の労働契約とその後の労働契約でXの任地や職務内容に変更がなく、B及びCの責任を加重したり、監督を困難にするような契約内容の変更は認められない。そうすると、本件各身元保証契約を締結するに当たり、B及びCは、平成28年4月1日以降もXの行為について責任を負うことを想定していたものと考えられる。このように解しても、身元保証ニ関スル法律1条により存続期間が制限されるから同法の趣旨に反することにはならない。加えて、Xの行為によるY社の損害額が123万円である一方、XがY社以外で勤務し、平成30年1月以降月額30万円以上(平成30年7月から令和元年5月まで月額38万円,令和元年6月は39万5000円)の収入を得ており、Xにもある程度の弁済能力があると考えられ、したがって、B及びCに全額の保証責任を負わせても、過大な負担を負わせるとはいえないこと、Y社の過失を認めるに足りる証拠がないこと等の事情を斟酌すると、本件各身元保証契約の範囲は、Xの売上金着服行為に及び、その金額もY社が被った全額に及ぶと認めるのが相当である。
よって、B及びCは、Xの行為によりY社が受けた123万円の損害の賠償責任を負う。

民法改正により身元保証に関しても、極度額による制限が設けられましたが、考え方自体は参考になりますね。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。