おはようございます。
今日は、自動車接触事故等の不申告を理由とする雇止めに関する裁判例を見てみましょう。
日の丸交通足立事件(東京地裁令和2年5月22日・労判ジャーナル104号44頁)
【事案の概要】
本件は、Y社においてタクシー運転手として勤務し、定年退職後は有期の嘱託雇用契約を結んで稼働していたXが、平成31年4月18日をもって受けた雇止めは無効であると主張して、労働契約に基づき、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認+令和元年5月から本判決確定の日まで,毎月25日限り,雇止め直前3か月間の給与の平均額の一部である15万7418円+遅延損害金の支払を求める事案である。
【裁判所の判断】
請求認容
【判例のポイント】
1 Y社は、日頃から、タクシー運転手にメモを配布したり、明番集会や出庫前点呼で問題事案の発生の機会を捉えて運転手への周知を徹底するなどして、運転手が救護義務違反や報告義務違反を起こさないよう指導していたことが認められるところ、それにもかかわらず、Xが、本件接触の際、すぐに、あるいは遅くとも乗客を降車させた直後に警察や営業所に連絡しなかったことは、自転車の運転者が、後日になって事故を申告する可能性があることを考慮すれば、Y社や他の従業員にとって重大な影響を与えるおそれのある不申告であって、Y社が、Xが起こした不申告事案に対し、厳しい態度で臨まなければならないと考えることも十分理解できる。
しかし、一方で、本件接触は、左後方の不確認という比較的単純なミスによるもので、接触した自転車の運転者は、ドライブレコーダーの記録から受け取れる限り、倒れた様子は見受けられず、接触後すぐに立ち去っていることから、本件接触及び本件不申告は、悪質性の高いものとまではいえない。後に事案を把握した警察においても、本件接触や本件不申告を道交法違反と扱って点数加算していないことも踏まえれば、本件接触及び本件不申告は、警察からも重大なものとは把握されていないことがうかがわれる。
また、Xは、営業を終え、車体に痕跡を発見したことがきっかけではあるものの、自分から本件接触をD補佐に報告しており、本件接触を隠蔽しようとはしていないことが認められ、報告後、現場に戻って警察に連絡することや、本社面談を受けることなどの会社の指示に素直に従い、接触の原因や不申告の重大さなどについて注意、指導を受けた内容を記憶し、反省していることも認められる。加えて、Xの車両に何らかの修理や塗装が施されたことを示す的確な証拠はなく、Xが、タクシー運転手として三十数年間、人身事故を起こすことなく業務に従事し、何度も表彰されるなど、優秀なタクシー運転手であったこと、本件接触のような一見する限り怪我がないように見える接触の相手方が無言で立ち去ってしまった場合に、警察に報告しなければならないことが頭に浮かばなかったとしても、一定程度無理からぬものがあることも考慮すれば、本件接触及び本件不申告のみを理由に雇止めとすることは、重過ぎるというべきである。
したがって、本件接触及び本件不申告のみを理由とする本件雇止めは、客観的に合理的な理由があり、社会的通念上相当であるとは認められない。
懲戒処分や解雇・雇止め等を行う場合に、当該処分や行為の相当性を判断することは本当に難しいです。
個人的には結論は妥当だと考えますが、非常に悩ましい事案です。
日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。