賃金205 職務手当が固定残業代として認められるためには?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、固定残業代制度の有効性と割増賃金等請求に関する裁判例を見てみましょう。

サン・サービス事件(名古屋高裁令和2年2月27日・労判1224号42頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、Y社に対し、①雇用契約に基づき、未払残業代、未払い給与、②付加金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

Y社はXに対し、577万4788円+遅延損害金を支払え

Y社はXに対し、付加金370万4451円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 Xは、料理長としての仕事のみならず、フロント業務の一部や客の送迎をも行っていたこと、本件店舗を含むホテル内には従業員の休憩施設がないことなどに照らすと、Xが調理等に従事していない時間があったとしても、それは勤務から完全に解放された休憩時間ではなく、手待ち時間とみるのが相当である。

2 労基法37条5項により割増賃金の基礎から除外される通勤費は、労働者の通勤距離又は通勤に要する実際費用に応じて算定される手当と解される。本件提案書によれば、Xに支給される通勤費は、日額625円として月額1万5000円が支給されることになっているところ、本件提案書作成時、Xは千葉県に居住しており、勤務開始後の実際の通勤距離や通勤に要する実際費用に応じて定められたものとは認められず、労基法37条5項の通勤手当に当たるとは認められない

3 Y社は、XとY社間の雇用契約書である本件提案書に、「勤務時間」として「6時30分~22時00分」と記載し、「休憩時間は現場内にて調整してください。」としていた上、勤務時間管理を適切に行っていたとは認められず、Xは、平成27年6月から平成28年1月まで、毎月120時間を超える時間外労働等をしており、同年2月も85時間の時間外労働等をしていたことが認められる。その上、Y社は、担当の従業員が毎月Xのタイムカードをチェックしていたが、Xに対し、実際の時間外労働等に見合った割増賃金(残業代)を支払っていない。
そうすると、本件職務手当は、これを割増賃金(固定残業代)とみると、約80時間分の割増賃金(残業代)に相当するにすぎず、実際の時間外労働等と大きくかい離しているものと認められるのであって、到底、時間外労働等に対する対価とは認めることができず、また、本件店舗を含む事業場で36協定が締結されておらず、時間外労働等を命ずる根拠を欠いていることなどにも鑑み、本件職務手当は、割増賃金の基礎となる賃金から除外されないというべきである

仕事柄、労働時間が長くなってしまうことは容易に想像できますが、労務管理の基本を押さえていなかったがために、ちゃんとやっていれば支払う必要のない支出を強いられることになります。

事前に顧問弁護士の指導を受けておけば多くの類似トラブルは回避できます。