おはようございます。
今日は、身体的接触及びくじ引き行為に基づく慰謝料請求に関する裁判例を見てみましょう。
海外需要開拓支援機構ほか1社事件(東京地裁令和2年3月3日・労判ジャーナル102号44頁)
【事案の概要】
本件は、F社との間で労働契約を締結し、F社とB社との間の労働者派遣契約に基づいてB社に派遣されて就労していたXが、①B社の執行役員であったD及び取締役であったCの言動により人格権が侵害されたと主張して、C及びDに対し、不法行為に基づき、それぞれ慰謝料400万円+遅延損害金の支払を求め、②B社及びF社は上記人格権侵害に係る対応においてそれぞれ就業環境配慮・整備義務を怠ったと主張して、不法行為に基づき、B社に対し慰謝料200万円、F社に対し慰謝料400万円+遅延損害金の支払を求め、③B社がF社との間の原告に係る労働者派遣契約を更新しなかったことなどが労働組合法7条の不当労働行為に該当し、これにより原告の団結権等が侵害されたと主張して、B社に対し、不法行為に基づき、慰謝料200万円+遅延損害金の支払を求め、④B社の執行役員であるEは、B社の人事部長に対して不当な目的で上記労働者派遣契約の更新拒否等をするよう指示したと主張して、Eに対し、不法行為に基づき、慰謝料400万円+遅延損害金の支払を求めた事案である。
【裁判所の判断】
Dは、Xに対し、5万円+遅延損害金を支払え。
Cは、Xに対し、5万円+遅延損害金を支払え。
Xのその余の請求をいずれも棄却する。
【判例のポイント】
1 Dは、XがDの手を払って拒否していることが明らかであるにもかかわらず、故意に複数回Xの肩に手を回そうとして、現にXの肩に触れたものであるところ、男性であるDが女性であるXの意思に反して複数回その身体に接触した上記行為は、Xの人格権を侵害する違法行為というべきであって,不法行為に当たる。
次に、Dは、派遣労働者であるXが執行役員であるDに対して拒否の意思を示すことは容易ではないことは明らかであるのに、XがDに対して拒否する意思を明確にしていることを意に介することなく複数回Xの肩に手を回そうとしたものであって、Xは、相応の羞恥心、強度の嫌悪感を抱いたものと推認される。他方、Dが接触した部位は肩というにとどまり、また、上記行為が10分間などの長時間に及んだとまでは認められない。なお、この点、Xは、Kに対し、LINEを用いて「私は大丈夫です」とのメッセージを送信しているが、その前後のやり取りからすれば、Kが太ももなどを触られたというのと比較して述べたのにすぎないことが明らかである。
以上の事情を考慮すれば、Xが被った精神的苦痛に対する慰謝料の額としては、5万円が相当である。
2 本件懇親会において実施された本件くじ引きは、参加した女性従業員らがG又はCと共にくじに記載された映画等の行事に参加することやGに手作りの贈り物をすることなどを内容とするものであって、これらがB社における業務でないことは明らかである。そして、本件くじ引きをさせた行為を客観的にみれば、くじ引きという形式をとることにより、単に映画等に誘うなどするのとは異なり、女性従業員らにおいて、その諾否について意思を示す機会がないままに本件くじに記載された内容の実現を強いられると感じてしかるべきものである。
しかも、本件くじ引きを企画したCは、B社の専務取締役であるから、派遣労働者であるXが本件くじ引き自体を拒否することは困難と感じたことは容易に推認される。
・・・以上によれば、Cが本件くじ引きをさせた行為は、Gの接待等を主たる目的として、Xの意思にかかわらず業務と無関係の行事にGやCと同行することなどを実質的に強制しようとするものであり、Xの人格権を侵害する違法行為というべきである。
3 Cによる本件懇親会及び本件くじ引きについて、B社がXの意向のままにハラスメントと認定し、Xの望むままの処分をしなければならない法律上の義務はない。また、B社は、Cによる本件懇親会及び本件くじ引きについて、Xが社外ホットラインに通報した後、速やかに関係者に対する事実関係の調査を実施し、弁護士の助言に基づいてCの行為を不適切と判断して厳重注意をしたのであって、その調査や判断の過程に不適切な点があったとの事実を認めるに足りる証拠はなく、B社が適切な調査等をしなかったと評価するべき理由はない。
4 Dの本件セクハラ行為についても、B社がXの主張するままにこれをセクシュアルハラスメントであると認定しなければならない法律上の義務はない。また、Xが社外ホットラインに通報した当時には既にDは退職しており、B社にDに対する処分をする前提がそもそもなかったのであるから、B社にDに対する調査や処分をするべき義務があったと解する根拠もない。
さらに、仮にB社が実施した平成29年5月12日の研修においてXが主張するような説明(一般人の感じ方を基準として専門家や弁護士が検討して会社が決定する旨の説明)があったとしても、その内容が客観的に見て不適切であるというべき理由はない。
ハラスメント事案における慰謝料の金額は、本件のようにかなり低いです。
また、会社の責任については、事後の対応を適切に行うことにより回避することができます。
ハラスメントについては、注意喚起のために定期的に研修会を行うことが有効です。顧問弁護士に社内研修会を実施してもらいましょう。