Daily Archives: 2020年11月9日

賃金200 賃金減額についての労働者の同意の効力(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、賃金総額の25%減額への同意が労働者の自由な意思に基づくものでないとされた裁判例を見てみましょう。

O・S・I事件(東京地裁令和2年2月4日・労経速2421号22頁)

【事案の概要】

本件は、XがY社に対し、Y社は、Xを雇用していたが、Xがセクハラ等をしたとして、賃金を減額し、さらに、Xが行方不明となり連絡が取れなかったことにより退職したものとみなされたとしてXの就労を拒んだと主張して、雇用契約に基づき、①雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認(請求1)、②平成27年10月支給分の未払賃金(減額前の24万円から既払金を控除した残金1万7142円)及び同年11月分支給から平成30年3月支給分までの賃金(24万円の29か月分696万円)の合計697万7142円+遅延損害金の支払(請求2)、③平成30年4月から本判決確定の日まで弁済期である毎月10日限り賃金24万円+遅延損害金の支払(請求3)を求めるとともに、④会社法350条又は不法行為に基づき、慰謝料200万円+遅延損害金の支払(請求4)を求めた事案である。

【裁判所の判断】

XがY社に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

Y社は、Xに対し、131万9994円+遅延損害金を支払え。

Xのその余の請求をいずれも棄却する。

【判例のポイント】

1 労働契約の内容である労働条件は、労働者と使用者との個別の合意によって変更することができる。しかし、使用者が提示した労働条件の変更が賃金に関するものである場合には、当該変更を受け入れる旨の労働者の行為があるとしても、労働者が使用者に使用されてその指揮命令に服するべき立場に置かれており、自らの意思決定の基礎となる情報を収集する能力にも限界があることに照らせば、当該行為をもって直ちに労働者の同意があったものとみるのは相当でなく、当該変更に対する労働者の同意の有無についての判断は慎重にされるべきである
そうすると、賃金の変更に対する労働者の同意の有無については、当該変更を受け入れる旨の労働者の行為の有無だけでなく、当該変更により労働者にもたらされる不利益の内容及び程度、労働者により当該行為がされるに至った経緯及びその態様、当該行為に先立つ労働者への情報提供又は説明の内容等に照らして、当該行為が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否かという観点からも判断されるべきものと解するのが相当である(最高裁平成28年2月19日判決)。

2 本件契約書の内容は、Xを機能訓練指導員手当1か月1万円が支給される業務から外してその支給を停止するばかりでなく、その基本給を1か月23万円から18万円に減額し、賃金総額を25%も減じるものであって、これによりXにもたらされる不利益の程度は大きいというべきである。他方、Y社代表者はXに対し、本件合意に先立ち、XがY社に無断でアルバイトをしたとの旨や本件施設の女性利用者から苦情が寄せられている旨を指摘したのみであるといい、Y社代表者の陳述書や本人尋問における供述によっても、Y社代表者がXに対して上記のような大幅な賃金減額をもたらす労働条件の変更を提示しなければならない根拠について、十分な事実関係の調査を行った事実や、客観的な証拠を示してXに説明した事実は認められない
以上によれば、Xが本件契約書を交付された後いったんこれを持ち帰り、翌日になってからこれに署名押印をしたものをY社代表者に提出したという本件合意に至った経緯を考慮しても、これがXの自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するものとは認められない

3 以上の次第で、本件契約書の作成によっても、そこに記載された本件合意の内容へのXの同意があったとは認められないから、本件雇用契約に基づく賃金を基本給18万円のみに減額するとの本件合意の成立は認められない。

労働条件の不利益変更に際し、労働者の同意の効力が問題となることはよくあります。

同意書がありさえすればよいという発想が誤りであるということがよくわかる裁判例だと思います。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。