Monthly Archives: 11月 2020

配転・出向・転籍44 職種変更を伴う出向元への復職命令は有効か?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、長年従事してきた業務からの変更を伴う出向元への復職命令について権利濫用が否定された事案を見てみましょう。

相鉄ホールディングス事件(東京高裁令和2年2月20日・労経速2420号3頁)

【事案の概要】

本件、①Y社の従業員であるX1ないし58が、Y社のバス事業がその子会社であるS1社に譲渡されるのに伴い、S1社に在籍出向し、バス運転業務(X19につき車両整備業務)に従事していたところ、Y社から、順次、出向の解除を命じられ(以下「本件復職命令」という。)、バス運転業務(X19につき車両整備業務)に従事することができなくなったが、本件復職命令は、労働協約、個別労働契約に違反し、権利濫用であって、不当労働行為に当たるから、無効であるなどと主張し、Y社に対し、〈ア〉X2及び5を除く個人控訴人らが、バス運転士(X19につき車両整備士)以外の業務に勤務する義務がない労働契約上の地位にあることの確認を求め、〈イ〉個人控訴人らが、不法行為に基づく損害賠償として、それぞれ110万円+遅延損害金の支払を求めるとともに、②A組合が、Y社らに対し、上記①の違法行為により組合員の信頼を喪失したなどと主張し、Y社につき労働協約違反の債務不履行又は不法行為及びY社の代表取締役であるY2につき会社法429条1項又は不法行為に基づく損害賠償として、330万円+遅延損害金の連帯支払を求めた事案である。

原審はXらの請求をいずれも棄却し、Xらが本件控訴を提起した。

【裁判所の判断】

控訴棄却

【判例のポイント】

1 本件労働協約にXらの主張するような不確定期限ないし解除条件が付されていたことを示す文言はないし、定年退職までとか将来にわたってという文言を協約に入れてほしいという要望について、Y社は応じなかったというのであり、本件労働協約の締結に至る労使の協議においても、そのような不確定期限ないし解除条件について合意がされたことをうかがわせる事情はない。本件労働協約が、本件バス事業分社の際のY社の従業員について、S1社への在籍出向とし、労働条件差異について補填を実施することを約すことにより、バス事業に従事するY社所属組合員らの処遇を将来に向けて定めたものであるとしても、そのことをもって、Y社が一定の期間の経過又は一定の解除条件の成就までは出向元への復職を命じないとの合意があったということはできない。さらに、本件労働協約の締結を経て本件バス事業分社がされてから本件提案がされるまで3年半しか経過していないこと、この間、Y社におけるバス事業に係る経営上の見通しについて、本件労働協約が締結された時点と比較して特段の大きな変化があったという事情はうかがわれないことを考慮しても、Y社が、個人控訴人らの出向元として、個人控訴人らに対して復職を命じることができないと解すべき特段の事由があるものとはいえない

2 X19を除く個人控訴人らの職務をバス運転士に限定する職種限定合意があったと認められないことは、前記のとおりである。そして、バス運転士の職種転換の実績において、同意なく職種転換がされた事例が見当たらないとしても、人事異動を円滑に行うためであったとみることができるのであって、これが直ちに本件職種転換合意の成立を裏付けるものとはいい難い。また、本件調整確認書には、職種変更により本給を調整する必要が生じる場合として、自動車運転士から他の職種への変更について自己都合によるものしか記載されていないとしても、これをもって、会社の配転命令により自動車運転士から他の職種に転換することはないとの合意があるとまでは認められない。さらに、出向社員取扱規則において、バス運転士が復職意思の確認手続から除外されたこと、平成18年説明会におけるY社の説明中に、組合員からの「出向協定は3年だが、3年後はどうなるのか。」との質問に対し、「出向の3年は今回も生きている。何らかの理由で復職を望む人がいれば個別に相談に応じる。例えば視力の問題でMが無理ということになれば職変を条件に相談する、といったケースなどだ。」との記載があることについても、本件職種転換合意がなければ、このような規則改正ないし説明はされないものとまではいえず、直ちに当該合意の存在を裏付けるものとはいえない。

3 本件提案当時には、一方でS1社の路線エリアの将来人口は減少することが予想されており、他方でS1社の営業利益をY社の出向補填費が上回っているといったその当時のバス事業を取り巻く状況から、バス事業の収支を改善する必要があったこと自体は否定できず、これらの事情の下で、利用者減が予測され、将来的にも収益増が期待し難い状況であることから、バス事業の収支改善の方策として、出向補填費の削減を図ろうとすることに合理性はあるといえること、本件提案時において、S1社の従業員の約40%がY社からの在籍出向者であり、S1社籍のプロパー社員の平均給与(正社員バス運転士の平成27年の給与の平均値)は約480万円であるのに対し、同じ業務に就いている被控訴人会社からの出向者の平均給与(同上)は約840万円であって、プロパー社員の給与よりも高額であることから、プロパー社員の不満が募っている可能性があり、その他両者の間には、手当の支給条件・方法の違いや、休暇の有無・取得日数・有給無給の違い等にも差異があり、これらを解消し労務管理を効率化するために、Y社からの在籍出向を解消する必要性があること、復職者の再出向についても、相鉄グループ内で再出向の必要性がある会社に再出向させられており、本件復職命令の合理性を基礎付けるものといえること、これらの事情によれば、本件復職命令について、業務上の必要性・合理性があったと認められることは、前記説示のとおりである。

裁判所の事実認定のしかた、反対事実に対する捉え方が非常に参考になります。

実際の対応については顧問弁護士に相談しながら慎重に行いましょう。

本の紹介1100 シン・ニホン(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は本の紹介です。

サブタイトルは、「AI×データ時代における日本の再生と人材育成」です。

これからの日本で必要とされる資質、能力、発想がめいっぱい書かれています。

一読して損はありません。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

『狭き門より、入れ。滅びにいたる門は大きく、その道は広い。そして、そこから入っていくものが多い。命にたる門は狭く、その道は細い。そして、それを見出すものは少ない』(マタイによる福音書第7章)
・・・異人化の教えは実は2000年前から存在していたのだ。これは実に真実を突いている。人生設計、就職、仕事探しにおいて、とりわけ正しい。人が群がるところに行くということは、コモディティへの道、部品課への道を歩むということだ。人がすでに歩いた道を行くのだから、当然、先行者利益などない。その人の価値は『何者であるか』ではなく、『どの組織に属しているか』でほとんど判断されることになる。」(154~155頁)

「いつまでもあると思うな、親と会社」です。

どの組織に属しているかではなく、あなた自身が何者なのか、ということを意識しないと、「歯車」であることに慣れてしまいます。

常に自分が商品であるということを強く意識して、商品価値を高める努力を続ける。

入社してから定年まで、絶対に昇給が続き、年2回賞与が出て、退職金が出るなんて考えている人は、このご時世、もはやいないと思いますが、仮にそのような人がいるとすれば、それは「そうあってほしい」という願望であって、単なるファンタジーです。

これまでどれだけの準備をしてきたか、努力を続けてきたかが近い将来試されるときがくるでしょう。

解雇334 会社が暴行の被害者に先行支払をした後の求償問題(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、暴行を理由とする諭旨解雇無効に基づく損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

N社事件(東京地裁令和2年2月27日・労判ジャーナル102号48頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で労働契約を締結してマンションの管理人として就労していたXが、勤務中に第三者に暴行を加えて傷害を負わせたことを理由としてY社から諭旨解雇処分を受け、また、Y社及びXと上記暴行の被害者との間でY社及びXが同被害者に対して連帯して解決金60万円を支払う旨の訴訟上の和解が成立し、Y社が同解決金を支払ったところ、Xが、Y社に対し、上記諭旨解雇は無効であり、Y社がXを解雇したことが不法行為を構成する旨主張して、不法行為による損害賠償として、解雇日から定年までの賃金相当額458万円と慰謝料300万円等の支払を求め(本訴請求)、Y社が、Xに対し、連帯債務者間の求償として、Y社が支払った解決金相当額である60万円等の支払を求めた(反訴請求)事案である。

【裁判所の判断】

本訴請求は棄却

反訴請求は認容

【判例のポイント】

1 XがGに対して暴行して傷害を負わせているから、準社員就業規則所定の「刑法犯に該当する行為を行った」に該当し、そして、本件傷害事件に至る経緯及びその態様についてみると、XがGから危害を加えられる危険性が高かったともいえないにもかかわらず、Xは、一方的にGに対して手拳で十数回殴打する暴行を加えたのであり、本件傷害事件におけるXの行為は悪質であるといわざるを得ず、しかも、Xは、本件傷害事件の当時、Y社の会社名及びロゴマークが入った制服を着用して本件マンションの管理人として勤務中であり、Y社の信用が毀損されるおそれの高い行為であるというべきであるから、本件諭旨解雇が社会通念上相当であると認められないということはできず、本件諭旨解雇が権利を濫用するものとして無効であるということはできない。

2 本件和解は本件傷害事件に係るXの不法行為による損害賠償債務及びY社の使用者責任による損害賠償債務についてされたものであるところ、本件傷害事件は、Xの故意による不法行為であり、XにおいてGに対する暴行をすることがやむを得ないという状況にあったとはいえず、しかも本件マンションの管理人としての業務内容を大きく逸脱するものであってY社において予見し得る行為であったといい難いことに照らせば、Y社がGに対して使用者責任による損害賠償債務を弁済した場合のXに対する弁済金相当額の求償については信義則上の制限を受けないというべきである。

妥当な結論です。

会社が使用者責任により被害者に支払をした場合には、上記判例のポイント2のような求償の問題が出てきます。その際、割合が争点となりますので注意してください。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

本の紹介1099 成功者がしている100の習慣(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。

タイトルのとおり、成功している人がいかなる傾向の習慣を身に付けているかが書かれています。

わかることとできることは天と地ほど違います。

習慣として日々継続しない限り、いくら本を読み漁っても人生は1ミリも変わりません。

おすすめです。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

世の中の人は、みんなが成功しているわけではありません。逆に言えば、成功者は、どこかで普通の人たちと違うことをしています。『人と同じ』で満足せず、本当に大切な行動に集中しているのです。」(32~33頁)

もう当たり前すぎて何をどうコメントしていいかわからないくらい当たり前のことです。

こんなこと、みんな「わかっている」のです。

でも「できない」し「やらない」。

人より早く起きて、毎日、努力を続けていれば、嫌でも結果は出ますよ。

続けられるかどうか。

ただそれだけのこと。

賃金202 営業成績給廃止を有効に行うためには?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、営業成績給を廃止する就業規則の変更の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

野村不動産アーバンネット事件(東京地裁令和2年2月26日・労経速2427号31頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で期間の定めのない労働契約を締結し、本件労働契約に基づき営業担当従業員としてY社に勤務している従業員Xが、平成29年4月1日に施行されたY社の就業規則及び給与規程は、従前の給与体系において支給されていた営業成績給を廃止する点において労働条件の不利益変更に当たり、かつ、当該変更が合理的なものであるとはいえないから、本件労働契約の内容とはならないなどと主張して、Y社に対し、本件労働契約に基づき、変更前の従前の給与体系に従って算出した同年6月支給分から平成30年6月支給分までの営業成績給の合計約172万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件就業規則の変更の有効性について、Y社において本件就業規則の変更は、営業職Aの職務にあったXには、少なくとも月例賃金で支給されていた営業成績給が支給されなくなるのであるから、本件就業規則の変更により不利益が生じる可能性があるということができるところ、本件人事制度の導入直後の不利益は、将来にわたって固定化されるものではなく、今後の昇進等により減少ないし消滅し得るものであるということができ、Y社が従業員の定着率を上げるために営業成績給を廃止し、それを月例賃金や賞与等の原資とし、支給額が安定的な給与制度を導入する必要があったことは否定し難いから、本件就業規則は、従業員に対する賃金の総原資を減少させるものではなく、賃金額決定の仕組みや配分方法を変更するものであり、従業員の定着率を上げるというY社の人事計画とも合致するものであるから、本件就業規則の変更について、その内容も相当なものであるということができ、Y社は、従業員に対して必要とされる最低限の説明は行っており、従業員の過半数代表者から異議がない旨の意見も聴取していることが認められ、労働者の受ける不利益の程度を考慮してもなお、本件就業規則の変更は合理的なものであるということができ、本件就業規則の変更は周知されていたと認めることができるから、本件就業規則の変更による労働条件の変更は、有効である。

内容の合理性と手続きの相当性を総合考慮しているのがよくわかりますね。

コロナの影響がまだまだ続きそうですので、労働条件の不利益変更を行う場面が多いと思いますので、慎重に対応しましょう。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

本の紹介1098 億を稼ぐ積み上げ力(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は本の紹介です。

昭和の常識は令和の非常識ということがよくわかる本です。

無駄だらけの日常生活の中でいかに効率よく最短距離でゴールに到達するか。

地道な努力+効率の良い方法=最強ということがよくわかります。

おすすめです。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

大半の社会人は勉強をしていません。平成28年に総務省が行なった社会生活基本調査によると、日本人就業者が学習・自己啓発のために割いている時間は1日平均6分だということです。『仕事が忙しくて時間がとれない』『今日は疲れたし、ビールでも飲んで寝よう』『週末くらい休まないと、やってられない』言い訳を挙げればきりがありません。多くの人は『時間ができたら、やる』と言います。たぶん、その気持ちに嘘はないのでしょう。勉強したほうがよいことは分かっている。でも、今は忙しいから・・・。しかし、このような態度では、時間ができることは永遠にありません。仕事が忙しくなく、悩みや不安もなく、疲れてもおらず、完璧に快適に『勉強できる』という状況なんて、絶対に訪れないのです。」(100頁)

もはやぐうの音も出ない程の真実です。

みんななんやかんや毎日忙しいですよ。

それでもやっている人はやっているのです。

努力し続けることでしか人生は変わらないことを知っているからです。

自分の人生は自分の力で変えるしかありません。

賃金201 変形労働時間制が有効と判断されるためには?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、賃金減額等の有効性及び固定残業代の定めの適法性に関する裁判例を見てみましょう。

木の花ホームほか1社事件(宇都宮地裁令和2年2月19日・労判1225号57頁)

【事案の概要】

本件は、Y社及びその親会社A社の従業員であったXが、(1)Y社に対し、雇用契約に基づき、①一方的な給与減額により生じた未払賃金24万9999円及び②未払の時間外手当(割増賃金)859万6109円+遅延損害金、③労働基準法114条に基づく付加金836万8740円+遅延損害金の支払、(2)A社に対し、雇用契約に基づき、①一方的な給与減額により生じた未払賃金等127万9496円及び②未払の時間外手当(割増賃金)662万5869円+遅延損害金の支払、③労働基準法114条に基づく付加金648万6036円+遅延損害金の支払、そして、(3)Y社らに対し、Y社ら代表取締役らからパワハラ被害を受けたとして、共同不法行為に基づき、連帯して、損害賠償金520万円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

Y社はXに対し、未払賃金24万9999円+遅延損害金を支払え

A社はXに対し、未払賃金122万3496円+遅延損害金を支払え

Y社はXに対し、割増賃金551万3847円+遅延損害金を支払え

A社はXに対し、割増賃金555万1406円+遅延損害金を支払え

Y社はXに対し、付加金265万4516円+遅延損害金を支払え

A社はXに対し、付加金271万1931円+遅延損害金を支払え

被告らは、Xに対し、連帯して、慰謝料100万円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 本件各雇用契約の内容として本件固定残業代の定めがあることは事実としても、その運用次第では、脳血管疾患及び虚血性心疾患等の疾病を労働者に発症させる危険性の高い1か月当たり80時間程度を大幅に超過する長時間労働の温床ともなり得る危険性を有しているものというべきであるから、「実際には、長時間の時間外労働を恒常的に行わせることを予定していたわけではないことを示す特段の事情」が認められない限り、当該職務手当を1か月131時間14分相当の時間外労働等に対する賃金とする本件固定残業代の定めは、公序良俗に違反するものとして無効と解するのが相当である。

2 本件変形労働時間制の適用が認められるためには、労使協定、就業規則又は就業規則に準ずるものにおいて、変形労働時間制の実施を定め、その中で、①労働時間の総枠の定め、②変形期間における労働時間の特定、③変形期間の起算日を明示することが必要であると解されるところ、本件全証拠によっても、Y社らにおいては、ただ単にカレンダーが作成されているだけで、具体的にどの日に何時から何時まで勤務するということの取決め等があったものとは認められず、本件変形労働時間制は、上記②の要件を欠き適法性を欠くものというよりほかはない。
よって、Y社らの本件変形労働時間制に関する主張は、その余の点を検討するまでもなく理由がない。

3 賃確法6条2項、賃確法施行規則6条4号にいう「合理的な理由により」とは、裁判所又は労働委員会において事業主が確実かつ合理的な根拠資料に基づく場合だけでなく、合理的な理由がないとはいえない理由により賃金の全部又は一部の存否を争っている場合も含むものと解するのが相当である。
・・・Xが本件各給与減額により生じた各未払賃金の支払を求めたのに対し、Y社らがこれを当庁において争うことには「合理的な理由」がないとはいえないし、また、前記で検討したとおり、本件において実労働時間の認定根拠とされる本件サイボウズの記載には信用性に問題がある部分が認められることに照らすと、Y社らが当庁においてXからの本件割増賃金の請求を争うことには「合理的な理由」がないとはいえない。

最高裁判例により、固定残業制度の要件論については終息したかのように思えましたが、ここに来て、再び、過度な固定残業制度について無効と判断する裁判例が散見されます。

「やりすぎ注意」という一般論は、労務管理(に限りませんが)においては常に持っておく必要があります。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

本の紹介1097 できる人とできない人の小さな違い(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。

帯にはこう書かれています。

能力やスキルの差ではない ただ”心の姿勢”を変えるだけ

そのとおりだと思います。

もともとのタイトルは「ATTITUDE IS EVERYTHING」です。

まさにそういうことです。

おすすめです。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

聖書に『鏡は人の顔を映し出すが、その人が実際にどういう人物であるかは、どういう友人を選んでいるかに表れる』という言葉がある。・・・子どものころ、親はわが子の友だちに会って、ありとあらゆることを知ろうとした。なぜか?子どもが友だちの影響を非常に受けやすいことや、癖や言動が似てくる傾向があることなどを知っているからだ。なるほど、親が心配するのももっともだ。」(143頁)

環境が与える影響を過小評価しないことが大切です。

どのような人たちと時間を過ごすか、誰の影響を受けるかによって人生は良くも悪くも大きく変わります。

親、友人、同僚、メンター・・・すべては自分がこれまでに受けてきた影響の産物が今の自分なのです。

未成年の頃は難しいですが、大人になれば、環境は自ら選択して変えることができます。

環境を過小評価しないことです。

解雇333 出産後1年経過していない保育士に対する解雇の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、出産後1年を経過していない保育士に対する解雇に関する裁判例を見てみましょう。

社会福祉法人緑友会事件(東京地裁令和2年3月4日・労判1225号5頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用されていたXが、Y社がXに対してした平成30年5月9日付解雇が客観的合理的理由及び社会通念上相当性があるとは認められず、権利の濫用に当たり、また、均等法9条4項に違反することから無効であると主張して、Y社に対し、①労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、②労働契約に基づく賃金支払請求として、平成30年5月から平成31年4月まで及び令和2年6月以降、毎月25日限り、月額賃金22万1590円+遅延損害金の支払、③労働契約に基づく賞与支払請求+遅延損害金、④本件解雇が違法であり、不法行為に当たると主張して、慰謝料等220万円等+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

解雇無効

慰謝料等33万円認容

【判例のポイント】

1 均等法9条4項は、妊娠中の女性労働者及び出産後1年を経過しない女性労働者に対する解雇を原則として禁止しているところ、これは、妊娠中及び出産後1年を経過しない女性労働者については、妊娠、出産による様々な身体的・精神的負荷が想定されることから、妊娠中及び出産後1年を経過しない期間については、原則として解雇を禁止することで、安心して女性が妊娠、出産及び育児ができることを保障した趣旨の規定であると解される。同項但書きは、「前項(9条3項)に規定する事由を理由とする解雇でないことを証明したときは、この限りでない。」と規定するが、前記の趣旨を踏まえると、使用者は、単に妊娠・出産等を理由とする解雇ではないことを主張立証するだけでは足りず、妊娠・出産等以外の客観的に合理的な解雇理由があることを主張立証する必要があるものと解される
そうすると、本件解雇には、客観的合理的理由があると認められないことは前記のとおりであるから、Y社が、均等法9条4項但書きの「前項に規定する事由を理由とする解雇でないことを証明したとき」とはいえず、均等法9条4項に違反するといえ、この点においても、本件解雇は無効というべきである。

2 解雇が違法・無効な場合であっても、一般的には、地位確認請求と解雇時以降の賃金支払請求が認容され、その地位に基づく経済的損失が補てんされることにより、解雇に伴って通常生じる精神的苦痛は相当程度慰謝され、これとは別に精神的損害やその他無形の損害についての補てんを要する場合は少ないと解される。
もっとも、本件においては、育児休業後の復職のために第1子の保育所入所の手続を進め、保育所入所も決まり、復職を申し入れたにもかかわらず、客観的合理的理由がなく直前になって復職を拒否され、均等法9条4項にも違反する本件解雇をされた結果、第1子の保育所入所も取り消されるという経過をたどっている。このような経過に鑑みると、Xがその過程で大きな精神的苦痛を被ったことが認められ、賃金支払等によってその精神的苦痛が概ね慰謝されたものとみることは相当ではない

妊娠・出産・育休中の女性従業員に対する解雇事案は、本件同様、極めてハードルが高いことを認識しましょう。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

本の紹介1096 破壊的新時代の独習力(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は本の紹介です。

帯には「先輩から時代遅れをコピーするな」と書かれています(笑)

「俺の時代はなー」的なあれです。たいてい泥臭いあれです。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

新時代においては格差がさらに拡大するといわれています。人材が、価値創造者(新時代のスマート蟻)と価値消費者(キリギリス)とに大きく分かれるという見方も出てきています。典型的ないい方をすれば、前者は今までよりもっと仕事をして、仕事を人生の中心的な楽しみにする人であり、後者は消費を中心にして仕事は必要悪の手段としてとらえる人です。」(40頁)

今後ますますあらゆることについて格差が生じることは目に見えています。

はみ出し者を排除する教育により徹底的に画一化されてきたので、大人になってから差別化と言われても、多くの人が何をどうしたらよいのかわからないわけです。

みんなが右に行くときに、自分だけ左に行くという習慣がついていないため、恐怖で体が言うことを聞かないのです。

個として選ばれる存在にならないと、これから先の時代は本当に生きていくのが大変になるでしょう。