賃金190 完全歩合給制トラック運転手の割増賃金の算定方法(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう!

今日は、完全歩合給制トラック運転手の割増賃金の算定と解雇の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

コーダ・ジャパン事件(東京高裁平成31年3月14日・労判1218号49頁)

【事案の概要】

本件は、運送業を営むY社においてトラックの運転手兼配車係として勤務していたXが、Y社に対し、主位的に、Xに対する解雇は無効であると主張して、①平成24年10月分から平成26年8月分までの未払の割増賃金合計1528万3952円+確定遅延損害金253万5417円の合計1781万9369円+遅延損害金の支払、②労働基準法114条に基づく付加金1493万0319円+遅延損害金の支払、③労働契約上の権利を有する地位にあることの確認並びに④解雇日である平成26年9月18日以降の賃金として同年11月5日から毎月5日限り月額34万5399円+遅延損害金の支払を求め、予備的に、解雇が有効である場合には、⑤上記①の未払賃金1528万3952円+確定遅延損害金487万4382円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

原審は、Xの主位的請求をいずれも棄却し、予備的請求のうち、上記⑤の請求につき386万4083円+遅延損害金の各支払を求める限度で認容し、その余を棄却したところ、Y社及びXが、それぞれ敗訴部分の取消しを求めて控訴を提起した。

【裁判所の判断】

原判決を次のとおり変更する。
1 Y社は、Xに対し、1364万9104円+遅延損害金を支払え

2 Xが、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する

3 Y社は、Xに対し、平成26年11月5日から本判決確定の日まで、1か月34万5399円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 本件就業規則には、歩合制についての定めも、歩合制の場合における給与額及び各種手当の支給並びに割増賃金の算定方法に関する定めもないし、XとY社との間で本件就業規則と異なる内容の上記の歩合制に係る給与条件を記載した労働契約書を取り交わしたものでもないのであり、Xについて本件入社経緯があることをもって、XとY社との間で給与についての本件歩合制合意がされたといえるか否かについて、検討する必要がある

2 本件歩合制合意は、Y社の労働者に対して労働契約に基づき就労後に適用されるべき本件就業規則に定められた労働条件について、これと異なる労働条件を内容とするものであって、実質的に本件就業規則に定められた労働条件の変更に当たるといえるから、Xの入社時における本件歩合制合意の成否については、当該変更を受け入れる旨の労働者の行為の有無だけではなく、当該変更により労働者にもたらされる不利益の内容及び程度、労働者により当該行為がされるに至った経緯及びその態様、当該行為に先立つ労働者への情報提供又は説明の内容等に照らし、当該行為が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否かという観点からも、判断されるべきであると解するのが相当である(山梨県民信用組合事件・最判平成28年2月19日)。

3 これを本件についてみると、大型トラックの運転手の給与条件を他のトラックの運転手とは異なる歩合制とすることについては、基本的に業務内容が大きく異なるものとはいえず、Xにおいて、大型トラックの運転手には本件就業規則で定められた月額の固定給制という給与条件を適用しないこととする合理的な根拠ないし必要性があったことをうかがわせる事情は認められない
また、本件入社経緯においては、Aは、給与条件について、本件歩合制合意によるとし、月額最低27万円を保障するとの説明をしたものの、割増賃金の支給の有無及びその計算方法については、説明はされていないのであり、他の大型トラックの運転手の運行状況を示され、「月25日くらい働けば大体40万円前後になる」との説明があったとしても、どのような勤務状況を前提としてどのような給与が支給されるのかについて、十分な情報提供や具体的な説明があったとはいえず、本件就業規則に従って賃金が支給される場合についての説明もなく、これと比較して、どのような点で有利であり、どのような点で不利であるかをXが理解したものとはいい難い

4 民法92条により法的効力のある労使慣行が成立していると認められるためには、同種の行為又は事実が一定の範囲において長期間反復継続して行われていたこと、労使双方が明示的にこれによることを排除・排斥していないことのほか、当該慣行が労使双方の規範意識によって支えられていることを要すると解されるところ(商大八戸ノ里ドライビングスクール事件・最判平成7年3月9日)、Y社の他の大型トラックの運転手の給与条件について、個人売上げに基づく歩合制によっているものであるとしても、Y社は、残業代は支給する給与に含まれていると認識しており、Xに対し、入社以降、時間外割増賃金等の割増賃金を支払っていなかったことに照らせば、Y社のいう完全歩合制の給与体系の内容は明確なものとはいえず、このような場合に、Y社のいう完全歩合制の慣行が労使双方の規範意識によって支えられているものとみることはできない。

認容された金額を見てください。

正しい知識に基づいて労務管理を行わないと大やけどをする例です。

特に賃金系は気を付けないとえらいことになります。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。