Monthly Archives: 6月 2020

解雇327 コミュニケーション能力不足を理由とする解雇(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、コミュニケーション能力不足等を理由とした試用期間満了時の解雇が有効とされた裁判例を見ていきましょう。

学校法人A学園(試用期間満了)事件(那覇地裁令和元年11月18日・労経速2407号3頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、学校法人であるY社に日本語教師として採用されたところ、延長後の試用期間満了時に、主としてコミュニケーション能力の不備を理由に解雇されたが、債権者は必要なコミュニケーションをとり、また、このような指導はほとんど受けていなかったのであるから、同解雇には客観的合理性がなく、社会通念上相当ともいえないから無効であるとして、Xが、Y社に対して、労働契約上の権利を有する地位にあることの仮の確認並びに解雇された平成30年12月から令和元年7月分の賃金及び同年8月分以降、本案判決確定の日までの賃金の仮払いを求めた事案である。

【裁判所の判断】

本件申立てをいずれも却下する。

【判例のポイント】

1 ・・・上記の一連のやり取りだけでも、Z1及びZ2副学長が様々な角度からXのコミュニケーション上の問題点を伝えようとしているにもかかわらず、Xは自身の問題点を省みる姿勢に乏しく、話し手の意図を正しく受け止められなかったり、言葉尻を捉えた反論に終始して論破しようとしたり、議論の前提を踏まえた会話ができなかったり、自身の意見に固執する姿勢が見て取れる。このようなXの応答にZ1とZ1副学長は対応に苦慮していたが、Xはそのことすら認識していたか疑わしい
Y社は、本件会議の後、Xがミーティングの場で最低限の発言すらしようとせず、素っ気ない態度に終始したと主張しているが、前記のとおりのXのコミュニケーション上の問題点に加え、Xは、日本語ランチテーブルのミーティングで反対意見を述べたこと自体がZ1及びZ2副学長によって失礼と取られたと憤慨し、本件準備書面で、意見を述べたこと自体が失礼と扱われて不当であり、このため発言を控えるようにしていたと主張していることからすると(なお、Z1及びZ2副学長は、発言内容やその伝え方を問題にしているのであって、反対意見を述べること自体を咎めているわけではなく、むしろ、積極的に意見を交わすべきと伝えている。)、Y社の主張に近い状況にあったことが窺える。このような状況では、XがZ1に友好的な対応をとるとは考えにくいから、Xは、ミーティング以外でもZ1やXと非友好的な同僚とは積極的なコミュニケーションをせず、むしろ、自身が許容されると考える中で最低限度のコミュニケーションに終始したことが推認できる

2 Xのコミュニケーション及び上司や同僚との関係構築に向けた姿勢には数々の問題点があり、上記のとおり必要なコミュニケーションがとれず、むしろ試用期間の延長によって悪化したことが認められる一般的に本採用を目指して必要以上に努力し、同僚に気を遣いがちな試用期間ですら、Xは上司や同僚との間で種々の軋轢を生じさせてしまったといえる。これらの問題点は、いずれも試用期間を経て初めて発覚し得るものであるといえ、上記の経過によれば、Xが上司からの指導等によって上記の問題点を改善できる見込みは薄い。Y社が雇用を継続していれば、Xのコミュニケーション上の問題によって更に職場環境が悪化していくことが容易に想像できることからすると、本件の雇用が2年間の期間限定であることを考慮しても、債務者が試用期間終了をもって解雇を選択したこともやむを得ないといえる。

解雇を過度に制限的に考える裁判官に当たると、ほとんど非現実的な解雇回避努力を求められることがありますが、今回はそうではなかったようです。

実務においては、日頃のやりとりをいかに証拠化できるかが勝敗を大きく左右します。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

本の紹介1044 大きな嘘の木の下で(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう!

今日は本の紹介です。

著者は、OWNDAYS株式会社の田中社長です。

「破天荒フェニックス」に続き2冊目です。

タイトルは非常にキャッチーで掴みはOKですね。

内容は1冊目よりも個人的には好きです。

著者のあらゆることに対する価値観がよくわかる本です。

おすすめです。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

これからは『OWNDAYSのメガネを買う』ではなく『〇〇さんがいるからOWNDAYSで買う』という時代になっていく。時代はモノ消費からコト消費と移り変わり、今は『ヒト消費』の時代に突入したのだ。ヒト消費は学習塾でもレストランでもヘアサロンでも、メガネ屋でも、靴屋でもどんな業界でも起きてくる。」(55~56頁)

遠い将来の話ではなく、すでに著者のいうところの「ヒト消費」の時代に入っています。

結局、その人が「好きか」どうかという話です。

特に商品の価値がそれほど変わらない場合にはその傾向がより強くなります。

保険がその典型です。

生命保険も損害保険も、どの保険でもぶっちゃけたいした違いはありません。

というより細かい保険契約の内容なんて関心がありません。

では、どうやって選んでいるかといえば、結局、担当者が「好きか」どうかという商品とは全く関係のないところで選んでいるのです。これ、完全に「ヒト消費」です。

まあ、商売なんてもともと理屈ではなく、感覚・感情で成り立っていますので。

守秘義務・内部告発8 公益通報をめぐる内部資料の持ち出しと懲戒処分(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、公益通報をめぐる内部資料の持ち出し等に対する懲戒処分の適法性に関する裁判例を見てみましょう。

京都市(児童相談所職員)事件(京都地裁令和元年8月8日・労判1217号67頁)

【事案の概要】

Y社の職員であるXは、京都市の児童相談所に勤務していた平成27年3月及び10月、京都市内の児童養護施設で起きたと疑われる被措置児童虐待の不祥事について、同児童相談所が適切な対応を採っていなかったとの認識を有したことから、これを問題視し、京都市の公益通報処理窓口に対して二度にわたり、いわゆる公益通報を行った。
Xは、同年12月4日、上記の各公益通報の前後の時期に行ったとされる各行為、すなわち、(1)勤務時間中に、上記虐待を受けたとされる児童とその妹の児童記録データ等を繰り返し閲覧した行為、(2)上記虐待を受けたとされる児童の妹の児童記録データを出力して複数枚複写し、そのうちの1枚を自宅へ持ち出した上に無断で廃棄した行為、(3)職場の新年会及び組合交渉の場で、上記虐待を受けたとされる児童の個人情報を含む内容を発言した行為について、地方公務員29条1項各号所定の事由に該当するものとして、京都市長から、停職3日の懲戒処分を受けた。

本件は、本件懲戒処分を不服とするXが、上記の各内部通報の前後の時期に行ったとされる上記各行為は、事実と異なる部分があることに加え、上記被措置児童虐待の不祥事に対する上記児童相談所の対応が不適切であるとの問題意識に基づき行った正当な行為として懲戒事由にそもそも該当しないと主張するほか、また、仮に懲戒事由に該当するとしても、Xによる上記各行為の目的の正当性や、本件懲戒処分が結論ありきで行われたこと、他の事例との比較において重きに失すること、手続の適正の欠如などを考慮すれば、京都市長が行った本件懲戒処分には裁量権を逸脱又は濫用した違法があるなどと主張して、本件懲戒処分の取消しを求める事案である。

【裁判所の判断】

停職3日の懲戒処分を取り消す。

【判例のポイント】

1 本件行為2の原因,動機,性質を検討するに,まず,本件行為2のうち本件複写記録の持ち出し行為については,原告は,1回目の内部通報の結果を受けて,その調査結果に個人的に不満を抱いたため,2回目の内部通報を行うこととし,その際にE弁護士に渡す本件児童の●の児童記録に係る複写文書1枚とともに,本件複写記録を自宅に保管したものといえる。このような経緯を経て行われた本件複写記録の持ち出し行為は,いわゆる公益通報を目的として行った2回目の内部通報に付随する形で行われたものであって,少なくとも原告にとっては,重要な証拠を手元に置いておくという証拠保全ないし自己防衛という重要な目的を有していたものであり,このほかに,本件複写記録に係る個人情報を外部に流出することなどの不当な動機,目的をもって行われた行為であるとまでは認められないのであるから,その原因や動機において,強く非難すべき点は見出し難い
 また,本件行為2のうち本件複写記録の自宅での廃棄行為については,F課長からの返却の指示があったにもかかわらず,原告がこれに従わず,安易に本件複写記録を自宅で廃棄したことそれ自体は,今後の情報漏えいの可能性が万に一つないようにするために持ち出した現物を返却させるという被告の正当な目的の実現を妨げた点からも,大いに非難されるべきものである。しかしながら,原告は,上記廃棄行為の翌日に自ら自宅で本件複写記録を廃棄したことを申告しているのであって,原告による上記廃棄行為について,証拠隠滅を図るなどの不当な動機や目的があったとは考え難い。そうすると,原告による本件複写記録の自宅での廃棄行為は,非常に軽率な行為として大いに非難されるべきものではあるが,その動機や目的において,殊更に悪質性が高いものであったとまではいえない

2 原告による本件複写記録の持ち出し行為は,飽くまで,本件虐待事案に対する原告の職務上の関心に起因して行われた性質の行為である。そして,原告は,本件複写記録を自宅で保管していたにすぎず,その保管状況は必ずしも明らかではないものの,自宅で保管していた本件複写記録が外部に流出した事実は認められず,同記録が外部の目に触れる状況ではなかったものと考えられることからすると,必ずしも情報漏えいの危険性の高い不適切な態様での保管状況であったとまではいい難い

3 本件行為2の結果,影響についてみるに,原告が自宅に持ち出した本件複写記録はシュレッダーで廃棄されており,結果としては,同記録が一般市民の目にする形で外部に流出することのないまま処分されたものである。そして,被告の保健福祉局の調査の結果によっても,●●議員による本件児童記録の情報の入手経路は明らかになっておらず,本件全証拠を検討しても,原告が自宅に持ち出した本件複写記録によって,本件児童の個人情報が●●議員に流出したことを認めるに足りる証拠はない。この点に関して,本件児童からは,原告による本件行為2を含む各行為について京都市児童相談所に対する信頼を損ねるものである旨の強い非難が寄せられていることは十分に考慮すべきであるとしても,原告による本件行為2によって,被告の児童福祉行政に対する信頼が回復不能なほどに大きく損なわれたとまでは認めることはできない。

4 原告の懲戒処分歴等についてみるに,原告にはこれまで懲戒処分歴は存在せず,かえって,原告は,FA制度で京都市児童相談所支援課に配属となった平成26年度の人事評価においては,いずれの評価項目も良好な評価を得ており,かつ,日頃の勤務態度についても,児童に対し得て熱心に対応しており,業務面においては特段の問題はないとの評価を得ていたものである。これに加え,原告は,本件行為2についても,基本的には,京都市児童相談所の職員としての職責を果たすべきとの自らの有する職業倫理に基づいて行ったものであるから,大いに軽率な面があったことを踏まえてもなお,上記の原告の懲戒処分歴や勤務態度といった事情は,酌むべき事情として考慮されるべきものといえる。

5 以上に加え,前記1で認定した事実経緯に照らすと,本件懲戒処分は,原告が主張,供述するような「結論ありきで行われた」あるいは「内部告発に対する報復」といった不当な目的ないし動機をもってされた処分であるとの評価はできないものの,本件懲戒指針では,情報セキュリティーポリシー違反の非違行為については戒告から免職まで処分量定の幅は広く規定されている中で,過去に非公開情報がインターネットを経由して外部から閲覧できる状態となり当該情報の拡散を招いた職員が停職10日の懲戒処分とされた懲戒事例との比較において,本件行為2を行った原告に対する懲戒処分として,本件複写記録の情報が拡散するまでには至らなかったにもかかわらず,停職3日とする本件懲戒処分を選択することは,重きに失するものといわざるを得ない
以上によれば,本件懲戒処分は,社会観念上著しく妥当を欠いて,その裁量権を逸脱又は濫用した違法がある。

処分がそれほど重くないため、評価権者によって判断が分かれる可能性があると思います。

懲戒処分の相当性判断は非常に悩ましいです。是非、顧問弁護士に相談しながらご判断ください。

本の紹介1043 世界一のプロゲーマーがやっている 努力2.0(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。

著者は、東大卒のプロ格闘ゲーマーの方です。

勝つために日頃からどのようなことを考え、準備をしているのかがよくわかります。

業種を問わず参考になりますね。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

努力する目的がはっきりしていると、ムダなこともはっきりします。目的にとって不要なことを切り捨てると、意外とやることは少ないな、と気づき、優先順位もつくようになります。頭の中の整理整頓です。整理整頓ができると、今度は自分以外に肩代わりさせられるものが見えてきます。これを使わない手はありません。いわゆるアウトソーシングです。」(168頁)

無駄なことで溢れかえっている社会で、効率よく結果を出すためには、とにかく「無駄を省く」ことが非常に重要です。

とにかく無駄が多すぎます。

世間体や他人の評価を気にするあまり、どうでもいい時間泥棒を野放しにしていると、気づいたら人生は終わってしまいます。

ただ流されるがままに時間を浪費する癖がついてしまうと、もはやどうでもいい予定でカレンダーは埋め尽くされてしまいます。

無駄を省き、生まれた時間を徹底的に目的達成の準備にあてるのです。

無駄を省いて、その空いた時間にまた無駄な行事を入れているうちは人生は1ミリも変わりません。

解雇326 試用期間満了前での本採用拒否(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、試用期間満了時まで指導を継続せず決定した本採用拒否が有効と判断された事案を見てみましょう。

ヤマダコーポレーション事件(東京地裁令和元年9月18日・労経速2405号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に正社員として採用されたXが、Y社から試用期間満了により解雇されたが、Y社による解雇は無効であるとして、Y社に対する雇用契約上の地位確認及び解雇時からの未払賃金の支払とともに、不当解雇等による不法行為ないし債務不履行に基づく損害の賠償を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xには協調性に欠ける点や、配慮を欠いた言動等により、Y社の車内関係者及び取引先等を困惑させ、軋轢を生じさせたことなどの問題点があり、Y社の指導を要する状態であったと認められる。
そして、試用期間中の解雇は、本採用後の解雇より広汎に許容されることに加え、試用期間が3か月間と設定され、時間的制約があることにも鑑みれば、比較的短期間に複数回の指導を繰り返すことを求めるのは、使用者にとって必ずしも現実的とは言い難いところ、現に、Xの上司であるZ12室長やZ5課長が、入社から2か月目面談の実施まで、Xの上記問題点を改めるべく、機会を捉えてXに対する相応の指導をするも、それに対するXの反応や態度等を踏まえると、上記問題点に対するXの認識が不十分であるか、Xが指導に従う姿勢に欠ける等の理由で、改善の見込みが乏しい状況であったことが認められる。
さらに、XのITの専門家としての経歴及びY社における採用条件や職務内容、Xと他部署との関係等を考慮すると、Y社において、Xについて配置転換等の措置をとるのは困難であり、かつ、前述したXの問題点は、配置転換をすることにより改善が見込まれる性質のものでもないこと、Y社が主張する解雇事由は、結局のところ、Xの勤務に臨む姿勢や態度といった根本的で重大な問題を含むものであって、係長としての管理職の資質に関するものであると解されること、Xは当時試用期間中であり、Y社への入社までにすでに3年に勤務しており、システムエンジニアとして約27年間の社会人経験を経ているのであって、上司からの指導を受けるなど、改善の必要性について十分認識し得たのであるから、改めて解雇の可能性を告げて警告することが必要であったともいえないことなどの事情に加え、Y社の取引先との関係悪化等の上記事実関係からすると、深刻又は重大な結果が生じなかったとしても、Xの雇用を継続することにより、今後、Y社側の経営に与える影響等も懸念せざるを得ないことなどを総合的に考慮すると、Y社が、試用期間中である同年11月30日の時点において、試用期間の満了までの残り2週間の指導によっても、Xの勤務態度等について容易に改善が見込めないものであると判断し、試用期間満了時までXに対する指導を継続せず、Xには管理職としての資質がなく、従業員として不適当である(就業規則39条1項)として、Xの本採用拒否を決定したことをもって、相当性を欠くとまではいえない

裁判所がいかなる要素を重視して判断するか参考になりますね。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

本の紹介1042 お金の真理(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。

今年の5月7日に発行された本ですが、昨今のコロナショックについての記載が多く出てきます。

この大きな転換期をいかに生きていくかについて著者の見解が書かれています。

おすすめです。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

お金持ちというのは、こうして直接的にはお金にならない行動、種をまく行動を日夜、一生懸命やっています。しかし、この部分は世間一般には可視化されていません。だから、『なぜあの人はあんなことができたのだろうか』と不思議がられるのですが、成功者は裏で絶えず探求を続けているものなのです。これを簡単に言うと準備です。日頃の準備が、お金持ちとそれ以外の人との差をつくっていることは間違いないといえます。」(286頁)

まあそういうことです。

人は自分で見える部分だけで評価・判断してしまうため、なぜこの人がこんなにうまくいっているのかわからないことが大半です。

毎日、こんなに自由に生活していて何の苦労もないように見えるのに・・・と。

表面だけを見ればそのように見えるのですが、実際には、見えないところで、いろんな準備をしているのです。

また、普通の人よりも多くのリスクを負っていることもまた事実です。

人と同じことを考えて、人と同じリズムで生活をしている限り、一生何も変わりません。

解雇325 金員の不正受給を理由とする懲戒解雇(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、金員の不正授受を理由とする懲戒解雇に関する裁判例を見てみましょう。

日本郵便事件(令和2年1月31日・労判ジャーナル97号10頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に郵便局長として勤務していたXが、定年退職間際にY社から懲戒解雇されたことについて、本件懲戒解雇は客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当とはいえないから、権利濫用として無効となるなどと主張して、Y社に対し、定年退職したことを前提とする退職手当約635万円等の支払を求めるとともに、定年退職後も同年4月から平成28年3月まで再雇用されていたことを前提とする賃金合計約568万円及び賞与合計約189万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却
→懲戒解雇有効

【判例のポイント】

1 Xは、平成22年1月頃から平成27年1月頃までの間、郵便局長採用試験を経て大阪市南部地区の郵便局長に採用された者合計9名に対し、同試験の受験時又は採用通知後に、紹介料と称して金員の支払等を要求し、商品券合計210万円分を受け取ったほか、ある団体の会費として現金をX指定口座に振り込ませるなどしたことが認められるところ、本件行為は、Y社の郵便局長に採用されるためには、金品の授受が必要であるとの誤解を生じさせ、ひいては郵便局長の採用選考の公正性に強い疑問を生じさせ、その結果、郵便局という公共性の高い機関の長として、高い清廉性が求められる郵便局長の職務ないし職務上の地位に対する信用を著しく毀損するものであるといえるから、本件就業規則所定の懲戒事由に当たり、以上のような本件行為の性質及び態様その他の事情に照らせば、本件懲戒解雇は、客観的に合理的な理由を欠くとはいえず、また、社会通念上も相当であると認められるから、これが権利を濫用したものとして無効になるとはいえない

2 本件行為の性質及び態様その他の事情、とりわけ、本件行為がXのY社における勤続期間11年の約半分に当たる5年間にわたり反復して継続的に行われてきたこと、これによってXが得た利益は400万円近くという多額に上ること、本件行為が発覚しなければ、郵便局長らによる指定口座への振込送金は引き続き行われていた可能性が高いといえることに照らせば、Xの本件行為は、XのY社における約11年にわたる勤続の功を抹消するほどの重大な不信行為であるといえるから、Y社が本件懲戒解雇を受けたXに対して退職手当規程に従い退職手当を支給しなかったことが不相当とはいえない。

上記判例のポイント1からすれば、退職金不支給は相当であると思いますが、ときどき、「え!こんなことしていても退職金出るの?」という事案があるので、労働者側としてはチャレンジしてみたくなってしまうのです。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

本の紹介1041 メンタルの強化書(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。今週も一週間お疲れさまでした。

今日は本の紹介です。

佐藤優さんの本です。

本の内容は、決してタイトル通りではなく、幅広くいろいろと書かれています。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

・・・フリーランスも二極化が進むでしょう。その人自身のスキルと才能を生かし、他者との差別化ができている人は収入がどんどん高くなると思います。いっぽうでそこまで差別化できないフリーランスの場合は、むしろ企業や組織の下請け的な仕事が中心になり、どんどん単価を下げられてしまう。生活するためには膨大な量の仕事をこなさなければならなくなります。」(129頁)

これはフリーランスに限った話ではありません。

働き方改革に関連する法律の施行に伴い、雇用契約はこれまで以上にルールが厳しくなり、使用者としては雇用契約を選択することを敬遠するようになると考えられます。

つまり、できるだけ雇用はせず、可能な限り、AIや業務委託(アウトソーシング)による代替手段を選択することになります。

加えて、今回のコロナの影響により、オンラインミーティングが常識化したことにより、地理的問題はこれまで以上に重要度が低くなりました。

こうなると、どこに住んでいても、優秀であれば全国、全世界からオファーが来ることになりますので、自分を安売りする必要がありません。

つまるところ、他との差別化がわかりやすくできている人のみが生き残り、それ以外の大多数はその下請けにまわるということになります。

いかに自分の価値を高めて、いかにそれをわかりやすく示すか。

これがニューワールドでのサバイバルルールです。

セクハラ・パワハラ60 退職してから2年以上経過後のパワハラに関する損害賠償請求(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、上司のパワハラに基づく損害賠償等請求に関する裁判例を見てみましょう。

西京信用金庫事件(令和元年10月29日・労判ジャーナル97号36頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元従業員Xが、Y社への在籍当時、上司からいわゆるパワーハラスメントを継続して受けたことにより精神疾患を発症し、Y社には使用者としての職場環境配慮義務の違反があったと主張して、Y社に対し、慰謝料及び逸失利益等の損害賠償金約1654万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 X主張のA支店長による本件パワハラ行為に関して客観的な証拠等は見当たらず、また、医師作成に係る診断書には、適応障害の発病の状況について、Xの主張に沿う記載があるが、医師のXに係る初診の時期は、XがY社を退職した1年8か月余りを経過しているものであるから、この診断内容をもって直ちに本件パワハラ行為の存在を肯定することはできず、さらに、証人Bは、Xと交際がある友人であり、本件証拠上うかがわれる関係性に照らし、Xの供述を支えるに足りる客観的な証拠力があるとまではいえず、そして、Xは、A支店長から遂行が明らかに不可能な量の業務を割り当てられた旨主張するが、Xが毎日30件の顧客を訪問するよう指示されていたとしても、それが信用金庫の営業業務として達成が困難な程度のノルマないし業務量を課したものであると認めるに足りるものではなく、A支店長のXに対する業務の割当てに関して違法であると評すべき行為は認められず、以上の検討のほか、XがY社に対して初めて損害賠償を求めたのは、Y社を退職してから2年以上も経過した時期のことであること等から、本件パワハラ行為についてのXの供述は、にわかに採用することができず、Xの請求は理由がない。

消滅時効の点は措くとしても、退職してから2年以上経過してパワハラについて損害賠償請求するというのはうまくありません。

また、診断書の作成時期についても、退職後相当期間経過後ですので、証拠価値は低いです。

ハラスメントについては、注意喚起のために定期的に研修会を行うことが有効です。顧問弁護士に社内研修会を実施してもらいましょう。

本の紹介1040 理不尽に逆らえ。(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。

世の中、理不尽や不合理が溢れかえっており、それに耐えることこそが美徳のような教育がなされています。

それゆえに、理不尽や不合理に逆らうことはルール違反かのように非難される始末です。

この本のサブタイトルにもある「真の自由を手に入れる生き方」を実践するためには、おかしいものをおかしいと感じることがとても大切だと思います。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

嫉妬なんかする暇があったら、自分のことに集中すればいいのではないだろうか。他人のことは自分でどうすることもできないが、自分は1秒で変えることができるし前に進むことができる。『嫉妬』とは距離を置くべきだ。嫉妬される側になったときも、いちいち構っていてもしょうがいない。・・・嫉妬心だらけの世の中で、この無意味な感情に近づかないだけでも生きるのがラクになるはずだ。」(202~203頁)

他人を羨んだところで、自分の人生は1ミリも好転しません。

そんな暇があったら、今よりも1時間早く起きて、自分の価値を高める努力をするべきです。

僕たち凡人は、人が休んでいるときに努力を重ねる以外に人生を変える方法はありません。

うまくいかないこともたくさんあるでしょうが、愚直に努力を続ける。

これしかないと肝に銘じるのです。