Daily Archives: 2020年6月12日

守秘義務・内部告発8 公益通報をめぐる内部資料の持ち出しと懲戒処分(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、公益通報をめぐる内部資料の持ち出し等に対する懲戒処分の適法性に関する裁判例を見てみましょう。

京都市(児童相談所職員)事件(京都地裁令和元年8月8日・労判1217号67頁)

【事案の概要】

Y社の職員であるXは、京都市の児童相談所に勤務していた平成27年3月及び10月、京都市内の児童養護施設で起きたと疑われる被措置児童虐待の不祥事について、同児童相談所が適切な対応を採っていなかったとの認識を有したことから、これを問題視し、京都市の公益通報処理窓口に対して二度にわたり、いわゆる公益通報を行った。
Xは、同年12月4日、上記の各公益通報の前後の時期に行ったとされる各行為、すなわち、(1)勤務時間中に、上記虐待を受けたとされる児童とその妹の児童記録データ等を繰り返し閲覧した行為、(2)上記虐待を受けたとされる児童の妹の児童記録データを出力して複数枚複写し、そのうちの1枚を自宅へ持ち出した上に無断で廃棄した行為、(3)職場の新年会及び組合交渉の場で、上記虐待を受けたとされる児童の個人情報を含む内容を発言した行為について、地方公務員29条1項各号所定の事由に該当するものとして、京都市長から、停職3日の懲戒処分を受けた。

本件は、本件懲戒処分を不服とするXが、上記の各内部通報の前後の時期に行ったとされる上記各行為は、事実と異なる部分があることに加え、上記被措置児童虐待の不祥事に対する上記児童相談所の対応が不適切であるとの問題意識に基づき行った正当な行為として懲戒事由にそもそも該当しないと主張するほか、また、仮に懲戒事由に該当するとしても、Xによる上記各行為の目的の正当性や、本件懲戒処分が結論ありきで行われたこと、他の事例との比較において重きに失すること、手続の適正の欠如などを考慮すれば、京都市長が行った本件懲戒処分には裁量権を逸脱又は濫用した違法があるなどと主張して、本件懲戒処分の取消しを求める事案である。

【裁判所の判断】

停職3日の懲戒処分を取り消す。

【判例のポイント】

1 本件行為2の原因,動機,性質を検討するに,まず,本件行為2のうち本件複写記録の持ち出し行為については,原告は,1回目の内部通報の結果を受けて,その調査結果に個人的に不満を抱いたため,2回目の内部通報を行うこととし,その際にE弁護士に渡す本件児童の●の児童記録に係る複写文書1枚とともに,本件複写記録を自宅に保管したものといえる。このような経緯を経て行われた本件複写記録の持ち出し行為は,いわゆる公益通報を目的として行った2回目の内部通報に付随する形で行われたものであって,少なくとも原告にとっては,重要な証拠を手元に置いておくという証拠保全ないし自己防衛という重要な目的を有していたものであり,このほかに,本件複写記録に係る個人情報を外部に流出することなどの不当な動機,目的をもって行われた行為であるとまでは認められないのであるから,その原因や動機において,強く非難すべき点は見出し難い
 また,本件行為2のうち本件複写記録の自宅での廃棄行為については,F課長からの返却の指示があったにもかかわらず,原告がこれに従わず,安易に本件複写記録を自宅で廃棄したことそれ自体は,今後の情報漏えいの可能性が万に一つないようにするために持ち出した現物を返却させるという被告の正当な目的の実現を妨げた点からも,大いに非難されるべきものである。しかしながら,原告は,上記廃棄行為の翌日に自ら自宅で本件複写記録を廃棄したことを申告しているのであって,原告による上記廃棄行為について,証拠隠滅を図るなどの不当な動機や目的があったとは考え難い。そうすると,原告による本件複写記録の自宅での廃棄行為は,非常に軽率な行為として大いに非難されるべきものではあるが,その動機や目的において,殊更に悪質性が高いものであったとまではいえない

2 原告による本件複写記録の持ち出し行為は,飽くまで,本件虐待事案に対する原告の職務上の関心に起因して行われた性質の行為である。そして,原告は,本件複写記録を自宅で保管していたにすぎず,その保管状況は必ずしも明らかではないものの,自宅で保管していた本件複写記録が外部に流出した事実は認められず,同記録が外部の目に触れる状況ではなかったものと考えられることからすると,必ずしも情報漏えいの危険性の高い不適切な態様での保管状況であったとまではいい難い

3 本件行為2の結果,影響についてみるに,原告が自宅に持ち出した本件複写記録はシュレッダーで廃棄されており,結果としては,同記録が一般市民の目にする形で外部に流出することのないまま処分されたものである。そして,被告の保健福祉局の調査の結果によっても,●●議員による本件児童記録の情報の入手経路は明らかになっておらず,本件全証拠を検討しても,原告が自宅に持ち出した本件複写記録によって,本件児童の個人情報が●●議員に流出したことを認めるに足りる証拠はない。この点に関して,本件児童からは,原告による本件行為2を含む各行為について京都市児童相談所に対する信頼を損ねるものである旨の強い非難が寄せられていることは十分に考慮すべきであるとしても,原告による本件行為2によって,被告の児童福祉行政に対する信頼が回復不能なほどに大きく損なわれたとまでは認めることはできない。

4 原告の懲戒処分歴等についてみるに,原告にはこれまで懲戒処分歴は存在せず,かえって,原告は,FA制度で京都市児童相談所支援課に配属となった平成26年度の人事評価においては,いずれの評価項目も良好な評価を得ており,かつ,日頃の勤務態度についても,児童に対し得て熱心に対応しており,業務面においては特段の問題はないとの評価を得ていたものである。これに加え,原告は,本件行為2についても,基本的には,京都市児童相談所の職員としての職責を果たすべきとの自らの有する職業倫理に基づいて行ったものであるから,大いに軽率な面があったことを踏まえてもなお,上記の原告の懲戒処分歴や勤務態度といった事情は,酌むべき事情として考慮されるべきものといえる。

5 以上に加え,前記1で認定した事実経緯に照らすと,本件懲戒処分は,原告が主張,供述するような「結論ありきで行われた」あるいは「内部告発に対する報復」といった不当な目的ないし動機をもってされた処分であるとの評価はできないものの,本件懲戒指針では,情報セキュリティーポリシー違反の非違行為については戒告から免職まで処分量定の幅は広く規定されている中で,過去に非公開情報がインターネットを経由して外部から閲覧できる状態となり当該情報の拡散を招いた職員が停職10日の懲戒処分とされた懲戒事例との比較において,本件行為2を行った原告に対する懲戒処分として,本件複写記録の情報が拡散するまでには至らなかったにもかかわらず,停職3日とする本件懲戒処分を選択することは,重きに失するものといわざるを得ない
以上によれば,本件懲戒処分は,社会観念上著しく妥当を欠いて,その裁量権を逸脱又は濫用した違法がある。

処分がそれほど重くないため、評価権者によって判断が分かれる可能性があると思います。

懲戒処分の相当性判断は非常に悩ましいです。是非、顧問弁護士に相談しながらご判断ください。