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今日は、劇団員の裏方業務の遂行について労働基準法上の労働者性が肯定された裁判例を見てみましょう。
エアースタジオ事件(東京地裁令和元年9月4日・労経速2403号20頁)
【事案の概要】
本件は、Y社の下で劇団員として活動していたXが法定労働時間に対する最低賃金法による賃金及び時間外労働に対する法定の割増率による割増賃金について未払があるとして、雇用契約に基づく賃金支払請求権に基づき、428万5143円+遅延損害金の支払並びに労働基準法114条に基づく付加金請求として355万6074円+遅延損害金の支払を求めるとともに、Y社がXを、1月に2日程度した休日を取得できず、1日3時間程度しか睡眠時間を取得できない環境で長きにわたり労務提供させた行為及びY社が従業員をして行わせた暴言、脅迫が不法行為に該当するとして、使用者責任に基づく損害賠償請求として、慰謝料300万円+遅延損害金並びに弁護士費用30万円+遅延損害金の支払を求める事案である。
【裁判所の判断】
Y社はXに対し、51万6502円+遅延損害金を支払え
Xのその余の請求をいずれも棄却する
【判例のポイント】
1 本件劇団は、年末には、翌年の公演の年間スケジュールを組み、2つの劇場を利用して年間90本もの公演を行っていたこと、本件入団契約においては、Xは、本件劇団の会場整理、セットの仕込み・バラシ、衣裳、小道具、ケータリング、イベント等の業務に積極的に参加することとされ、実際に、本件劇団の劇団員は、各裏方作業について「課」又は「部」なるものに所属して、多数の公演に滞りが生じないよう各担当「課(部)」の業務を行っていたこと、Xを含む男性劇団員は、公演のセット入替えの際、22時頃から翌日15時頃までの間、可能な限りセットの入替えに参加することとされ、各劇団員が参加可能な時間帯をスマートフォンのアプリケーションを利用して共有し、Xも相当な回数のセットの入替えに参加していたこと、音響照明は、劇団において各劇団員が年間4回程度担当するよう割り振りが決定され、割り当てられた劇団員は、割当日に都合がつかない場合には交代できる者を探し、割り当てられた公演の稽古と本番それぞれに音響照明の担当者として参加していたことが認められ、これらの点を考慮すると、Xが、セットの入替えや音響照明の業務について、担当しないことを選択する諾否の自由はなく、業務を行うに際しては、時間的、場所的な拘束があったものと認められる。
2 また、Xは、劇団員のZ3とともに小道具課に所属し、同人との間で、年間を通してほぼ毎週行われる公演のうちどの公演の小道具を担当するか割り振りを決め、別の公演への出演等で差支えのない限り、日々各公演の小道具を担当していた事実が認められるところ、公演本数が年間約90回と多数であって、Xが、年間を通じて小道具を全く担当しないとか、1月に1公演のみ担当するというようなことが許される状況にあったとは認められないことからすると、Xが、本件劇団が行う公演の小道具を担当するか否かについて諾否の自由を有していたとはいえない。また、小道具は、公演の稽古や本番の日程に合わせて準備をし、演出担当者の指示に従って小道具を準備、変更することも求められていたことから、Xは、本件劇団の指揮命令に従って小道具の業務を遂行していたものと認められる。
3 他方、公演への出演は任意であり、諾否の自由があったことはXも認めるとおりであるから、Xは、Y社の指揮命令により公演への出演という労務を提供していたとはいえず、チケットバックとして支払われていた金銭は、役者としての集客能力に対する報酬であって、出演という労務の提供に対する対価とはいえない。
劇団員の労働者性が争われた事案です。
「修行」みたいな文化がある業界では、法的な要件で考えると労働者なのかもしれませんが、労基法をそのまま適用すると違和感があるようなケースもありますね。
難しいところです。
労働者性に関する判断は本当に難しいです。業務委託等の契約形態を採用する際は事前に顧問弁護士に相談することを強くおすすめいたします。