おはようございます。
今日は、商品持ち帰りを理由とする懲戒解雇の有効性に関する裁判例を見てみましょう。
ロピア事件(横浜地裁令和元年10月10日・労判ジャーナル94号52頁)
【事案の概要】
本件は、Y社が経営するスーパーマーケットで勤務していたXが、商品を会計せずに持ち帰ったことを理由になされた懲戒解雇について、これが無効であると主張して、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認、懲戒解雇後の平成30年8月分の未払賃金として約31万円、同年9月以降の未払賃金として月額約36万円、未払賞与として約40万円の支払を求めるとともに、Y社が経営する店舗において、Xの氏名を明記して上記懲戒解雇の事実を公表したことが名誉毀損の不法行為に該当すると主張し、慰謝料等330万円の支払いを求め、さらに就労期間中の未払残業代合計約186万円等、付加金約96万円等の支払を求めた事案である。
【裁判所の判断】
懲戒解雇無効
損害賠償請求一部認容
未払賃金等支払請求一部認容
付加金等支払請求認容
【判例のポイント】
1 本件で懲戒事由の対象となった客観的行為は、Xが精肉商品を精算しないまま持ち帰ったことであり、Xが本件持ち帰り行為を行ったこと自体について、当事者間に争いはないが、Y社は本件持ち帰り行為が故意の窃盗行為であることを前提に、就業規則67条1項12号又は13号の懲戒事由に該当すると主張するが、本件持ち帰り行為は、Xが、精肉商品を精算未了のまま店外へ持ち出した一回の行為であり、その外形自体、精算を失念して商品を持ち出してしまったとのXの説明と矛盾するものではなく、本件持ち帰り行為そのものが、Xに窃盗の故意があったことを積極的に裏付けるとはいえず、また、Y社は本件持ち帰り行為が買い物ルールに違反するとして、予備的に就業規則67条1項5号、6号又は18号に該当すると主張するが、対象行為が上記各号に該当するかは疑問があり、少なくとも、故意による窃盗行為よりも比較的軽微な違反行為に対し、不相当に重い処分がなされたものといえるから、本件懲戒解雇及び本件予備的解雇意思表示は、いずれも、客観的合理的理由を欠き、社会通念上相当であると認められず、無効である。
2 Xは、本件掲示がXの社会的評価を低下させる名誉毀損に当たり、不法行為が成立すると主張するが、本件掲示は、本件持ち帰り行為についてXの実名を挙げて「窃盗事案が起きました」「計画性が高く、情状酌量の余地も認められない」「本事案は刑事事件になります」などと記載し、全体として見ると、Xが故意に商品を精算せず持ち帰り、窃盗行為をしたとの事実を摘示するものであること等から、本件掲示は、Xの社会的評価を低下させる事実を摘示するものであり、不法行為に該当する。
客観的に見ると、窃盗という犯罪行為のため、懲戒解雇をしたくなる気持ちは理解できます。
しかし、本件のような判断があり得ることを十分理解しなければなりません。
また、上記判例のポイント2のような掲示行為については名誉毀損と判断され、損害賠償請求をされますので注意が必要です。
解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。