おはようございます。
今日は、育児休業取得後になされた有期労働契約への変更、雇止めが有効と判断された裁判例を見てみましょう。
ジャパン・ビジネスラボ事件(東京高裁令和元年11月28日・労経速2400号41頁)
【事案の概要】
本件乙事件は、語学スクールの運営等を目的とする株式会社であるY社が、育児休業を取得し、育児休業期間が終了するXとの間で平成26年9月1日付けで締結した契約期間を1年とする契約社員契約は、Y社が期間満了により終了する旨を通知したことによって、平成27年9月1日、終了したと主張して、Xに対し、Y社に対する労働契約上の権利を有する地位にないことの確認を求めた事案である。
本件甲事件本訴は、Xが、Y社に対し、ア(ア)一審原告が一審被告との間で平成26年9月1日付けでした労働契約に関する合意によっても、Y社との間で平成20年7月9日付けで締結した期間の定めのない労働契約(以下「本件正社員契約」という。)は解約されていない、(イ)仮に、本件合意が本件正社員契約を解約する合意であったとしても、①均等法及び育介法に違反する、②Xの自由な意思に基づく承諾がない、③錯誤に当たるなどの理由により無効であり、本件正社員契約はなお存続すると主張して、本件正社員契約に基づき、正社員としての労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、平成26年9月分から平成27年8月分までの未払賃金合計448万8000円+遅延損害金、イ 仮に、本件合意によって本件正社員契約が解約されたとしても、XとY社は、本件合意において、Xが希望すればその希望する労働条件の正社員に戻ることができるとの停止条件付き無期労働契約を締結したと主張して、Xの希望した所定労働時間の短縮された無期労働契約に基づき、正社員としての労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、平成26年10月分から平成27年8月分までの未払賃金合計337万4800円+遅延損害金の支払を求め、ウ 仮に、XのY社に対する正社員としての地位が認められないとしても、Y社がした本件契約社員契約の更新拒絶(本件雇止め)は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないと主張して、本件契約社員契約に基づき、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、同月から弁済期である毎月20日限り賃金1か月10万6000円+遅延損害金の支払を求め,エ Y社が、Xを契約社員にした上で正社員に戻すことを拒んだことやこれに関連する一連の行為は違法であると主張して、不法行為に基づき、慰謝料300万円及び弁護士費用30万円の合計330万円+遅延損害金の支払を求めた事案である。
本件甲事件反訴は、Y社が、Xに対し、Xが平成27年10月に行った記者会見の席において、内容虚偽の発言をし、これによりY社の信用等が毀損されたと主張して、不法行為に基づき、慰謝料300万円及び弁護士費用30万円の合計330万円+遅延損害金の支払を求める事案である。
【裁判所の判断】
1 Xの控訴及びXの当審における追加請求(正社員復帰合意に基づく地位確認請求、債務不履行による損害賠償請求及び信義則違反を理由とする不法行為による損害賠償請求)をいずれも棄却する。
2 Y社の控訴に基づき、原判決を次のとおり変更する。
(1)ア Y社は、Xに対し、5万5000円+遅延損害金を支払え。
イ Xのその余の甲事件本訴各請求(当審における追加請求を除く。)をいずれも棄却する。
(2)ア Xは、Y社に対し、55万円+遅延損害金を支払え。
イ Y社のその余の甲事件反訴請求を棄却する。
【判例のポイント】
1 正社員と契約社員とでは、契約期間の有無、勤務日数、所定労働時間、賃金の構成(固定残業代を含むか否か、クラス担当業務とその他の業務に係る賃金が内訳として区別されているか否か。)のいずれもが相違する上、Y社における正社員と契約社員とでは、所定労働時間に係る就業規則の適用関係が異なり、また、業務内容について、正社員はコーチ業務として最低限担当するべきコマ数が定められており、各種プロジェクトにおいてリーダーの役割を担うとされているのに対し、契約社員は上記コマ数の定めがなく、上記リーダーの役割を担わないとの違いがあり、その担う業務にも相当の違いがあるから、単に一時的に労働条件の一部を変更するものとはいえない。
そうすると、Xは、雇用形態として選択の対象とされていた中から正社員ではなく契約社員を選択し、Y社との間で本件雇用契約書を取り交わし、契約社員として期間を1年更新とする有期労働契約を締結したもの(本件合意)であるから、これにより、本件正社員契約を解約したものと認めるのが相当である。
2 このようなY社による雇用形態の説明及び本件契約社員契約締結の際の説明の内容並びにその状況、Xが育児休業終了時に置かれていた状況、Xが自ら退職の意向を表明したものの、一転して契約社員としての復職を求めたという経過等によれば、本件合意には、Xの自由な意思に基づいてしたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するものといえる。
したがって,本件合意は、均等法9条3項や育介法10条の「不利益な取扱い」には当たらないというべきである。
3 Y社代表者の命令に反し、自己がした誓約にも反して、執務室における録音を繰り返した上、職務専念義務に反し、就業時間中に、多数回にわたり、業務用のメールアドレスを使用して、私的なメールのやり取りをし、Y社をマタハラ企業であるとの印象を与えようとして、マスコミ等の外部の関係者らに対し、あえて事実とは異なる情報を提供し、Y社の名誉、信用を毀損するおそれがある行為に及び、Y社との信頼関係を破壊する行為に終始しており、かつ反省の念を示しているものでもないから、雇用の継続を期待できない十分な事由があるものと認められる。
したがって、本件雇止めは、客観的に合理的な理由を有し、社会通念上相当であるというべきである。
4 本件記者会見は、本件甲事件本訴を提起した日に、X及びX訴訟代理人弁護士らが、厚生労働省記者クラブにおいて、クラブに加盟する報道機関に対し、訴状の写し等を資料として配布し、録音データを提供するなどして、Y社の会社名を明らかにして、その内容が広く一般国民に報道されることを企図して実施されたものである。
そして、報道機関に対する記者会見は、弁論主義が適用される民事訴訟手続における主張、立証とは異なり、一方的に報道機関に情報を提供するものであり、相手方の反論の機会も保障されているわけではないから、記者会見における発言によって摘示した事実が、訴訟の相手方の社会的評価を低下させるものであった場合には、名誉毀損、信用毀損の不法行為が成立する余地がある。
Xは、記者会見は、報道機関に対するものであるから、記者らにとっては、記者会見における発言は、当事者が裁判手続で立証できる範囲の主張にすぎないと受け止めるものである、訴状を閲覧した報道機関からの取材に応じることと何ら変わるものではないなどと主張する。
しかしながら、Xらは、報道機関からの取材に応じるのとは異なり、自ら積極的に広く社会に報道されることを期待して、本件記者会見を実施し、本件各発言をしており、報道に接した一般人の普通の注意と読み方を基準とすると、それが単に一方当事者の主張にとどまるものではなく、その発言には法律上、事実上の根拠があり、その発言にあるような事実が存在したものと受け止める者が相当程度あることは否定できないし、実際、Y社に対しては、マタハラ行為をしたとして苦情のメールがあったところでもある。そして、Xらは、本件記者会見において本件各発言をしたことが認められるから、その発言内容を事実として摘示したものというべきである。
非常に注目を集めている事件の控訴審判決です。
最高裁がどのような判断をするのか気になるところです。
上記判例のポイント3、4は、賛否両論あるところですが、重要な点なので、押さえておきましょう。
日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。