Monthly Archives: 2月 2020

解雇319 定年後再雇用の期待権侵害と損害賠償額(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、事業所廃止に伴う解雇の有効性と定年後再雇用契約の成否等に関する裁判例を見てみましょう。

尾崎織マーク事件(京都地裁平成30年4月13日・労判1210号66頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用されていたXが、①平成28年3月15日に「同年4月16日をもって解雇する。」旨の解雇通知が解雇権の濫用(具体的には整理解雇の要件を充足していない)から無効であるとして、定年(平成28年8月3日)までの未払賃金+遅延損害金の支払を求めるとともに、②上記①記載の解雇が無効であれば、当然に定年後は再雇用されることが予定されていたとして、再雇用後の労働契約上の地位の確認と、それを前提にした未払賃金+遅延損害金の支払を、それぞれ求めている事案である。

【裁判所の判断】

Y社はXに対し、11万0810円+遅延損害金を支払え

Y社はXに対し、137万1447円+遅延損害金を支払え

Y社はXに対し、401万0423円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 Aセンター閉鎖が決定されたことに伴うXの処遇が平成27年9月から平成28年3月にかけて重要な課題であったところ、その最中にY社東京支店において営業担当社員の新規採用が行われていた事実が認められる。そうすると、経費削減の一環として本件解雇がなされた一方で、Y社東京支店に所属する営業担当社員を2名新規採用するといった対応は、一貫性を欠くものと評価されてもやむを得ない少なくともX側に対して東京支店への配転の打診は行うべきであったといえるところ、それをした形跡も窺われないから、解雇回避のための努力を尽くしたと評価するには至らない。

2 定年後の再雇用(雇用継続)について、再雇用を希望する者全員との間で新たに労働契約を締結する状況が事実上続いていたとしても、労働契約が締結されたと認定・評価するには、強行法規が存在していれば格別、そうでない場合には、賃金額を含めた核心的な労働条件に関する合意の存在が不可欠である。したがって、本件において、XとY社の間で嘱託社員としての再雇用契約締結に関する合意は全く存在しない以上、その契約上の地位にあることも認められない
ただし、Xが、定年後に嘱託社員としてY社に再雇用(継続雇用)されることを期待していたことは明らかであり、Y社において労働者が再雇用を希望した場合に再雇用されなかった例は記憶にないとのY社代表者の供述も勘案すると、Y社は、前記のとおり、違法無効な整理解雇通知をしたものであり、これによってXの雇用継続の期待権を侵害した不法行為責任を負うと言わなければならない。
・・・また、損害発生期間については、定年退職後の再雇用規程の第1条によると、最大で満65歳に達するまで再雇用(継続雇用)されることが期待できるものの、Xの健康状態が5年間維持されるとは必ずしも断定できないことから、控えめに見て少なくとも3年間の更新は期待できるものとして、期待権侵害による損害賠償額は3年分相当額(ただし、3年に対応する中間利息はライプニッツ方式により控除するのが相当である。)と認めるのが相当である。

上記判例のポイント2は十分に気を付けなければいけません。

3年分相当額の賠償額というとかなりの金額になりますので、注意しましょう。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

本の紹介1003 もしも一年後、この世にいないとしたら。(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。

著者は、国立がん研究センター中央病院精神腫瘍科長の医師です。

帯には「人生の締切を意識すると明日が変わる」とあります。

有限だからこそ日々を大切に生きていかなければいけないと思うのです。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

『must』の自分のほうが主役になり、常に『弱音を吐いてはダメだ』という声が『want』の自分を強烈に縛ってしまうようなあり方は、なかなか大変です。もしその努力により、たとえ社会的な成功を手に入れたとしても、『want』の自分が悲鳴を上げてしまい、こころの奥底には虚しさが漂ってしまうように思います。」(120~121頁)

社会的に成功しても幸せを感じられないのであれば、何の意味もありません。

mustが強すぎて、多くのことを我慢して生きているのは、本当にもったいないことです。

wantを全面に出して生きてもいいのです。

自分の人生なのだから。

どうせ人生なんてあっという間に終わるのですから。

ずっと我慢して気づいたらおじいちゃんなんて、まっぴらごめんです。

セクハラ・パワハラ59 上司の発言等によるうつ病悪化・自殺と損害賠償責任の有無(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、上司の発言等によるうつ病悪化の有無と自殺に対する損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

食品会社A社(障害者雇用枠採用社員)事件(札幌地裁令和元年6月19日・労判1209号64頁)

【事案の概要】

本件は、Y社での勤務開始当初からうつ病にり患していたXが自殺した原因は、Xの上司の発言及びY社がXの要望に応じて業務量を増加させなかったことなどにより、極度に強い心理的負荷を与えられたXがうつ病の程度を悪化させたことにあるとして、Xの母であるAが、XのY社に対する損害賠償請求権を相続したこと、また、A及びXの妹であるBがXの死亡によって精神的苦痛を受けたことを理由として、Y社に対し、Xの損害賠償請求権の相続に伴う損害を含むXの損害7879万9773円及びBの損害330万円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 一般に、使用者側は、雇用する労働者の配置及び業務の割当て等について、業務上の合理性に基づく裁量権を有すると解されるが、労働者に労務提供の意思及び能力があるにもかかわらず、使用者が業務を与えず、又は、その地位、能力及び経験に照らして、これらとかけ離れた程度の低い業務にしか従事させない状態を継続させることは、業務上の合理性があるのでなければ許されない。そして、上記の状態の継続は、当該労働者に対し、自らが使用者から必要とされていないという無力感や恥辱感を生じさせる危険性が高いといえ、上記の状態に置かれた期間及び具体的な状況等次第で、労働者に心理的負荷を与えることは十分にあり得るところである。

2 Dは、XがY社に雇用される前の時点において、Xがうつ病にり患していることを認識していたところ、使用者には、障害者基本法上、個々の障害者の特性に応じた適正な雇用管理が求められていること、精神障害を有する者は、ささいな心理的負荷にも過大に反応する傾向があることを踏まえると、一貫してXの上司であったDには、Xに対する安全配慮義務の一内容として、Xから業務量に関する申出があった場合には、現在の業務量による心理的負荷があるか、あるとしてどの程度のものかなどを検討し、業務上の合理性に基づく裁量判断を経て、対応可能な範囲で当該申出に対応し、対応が不可能であれば、そのことをXに説明すべき義務を負っていたというべきである。

3 本件発言は、Xに心理的負荷を与えるものであったといえる。
しかしながら、本件発言は、DとXの2人だけの場においてされたものであって、DがXに対して本件発言をしたことが周囲に認識されたわけでもなく、このような発言が繰り返されたわけでもない
また、Dは、本件発言後の本件面談において、Xに対して業務量の増加を検討すると説明し、Xは、そのことを受け、喜び、また、その数日後には、仕事がもらえ、手が空くことが少なくなったと認識していることからすれば、Xは、本件発言によって心理的負荷を受けたものの、以降その状態が継続したと認めることはできない
・・・これらによれば、本件発言によって、Xがうつ病の程度を悪化させ、それによって自殺したとは認められない。
以上によれば、Dの注意義務違反とXの自殺との間に因果関係は認められない。

上記判例のポイント2は、障碍者雇用の基本的考え方ですので、是非理解をしておいてください。

ハラスメントについては、注意喚起のために定期的に研修会を行うことが有効です。顧問弁護士に社内研修会を実施してもらいましょう。

本の紹介1002 みんなで筋肉体操語録(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は本の紹介です。

おなじみの「みんなで筋肉体操」での名言を取り上げた本です。

筋トレに限らず生きる上で力となる言葉が並べられています。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

自分ではできているつもりだけど、実際にはごまかしているだけで、ちっともできていない。筋トレ以外でも、そんなことって結構あると思います。そのふるまいは本当にごまかさずにきちんとできていますか?それは、浅はかなスクワットではありませんか?厳しい言い方ですが、自己評価が高い人ほど、また見栄っ張りな人ほど、そうではないでしょうか。」(32頁)

筋トレでも仕事でも「浅はかなスクワット」で誤魔化しながら回数を重ねて行っても何の成果も出ません。

だからこそ、誰も見ていなくたって、しっかり正しいやり方で筋トレをしなければ意味がないのです。

正しいフォームで適切な重量で筋トレをやった翌日は、筋肉痛のなり方が違います。

誤魔化したかどうかは自分が一番よくわかっているのです。

不当労働行為232 労使間の対立状態での組合員の不利益取扱いと組合嫌悪意思の推認(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、希望退職の応募者が定員に達しなかったことを理由に、有期雇用の嘱託職員である組合書記長を雇止めにしたことが不当労働行為とされた事案を見てみましょう。

学校法人大阪YMCA(雇止め)事件(大阪府労委平成31年2月22日・労判1209号84頁)

【事案の概要】

本件は、希望退職の応募者が定員に達しなかったことを理由に、有期雇用の嘱託職員である組合書記長を雇止めにしたことが不当労働行為にあたるかが争われた事案である。

【労働委員会の判断】

不当労働行為にあたる

【命令のポイント】

1 組合はY社あての平成28年9月5日付けの団交申入書にて、同年度の人事異動に伴う学院高校の労働強化問題を議題とする団交を申し入れたこと、②この申入書には、(1)同年7月14日の団交にて、組合は、学院高校の業務量の改善を申し入れ、職場の実態について説明を求めたが、Y社は、校務分掌に基づく形式をなぞるだけで、労働強化はないとし、同26年度から始まった奨学制度について制度自体を知らないと述べるなど、職場の実態は明らかにされなかった、(2)同27年夏以降、現場の事務職の総意として業務達成には現行の人数でぎりぎりであることをJ副校長及びK事務長に伝えていたにもかかわらず、これを全く考慮せず、異動を強行し、おざなりな現場調査と形式論で労働強化はないとするY社に抗議する旨の記載があったこと、がそれぞれ認められ、学院高校の労働強化問題について労使間で対立が生じていたということができる

2 以上によれば、Y社は、C組合員とその組合活動を好ましからざるものとみていたと推認することができ、Y社が、本件希望退職の定員に達しなかった人員数を雇止めにすることにし、その対象にC組合員を含めたことは、C組合員が組合員であることを理由にしたものというのが相当である。

労使間の対立がある状態で、組合員に対して不利益処分を行う場合には、不当労働行為の問題が生じます。

合理的理由を主張立証できるように準備しておくことが求められます。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

本の紹介1001 独自性の発見(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。

原題は、「DIFFERENTIATE OR DIE 2nd Edition」です。

これでもかというほど「差別化」の重要性を強調しています。

膨大な例を挙げて説明しており、マーケティングの考え方がとてもよくわかります。

何度も読み返すに値する本です。

おすすめです。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

成功したスペシャリストはスペシャリストのままでいなくてはいけない。ほかのビジネスを追っかけるのはまずい。スペシャリストというイメージが壊れるからだ。心臓外科医はこのことを本能的に知っている。いくら儲かっても、人口膝関節置換術に手を出したりはしない。」(185頁)

ブランドの独自性を失わせる原因を一つあげるとすれば、『成長願望』だ。」(236頁)

そうなのです。

「スペシャリストというイメージ」を守り続けることは思いのほか大変です。

お蕎麦屋さんでうどんを出してはいけないのです。

仮においしいうどんがつくれるとしても。

他の分野に手を出せば出すほど「スペシャリストというイメージ」は壊れます。

一途に一か所を掘り下げていくことこそが「差別化」のキモなのです。

不当労働行為231 組合員と非組合員との差が生じていない不利益取扱いと不当労働行為該当性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、期間限定雇用契約社員として雇用されてきた組合員2名に対して、契約期間を従来の6か月から3か月に短縮したことが不当労働行為に当たらないとされた事案を見てみましょう。

交通機械サービス(契約期間短縮)事件(東京都労委平成31年3月19日・労判1209号83頁)

【事案の概要】

本件は、期間限定雇用契約社員として雇用されてきた組合員2名に対して、契約期間を従来の6か月から3か月に短縮したことが不当労働行為にあたるかが争われた事案である。

【労働委員会の判断】

不当労働行為にあたらない

【命令のポイント】

1 組合は、Y社が、A3及びA4の契約期間を短縮する一方、同時期に契約更新された非組合員に対しては、従来の労働契約期間を維持しており、これは組合員を狙い撃ちにしたものであると主張する。
しかし、契約社員全11名のうち、従来の労働契約期間が維持された2名は、定年間近であるために労働契約期間短縮措置の対象外となったものである。そして、Y社は、定年までおおむね2年以上あるなどの一定の要件を満たす者については、A3及びA4だけでなく、非組合員を含む9名全員を同措置の対象とし、29年7月以降10月1日までに契約社員7名の契約期間を6か月から3か月に短縮しているのであるから、労働契約期間短縮措置は、組合員であるか否かにかかわらず、従業員に一律に適用されたというべきであり、組合員を狙い撃ちにしたものであるとの組合の主張は、採用することができない。

2 また、一般的には、労働契約期間の短縮は、従業員にとって雇用の不安定化を招くものであることに対し、Y社は、労働契約期間短縮措置は、就労継続意思がある契約社員について、正社員登用の機会を増やすことを目的として導入したと主張する。
実際、Y社は、同措置対象者のうち、就労継続意思があり、業務遂行等に特段の問題がない者には、契約更新時に正社員登用を打診しており、A3及びA4もその打診を受け、希望したA4は正社員に登用されている。加えて、同措置導入後、契約期間満了のみを理由として雇止めをされた従業員はいない。
したがって、労働契約期間短縮措置の導入により、同措置対象従業員の雇用が不安定になった事実は認められず、同措置によって、組合員に具体的な不利益が生じたとはいえない。
よって、Y社が、A3及びA4との労働契約の期間を6か月から3か月に短縮したことが、不当労働行為に当たるということはできない。

上記命令のポイント1のように、組合員と非組合員との間に差が生じていない場合には不当労働行為の問題となりません。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

本の紹介1000 はたらく人のコンディショニング事典(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は本の紹介です。

強いカラダ・ココロ・アタマをつくる」とあるように、3つの視点でまとめられています。

カラダは食事でできていますので、日頃の食事について正しい情報を知っておくことはとても重要です。

カラダを鍛えるには、単に運動をすればいいわけではなく、栄養と休養の視点が必須です。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

超回復には休息が必要不可欠。筋肉トレーニングを行うと、損傷した筋肉を修復するため、筋肉はその材料となるアミノ酸をとり込み、たんぱく質への再合成を始めます。・・・超回復のリズムを利用することで、より効果的に筋肉を発達させることができるというわけです。」(138~139頁)

運動、栄養、休養の3要素をしっかり満たすことが大切です。

何か1つが欠けてもうまくいきません。

やるべきことはわかっているのです。

それを飽きずに投げ出さずにやり続けられるかどうか。

ただそれだけ。

多くの人が途中でやめてしまいます。

だからこそ続けることには価値があるのです。