Monthly Archives: 1月 2020

解雇317 解雇を有効に行うために必要なプロセスとは?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、解雇無効地位確認と不就労期間の未払賃金等支払請求に関する裁判例を見てみましょう。

えびす自動車事件(東京地裁令和元年7月3日・労判ジャーナル93号34頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で労働契約を締結していたXが、Y社に就労を拒否され、その後、Y社から違法に解雇されたと主張して、労働契約に基づき、Y社に対し、労働契約上の地位の確認を求めるとともに、就労が拒否された後である平成28年5月29日から平成30年4月15日までの賃金約589万円及び平成30年5月から本判決確定の日まで毎月25日限り賃金26万0673円の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 平成29年5月18日にXがY社を退職したかについて、Xは、平成29年5月18日、Y社に対し退職届を提出しており、これにより辞職の意思表示をしたといえることから、Xは、同日、Y社を退職したと認められるから、本件請求のうち、労働契約上の地位の確認を求める部分及び平成29年5月18日以降本判決確定の日までの賃金の支払いを求める部分は理由がない。

2 平成28年5月29日から平成29年5月までの間、Y社の責めに帰すべき事由によって労務を提供することができなくなったかについて、Y社は、度重なる指導にもかかわらず重大な事故を繰り返し発生させ反省する様子を見せないXを、このままタクシー運転手として勤務させ続けることは危険であるとしてその就労を拒否し、事務職への転換を提案したX所長の判断は、安全性を最も重視すべきタクシー会社として合理的理由に基づく相当なものであったというべきであり、本件免許停止処分の期間が満了した後も、Xが事故防止に向けた具体的取組をY社に説明することはおろか、タクシー運転手として勤務を希望する旨を申し出ることすら一度もなかったことをも踏まえると、Y社が本件免許停止処分以降、約1年間にわたってXの就労を拒否し続け、Xが労務を提供することができなかったことについて、Y社の責めに帰すべき事由があると認めることはできないから、本件請求のうち、平成28年5月29日から平成29年5月18日までの賃金の支払を求める部分は理由がない。

上記判例のポイント2のようなプロセスをしっかり踏むこととそれをエビデンスとして残すことがとっても大切です。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

本の紹介994 リアルビジネス3.0(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。

サブタイトルは「あらゆる企業は教育化する」です。

複数の例を取り上げて、1.0→2.0→3.0のそれぞれの段階をわかりやすく説明してくれています。

これを自分の仕事に当てはめて実験をしてみるというのがビジネスの楽しさです。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

モノの時代が終わった日本では、製造業はサービス化し、サービス業はより進化したサービスを展開してきました。モノを売り買いしていた時代が『1.0』だとすれば、サービス化の時代は『2.0』、そして教育化が『3.0』と位置付けられます。」(4頁)

この「教育化」というキーワードは、この言葉を見ただけでは、その意味することを十分に理解することはできません。

こういう系の本は読んだだけで満足してしまうのですが、それでは意味がないわけです。

本に載っている具体例や方法論をいかに自分の仕事に応用するかが勝負です。

この本が言わんとしていることは読めば誰でもわかります。

でも、多くの人は実践しないのです。

勝敗はそこで決まります。

賃金182 総合職加算・勤務手当が法内残業の対価?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、総合職加算及び勤務手当が法内残業の対価であると認められた裁判例を見てみましょう。

富国生命保険事件(仙台地裁平成31年3月28日・労経速2395号19頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で労働契約を締結し、総合職として勤務したXが、退職後にY社に対し、在職中に時間外労働をしたと主張して、賃金請求権に基づく割増賃金+遅延損害金の支払を求めるとともに、上記割増賃金の不払について労働基準法114条に基づく付加金+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社はXに対し、17万0063円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 内務職員給与規定において、総合職加算についても、勤務手当についても、その支給対象者は法内残業時間に対する時間外勤務手当の支給対象外とされていることに照らすと、総合職加算も勤務手当も、法内残業時間に対する時間外勤務手当としての性質を有していると解するのが相当である。
この点、Xは、Xのように法内残業が恒常化している者の場合には、総合職加算の額も勤務手当の額も法所定の残業代に満たないから、これらを法内残業手当とみることはできないと主張する。
しかしながら、所定労働時間を超えていても、法定労働時間を超えていない法内残業に対する手当については、労働基準法37条の規制は及ばない。また、所定労働時間内の労働に対する対価と所定労働時間外の労働に対する対価を常に同一にしなければならない理由はないから、清算の便宜等のために残業時間にかかわらず法内残業手当の額を固定した結果、法内残業をした日の多寡によっては、法内残業に対する時間当たりの対価が、所定労働時間内の労働に対する時間当たりの対価を下回る結果となったとしても、それだけで直ちに違法ということはできない

各種手当に関するルールをしっかり理解して運用すれば、裁判所はしっかり認めてくれます。

残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。

本の紹介993 「複業」で成功する(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は本の紹介です。

著者は、弁護士で「弁護士ドットコム」の創業者で、かつ、参議院議員の元榮先生です。

「三足のわらじ」の著者が、「複業社会のなかでの生き方」を説いています。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

自由に生きたいと口にしていても、実際のところはルールに縛られた社会のほうが『生きやすい』と感じている人も少なからずいるものです。どうしてかといえば、やるべきことを細かく決められている状況に慣れているからです。ルールや枠がなくなることで不安になる人がいるのはわかりますが、それを怖がるか、楽しむかで人生は変わってきます。一歩、前へと足を踏み出す。その勇気をもつだけで人生がまったく違ったものになっていきます。」(203~204頁)

こんな時代からこそ、自由にやりたいことをやればいいのです。

いろんなことを我慢して自由がほとんどない生活をしている人もいれば、その逆の人もいます。

いずれも自らの選択ですから、良いも悪いもありません。

ただ、どちらかに慣れてしまうと、もう抜け出せなくなります。

自分の人生は自分で決める。

生きたいように生きる。

やりやくないことはやらない。

それだけで幸福度は大幅に上がります。

賃金181 固定残業制度の有効要件とは?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、実際の時間外労働時間数との間に相当程度の差異がある時間外手当が固定残業代として有効とされた裁判例を見てみましょう。

飯島企画事件(東京地裁平成31年4月26日・労経速2395号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で雇用契約を締結した労働者であるXが、Y社に対し、①時間外労働等に係る割増賃金+遅延損害金、②労働基準法114条に基づく付加金+遅延損害金、③月例賃金の減額に同意していないとして、減額前後の月例賃金の差額分合計26万円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件雇用契約における時間外手当は、本件雇用契約締結当初から設けられたものであり、その名称からして、時間外労働の対価として支払われるものと考えることができる上に、実際の時間外労働時間を踏まえて改定されていたことを認めることができる
これらの事実によれば、時間外手当は、時間外労働に対する対価として支払われるものということができ、また、時間外手当と通常の労働時間の賃金である基本給とは明確に区分されているから、時間外手当について、有効な固定残業代の定めがあったということができる。

2 これに対し、Xは、固定残業手当について、時間当たりの単価や、予定する時間外労働等に係る時間数が示されていないため、通常の労働時間の賃金である部分と時間外労働に対する対価である部分とが明確に区別されていないと主張する。
しかし、有効な固定残業代の定めであるためには、必ずしもXが指摘する各点を示すことは必要ないと解されるので、Xの上記主張を採用することはできない。

3 Xは、Y社が主張する実際の時間外労働に係る時間数と、上記の時間数が著しく異なるため、時間外手当は、時間外労働の対価としての性質を有しないとも主張する。そして、確かに、Y社が給与計算において考慮した時間外労働等に係る時間数と、上記時間数は相当程度異なるが、上記の各事実が認められることのほか、Y社の給与計算においてコース組みに要した時間が含まれていないこと、Y社の給与計算によっても平成28年2月16日から同年3月15日の間に38時間以上、平成30年1月16日から同年2月15日の間に47時間以上時間外労働をしていたことを考慮すると、上記判断は左右されない。

最近は、上記判例のポイント2のような判断が主流ですね。

残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。

本の紹介992 あなたのダイエットはなぜ結果が出ないのか(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。

日頃からワークアウトをしている人にとっては、自然とツイッター、インスタ、YouTube等で情報収集するため、特段、目新しい情報ではありませんが、そうでない人にとっては、目から鱗が落ちる本だと思います。

どれだけ巷に多くの間違ったダイエット法が蔓延しているかを知るだけでも全然違います。

特にこれから始めようとする方にはおすすめです。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

もし今、目の前に等身大の鏡があって、鏡に映る自分の姿を『太っているな』と思うのなら、それはすべて自分の責任。責任は自分にあるのだと思わねばならない。これ、大前提です。『仕事が忙しいから』とか『付き合いが多くて』などと言い訳をしてはいけない。そう考える人は、まずダイエットなんか、成功できない。なぜなら、あなたの身体や生活習慣を管理しているのは、あなたの友達でも、あなたの職場の人でも、むろん私でも、ないッ!100%、あなた自身なのだ。」(17頁)

筋トレを始めとする日頃のトレーニングは、100%、自分への投資ですので、やらない理由が見当たりません。

ゴルフのように拘束時間も長くありませんし、ジムの会費なんて飲み代を考えたらタダみたいなものです。

週2~3回、たった1時間の筋トレを続けられない人に何が続けられるのでしょう・・。

人間が最も苦手とすること、それは「継続すること」です。

だからこそ途中で投げ出さずに続けることには価値があるのです。

賃金180 長時間労働を理由とする精神疾患未発症事案における損害賠償請求(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、長時間労働に従事させたことに対し、疾患未発症でも損害賠償請求が認められた裁判例を見てみましょう。

狩野ジャパン事件(長野地裁大村支部令和元年9月26日・ジュリ1539号4頁)

【事案の概要】

Xは、Y社と、平成24年5月ないし6月に無期労働契約を締結し、Y社の製麺工場で小麦粉をミキサーに手で投入する作業等を行っていた。

Xは、平成27年6月から平成29年6月までの間、平成28年1月と平成29年1月を除く全ての月で月100時間以上(平成28年1月と平成29年1月も月90時間以上、長いときには月160時間以上)の時間外等労働を行っていた。

Xは、Y社に対し、①時間外、休日、深夜労働等に対する未払賃金、②労基法114条に基づく付加金、③長時間労働による精神的苦痛に対する慰謝料等の支払いを求めて提訴した。

【裁判所の判断】

請求一部認容

【判例のポイント】

1 Xは、2年余にわたり、長時間の時間外等労働を行った。Y社は36協定を締結することなく、または、法定の要件を満たさない無効な36協定を締結して、Xを時間外労働に従事させていた上、タイムカードの打刻時刻から窺われるXの労働状況について注意を払い、Xの作業を確認し、改善指導を行うなどの措置を講じることもなかったことによれば、Y社には、安全配慮義務違反があったといえる。

2 Xが長時間労働により心身の不調を来したことを認めるに足りる医学的な証拠はないが、Xが結果的に具体的な疾患を発症するには至らなかったとしても、Y社は安全配慮義務を怠り、2年余にわたり、Xを心身の不調を来す危険があるような長時間労働に従事させたものであるから、Xの人格的利益を侵害したものといえる。Xの精神的苦痛に対する慰謝料は、30万円をもって相当と認める。

上記判例のポイント2は押さえておきましょう。

金額は大きくありませんが、担当裁判官によってはこのような事案でも未払賃金の他に慰謝料も認めます。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

本の紹介991 勝つために9割捨てる仕事術(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。

著者は、元日テレのプロデューサーの方です。

タイトルからわかるとおり、強者に勝つための「一点突破」術を伝授してくれています。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

戦略の効果を高めるために、一点を正確に捉える『精度』にこだわること。それがミッション達成を確実にする。…戦略を定めて一点突破を目指したはいいが、その一点が正しくミッションクリアに向かっていないと、結果的に遠回りになってしまう。そのためにも、実績データを常に監視して、戦略が効果をあげているかを確認し、必要であれば『一点』のポイントを修正する必要がある。この精度を高める取組は、多くの場合、トライ&エラーを繰り返す地道な作業だ。」(89~90頁)

「選択と集中」というフレーズは知っていたとしても、それを自分の仕事に落とし込んで正しく実行している人がどれほどいるでしょうか。

何を選択すべきか、どこに集中すべきかを正確に捉えることが極めて重要です。

自分の強みを理解し、それをわかりやすく提示する。

言うは易し。

だからこそ何度も微調整を繰り返しながら精度を高めていくしかないのです。

セクハラ・パワハラ58 セクハラに対する会社の対応と安全配慮義務(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今年も一年よろしくお願いいたします。

今日は、セクハラに対する会社の対応につき債務不履行責任を否定した裁判例を見てみましょう。

N商会事件(東京地裁平成31年4月19日・労経速2394号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であったXが、Y社の従業員であるCからセクハラに該当する行為を受けたところ、Y社がこれに関する事実関係の調査をせず、安全配慮義務ないし職場環境配慮義務を怠ったこと等により精神的苦痛を被ったなどと主張して、債務不履行に基づき、損害金904万1960円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Y社は、平成25年9月頃に、Xから、Cよりメールを送信されて困っているなどとセクハラ行為に係る相談を持ち掛けられたのを受けて、まもなく、Cに対し、事実関係を問い、Cから事実認識について聴取するとともに、問題となっている送信メールについてもCに任意に示させて、その内容を確認するといった対応をとっているものである。
そうしてみると、Y社において、事案に応じた事実確認を施していると評価することができるところであって、Y社に債務不履行責任を問われるべき調査義務の違背があったとは認め難い
Xは、Y社において、CとXとの間で交わされたメールの提出を求め、あるいは、従業員全員から聴取を行うべきであったなどと主張しているが、Y社において、メールの確認はしているし、そのような事実確認も経ている中、プライバシーに関わる相談事象について、他の従業員に対し、殊更事実確認を行うことが必須ということもできず、Y社にXが主張するような具体的な注意義務があったとまでは認め難い。

2 Xは、Y社において、Xに対する職場環境配慮義務ないし安全配慮義務として、配置転換等の措置を取るべき注意義務があり、その違反があったとも主張する。
しかしながら、CがXに対してした所為が前記の範囲にとどまるものであったことや、そういった行為であってもXに不快な情を抱かせるものとしてCに対して厳重に注意もなされていること、そして、Cも自身の行為を謝し、Xもひとまずこれを了とし、その際、あるいはそれ以降、特段、Cから、メール送信等によりXに不快な情を抱かせるべき具体的言動がなされていたともY社に認められていなかったことは前記のとおりであるところ、Y社には本社建物しか事業所が存せず、配転をすることはそもそも困難であった上、この点措いても、そもそも倉庫業務担当者と営業補助担当者との接触の機会自体、伝票の受け渡し程度で、乏しかったものである(後に伝票箱による受け渡しで代替される程度にとどまっていることからもこの点は窺われる。)。しかも、Y社は、Xの発意に基づくものであったかは措くとしても、上記わずかな接触の機会についても、その意向も踏まえ、納品伝票を入れる伝票箱に入れることでやり取りをすることを認めたり、さらには担当者自体を交代するといったことも許容していたものである。そうしてみると、Y社において、事案の内容や状況に応じ、合理的範囲における措置を都度とっていたと認めることはできるところであって、Xが指摘するような注意義務違反があったとは認め難い。

ハラスメント事案が発生した場合の具体的な対応のヒントになる裁判例です。

どこまでいってもケースバイケースですが、考え方を学ぶにはこのような裁判例を理解しておくことが役に立ちます。

ハラスメントについては、注意喚起のために定期的に研修会を行うことが有効です。顧問弁護士に社内研修会を実施してもらいましょう。