おはようございます。
今日は、退職合意と解雇の有効性を否定したが、再就職から半年乃至1年後に黙示の退職合意の成立が認められた裁判例を見てみましょう。
新日本建設運輸事件(東京地裁平成31年4月25日・労経速2393号3頁)
【事案の概要】
本件は、Y社との間で期間の定めのない労働契約を締結していたXらが、Y社により平成28年6月25日付けで普通解雇されたが、本件各解雇は無効である旨を主張して、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、本件各解雇の後に生ずるバックペイとしての月例給与+遅延損害金の支払を求める事案である。
【裁判所の判断】
Y社はX1に対し、389万9974円+遅延損害金を支払え
Y社はX2に対し、270万3331円+遅延損害金を支払え
Y社はX3に対し、274万0225円+遅延損害金を支払え
【判例のポイント】
1 Xらは、本件各解雇からほとんど間を置かずに、同業他社に就職するなどしてトラック運転手として稼働することにより、月によって変動はあるものの、概ね本件各解雇前にY社において得ていた賃金と同水準ないしより高い水準の賃金を得ていたものである。これらの事情に加え、上記のとおり、本件各解雇に至る経緯を考慮すると、X1については、遅くともLに再就職した後約半年が経過し、本件各解雇から1年半弱が経過した平成29年11月21日の時点で、X2及びX3については、遅くとも本件各解雇がされ再就職した後約1年が経過した同年6月21日の時点で、いずれも客観的にみてY社における就労意思を喪失するとともに、Y社との間でXらがY社を退職することについて黙示の合意が成立したと認めるのが相当である。
2 ・・・もっとも、使用者の責めに帰すべき事由によって解雇された労働者が解雇期間中に他の職に就いて収入等の中間利益を得たときは、使用者は、当該労働者に解雇期間中の賃金を支払うに当たり中間利益の額を賃金額から控除することができるが、上記賃金額のうち労働基準法12条1項所定の平均賃金の6割に達するまでの部分については利益控除の対象とすることが禁止されているものと解すべきであるから、使用者が労働者に対して負う解雇期間中の賃金支払債務の額のうち平均賃金額の6割を超える部分から当該賃金の支給対象期間と時期的に対応する期間内に得た中間利益の額を控除することは許されるものと解するのが相当である。
解雇後、他社に就職し、正社員として就労していると、本件のように、就労(復職)の意思が喪失したと判断されることがあります。
もっとも、今回の裁判例は、他社に就職した時点ではなく、そこから相当期間経過した時点をもって就労(復職)の意思が喪失したと認定しています。
労使ともに参考になる裁判例だと思います。
解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。