おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。
90日目の栗坊トマト。3か月でこんな感じです。
今日は、HIV感染不告知を理由とする採用内定取消しと当該情報の目的外使用の違法性に関する裁判例を見てみましょう。
北海道社会事業協会事件(札幌地裁令和元年9月17日・ジュリ1538号4頁)
【事案の概要】
本件はヒト免疫不全ウイルス(HIV)に感染しているXが、北海道内において病院を経営するY社の求人に応募し内定を得たものの、その後Y社から内定を取り消されたことをめぐり、①この内定取消しは違法である、②Y社が上記病院の保有していたXに関する医療情報を目的外利用したことはプライバシー侵害に当たると主張して、不法行為に基づき、330万円の損害賠償+遅延損害金の支払を求める事案である。
【裁判所の判断】
Y社は、Xに対し、165万円+遅延損害金を支払え。
【判例のポイント】
1 HIVに感染しているという情報は、極めて秘密性が高く、その取扱いには極めて慎重な配慮が必要であるのに対し、HIV感染者の就労による他者への感染の危険性は、ほぼ皆無といってよい。そうすると、そもそも事業者が採用に当たって応募者に無断でHIV検査をすることはもちろんのこと、応募者に対しHIV感染の有無を確認することですら、HIV抗体検査陰性証明が必要な外国での勤務が予定されているなど特段の事情のない限り、許されないというべきである。
本件では、上記特段の事情は認められないのであって、Y社病院がXにHIV感染の有無を確認することは、本来許されないものであった。そうだとすると、Xが平成30年1月12日にY社病院総務課職員から持病について質問された際にHIV感染の事実を否定したとしても、それは自らの身を守るためにやむを得ず虚偽の発言に及んだものとみるべきであって、今もなおHIV感染者に対する差別や偏見が解消されていない我が国の社会状況をも併せ考慮すると、これをもってXを非難することはできない。
2 確かに、本件ガイドラインにおいても、通常の勤務において業務上血液等に接触する危険性が高い医療機関においては、別途配慮が必要であるとされているところである。
しかしながら、HIV感染の事実は取扱いに極めて慎重な配慮を要する情報であるから、そのような医療機関においても、HIV感染の有無に関する無差別的な情報の取得が許容されるものではない。そして、医療機関においては、血液を介した感染の予防対策を取るべき病原体はHIVに限られないのであるから、Y社病院においてもHIVを含めた感染一般に対する対策を講じる必要があり、かつ、それで足りるというべきである。
現に、医療機関の参考のために作成された本件手引きにおいても、HIV感染について他の感染症とは異なる特別な対応をすべきことが提唱されているわけではなく、「職業感染対策」として、B型肝炎、C型肝炎等の感染症と並んでHIV感染対策に特化した記述がわずかに存するのみである。そうすると、医療機関といえども、殊更従業員のHIV感染の有無を確認する必要はないばかりか、そのような確認を行うことは、前記特段の事情のない限り、許されないというべきである。
ましてや、Xは、社会福祉士として稼働することが予定されていたのであって、医師や看護師と比較すれば血液を介して他者にHIVが感染する危険性は圧倒的に低いと考えられるし、Xが患者等から暴力を受けたとしても、Xが大量出血しその血液が周囲の者の創傷等を通じて体内に偶然に入り込むなどといった極めて例外的な場合でもない限り、これが原因で他者にHIVが感染することは想定し難いというべきである。
したがって、上記主張はいずれも失当である。そして、Y社病院に前記特段の事情があったとは認められないから、Y社病院が医療機関であることをもって、Xに対しHIV感染の有無を確認することが正当化されるものではない。
センシティブ情報に関する取扱いについて参考になる裁判例ですね。
解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。