賃金175 賃金減額と将来請求の可否(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

43日目の栗坊トマト。順調に大きくなっています!

今日は、賃金減額に関して、将来請求及び一定の賃金の支払いを受ける地位の確認請求が認められた裁判例を見てみましょう。

キムラフーズ事件(福岡地裁平成31年4月15日・労経速2385号18頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に勤務するXが、Y社に対し、①平成29年5月支払分以降の月額賃金のうち、基本給について1万円、職務手当について5万円及び調整手当について1万円をそれぞれ減額されたことについて、上記賃金減額は労働契約法8条に違反し、また、Y社の給与決定に関する裁量権を逸脱したものであるから、無効であると主張して、(ア)月額賃金として基本給13万5000円、職務手当5万5000円及び調整手当8万0900円の支給を受ける労働契約上の地位にあることの確認を求めるとともに、(イ)平成29年5月支払分から労働契約終了時までの間の差額賃金の支払を求め、(2)平成27年夏季賞与から平成29年年末賞与までの各賞与額を不当に減額されたことにより、本来支給されるべき賞与額との差額分の損害を受けたとして、又は精神的苦痛を被ったとして、不法行為に基づく損害賠償金の支払を求め、(3)Y社代表者及びY社従業員からのパワーハラスメントにより精神的苦痛を受けたとして、労働契約上の就業環境配慮義務違反による債務不履行責任若しくは民法709条、会社法350条及び民法715条による不法行為責任に基づく損害賠償金+遅延損害金の支払をそれぞれ求める事案である。

【裁判所の判断】

1 Xが、Y社に対し、基本給として月額13万5000円、職務手当として月額5万5000円及び調整手当として月額8万0900円の支給を受ける労働契約上の地位にあることを確認する。

2 Y社は、Xに対し、平成29年5月からXとY社との間の労働契約が終了するまでの間、毎月10日限り7万円を支払え。

3 Y社は、Xに対し、20万円を支払え。

4 Y社は、Xに対し、50万円+遅延損害金を支払え。

5 Xのその余の請求をいずれも棄却する。

【判例のポイント】

1 本件賃金減額は、Xの同意なくされたものであることが認められ、また、Y社の就業規則及び給与規程には、懲戒処分としての減給の定めがあるほかは、降格や減給についての規定はなく、本件賃金減額は懲戒処分としてなされたものではないから、本件賃金減額は、就業規則等に基づく処分や変更としてなされたものであるとも認められない。

2 本判決確定後の将来請求分については、本件賃金減額が2回目の賃金減額であり、前件訴訟における和解成立からわずか半年余り後に行われたものであることや、Y社代表者が、本件訴訟の尋問において、たとえXの給料を元に戻すという判決が出ても、また減額する旨供述していることを考慮すると、今後もこのような賃金減額を継続する蓋然性はあると認められるから、あらかじめその請求をする必要があり、適法であると認める

3 賞与の支給及び算定が使用者の査定等を含む裁量にゆだねられていても、使用者はその決定権限を公正に行使すべきであり、裁量権を濫用することは許されず、使用者が公正に決定権限を行使することに対する労働者の期待は法的に保護されるべきであるから、使用者が正当な理由なく査定その他の決定を怠り、又は裁量権を濫用して労働者に不利な査定その他の決定をしたときは、労働者の期待権を侵害するものとして不法行為が成立し、労働者は損害賠償請求ができるというべきである。

4 製造部門に異動後のXの勤務成績やY社に対する貢献度は他の従業員と比べて必ずしも芳しくなかったことが認められる。
しかし、他方で、Xが製造部門に配転されてからそれほど期間が経過していないことに加え、配転前の営業担当時期のXに特段の問題行動や失敗があったことはうかがわれず、前記認定のとおり、上記配転がY社の経営判断として行われたことを考慮すると、Xの賞与を査定するに当たって、配転先の業務における作業の速度や成果等の勤務成績を大きく考慮することは、査定における公平を失するといわざるを得ない。そして、Y社が賞与の減額要素として主張する事情のうち、Y社の業績が良くなかったという事情については、他の正社員についても共通の事情であること、Xの勤務成績についても、前記のとおり作業速度や成果の点において芳しくないとしても、XにY社やその従業員に大きな損害を与えるような事故や失敗があったことは認められないことなども考慮すると、他方で、Xの給与及び賞与等を併せた年収額が、本件賃金減額及び本件賞与減額後においてもなおY社における他の正社員の各年収額を上回っているというY社における従業員全体の賃金の実情があることを斟酌しても、本件賞与減額のうち、少なくとも、Xが平成26年以前に支給された賞与の最低額の2分の1を下回り、かつ平成27年から29年までの間の他の正社員の賞与支給率のうちの最低の支給率をも下回った平成28年夏季賞与以降の賞与の査定については、これを正当化する事由を見出しがたいというべきである。
・・・以上によれば、Y社は、平成28年夏季賞与から平成29年年末賞与までのXの賞与については、裁量権を濫用して、これを殊更に減額する不公正な査定を行ったことが認められ、これは、Y社が査定権限を公正に行使することに対するXの期待件を侵害したものとして不法行為が成立するというべきである。

上記判例のポイント2は参考になりますね。

通常、将来請求までは認められませんが、このような事情があれば、裁判所は認めてくれるようです。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。