Daily Archives: 2019年8月16日

解雇303 わいせつ行為に関する使用者責任と求償の割合(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、わいせつ行為を理由とする懲戒解雇に関する裁判例を見てみましょう。

ヤマト運輸事件(大阪地裁平成31年2月7日・労判ジャーナル88号44頁)

【事案の概要】

本件は、本訴請求において、Y社の元従業員が同人に対する懲戒解雇処分が無効であることを理由として、労働契約上の地位確認を求めるとともに、民法536条2項に基づき、平成27年12月25日から本判決確定日までの間、毎月25日に支払われるべき賃金等の支払を求め、反訴請求において、Y社が、上記懲戒解雇処分の理由である、Xの就業時間中における女性に対するわいせつ行為によって、使用者として示談金の支払を余儀なくされたとして、民法715条3項に基づき、示談金相当額の求償を求めるとともに、同わいせつ行為によって、社会的信用が著しく毀損されたことを理由として、民法709条に基づき、損害賠償を求めた事案である。

【裁判所の判断】

懲戒解雇は有効

示談金相当額の求償は認容

社会的信用が毀損されたことを理由とする損害賠償請求は棄却

【判例のポイント】

1 Xは、集荷業務中に集荷先企業の女性従業員Aに対し、その意に反して身体を抱きしめ、左胸を触る行為をしたものであり、かかる行為は、会社就業規則の42条9号、同条4号、同条14号及び同条15条に該当するということができ、そして、同行為の性質や内容に照らすと、本件懲戒解雇が不当に重いものとはいえないから、同処分が権利濫用に該当し無効であるとはいえないから、本件懲戒解雇が無効であることを前提とする本訴請求は、いずれも理由がない。

2 XのAに対する行為は、就業時間中になされたものであり、Y社の事業の執行につきなされたものであるといえるから、Y社はAに対し、民法715条1項による損害賠償責任を負い、その損害賠償責任を果たしたY社は、Xに対し、民法715条3項による求償を請求することができ、そして、XがAに対して故意にわいせつ行為に及んだものであること、Xの行為がY社就業規則のうち特に42条9号に違反するものであること、Xが以前にも女性に対する性的な行為を原因としてY社から懲戒処分を受けていたことに照らすと、業務上生じた損害の公平な分担の見地に照らしても、Y社のXに対する求償権を制限するのが相当であるとはいえないが、他方、Y社においては、XのAに対する行為によって、Aに対する示談金の支払を余儀なくされた以上に、社会的信用が毀損され損害が生じたと認めるに足りる的確な証拠はないから、民法709条に基づき、社会的信用を毀損されたことに対する損害賠償の支払いを求める部分は理由がないものというべきであり、XはY社に対し、民法715条3項に基づき、120万8026円等を支払う義務がある。

事案によっては、求償権を制限される事案もありますので注意が必要です。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。