Monthly Archives: 6月 2019

本の紹介929 実験思考(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は本の紹介です。

株式会社バンクの光本社長の本です。

「世の中、すべては実験」とあるのように、考えたことを実験するといういわゆる「アウトプット力」が尋常ではない方です。

うまくいかなかったとしても、失敗とは微塵も思っていないのでしょう。

多く人が考えることでも、多くの人はそれを実行には移しません。まさにそこの差です。

おすすめです。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

ぼくは今後、どんどん『思考停止』の時代になっていくと考えています。よって、『どれだけ思考停止させたまま、サービスを提供できるか』というのはすごく意識しています。・・・誰かが『あっちだ!』と言えば、何も考えずに動くというようなサービスが流行るはずです。脳を使わなくても生きていける時代がやってきます。」(175頁)

完全に皮肉的な内容ですが、真実です。

今でさえ、もはやほとんど思考せずに、多くのことを行っています。

ほんの少しでも考えさせるサービスは敬遠されます。

シンプルでわかりやすくて悩まないサービスしか求められなくなると思います。

ほんの少しの面倒くささも排除することが求められています。

不当労働行為221 協定破棄と不当労働行為(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、労働者供給事業の日雇労働者の月13日稼働確保協定を破棄したことが不当労働行為といえないとされた事案を見てみましょう。

上組陸運事件(兵庫県労委平成31年1月24日・労判1198号80頁)

【事案の概要】

本件は、労働者供給事業の日雇労働者の月13日稼働確保協定を破棄したことが不当労働行為にあたるかが争われた事案である。

【労働委員会の判断】

不当労働行為にはあたらない

【命令のポイント】

1 B2営業所では、ここ数年大幅な赤字を計上していたところ、Y社は、正規乗務員の稼働率向上等を課題として収支改善に取り組んでいた。
しかし、X組合の組合員がB2営業所の業務量にかかわらず月13日以上就労していたことからすると、Y社は、B2営業所の業務量にかかわらずX組合の組合員の業務量を確保していたことになり、正規乗務員の稼働率が改善できない状況にあったと推認できる。
そうすると、B2営業所の経営状況に照らし、その収支改善のために13日確保協定を破棄したとするY社の主張には一定の合理性が認められる

2 給付金は、日雇労働被保険者が失業した日の属する月の前2月間に印紙保険料が通算して26日分以上納付されているときに支給されるところ、13日確保協定によって確保される就労日数と、給付金の支給要件を満たすために必要な就労日数が一致しており、また、X組合は、X組合の組合員の就労日数を月13日確保することで、X組合の組合員が給付金を受給できると認識していた。
しかし、同法の目的は、労働者が失業した場合及び労働者について雇用の継続が困難となる事由が生じた場合に必要な給付を行うことにより、労働者の生活及び雇用の安定を図ること等であるところ、13日確保協定に基づく給付金の受給は、同法が定める日雇雇用保険制度の制度趣旨から逸脱するものであったとの疑念は拭えない。このため、13日確保協定が、日雇雇用保険制度の制度趣旨に抵触する問題を内包していたとのY社の主張は首肯できる。
よって、その是正のため、Y社が13日確保協定を破棄したことには、一定の合理性がうかがえる。

3 以上のことからすると、Y社が13日確保協定を破棄したことには、B2営業所の収支改善及び法令抵触問題の是正という相応の理由があり、X組合の組合員であるが故をもってなされた不利益取扱いに当たるとはいえないので、労組法第7条第1号に該当しない。
また、X組合の存在を嫌悪し、その弱体化を企図して行われたことをうかがわせる事情は認められないので、労組法7条3号に該当しない。

上記のとおり、使用者の行動に客観的合理性が認められる場合には、不当労働行為にはなりません。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

本の紹介928 人生を変えるアウトプット術(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。

久しぶりに千田さんの本です。

サブタイトルは、「インプットを結果に直結させる72の方法」です。

私もよくセミナーで言うことですが、インプットは仕入れなので、アウトプットしなければ時間やお金が無駄になってしまいます。

アウトプットしてこそインプットが生きるのです。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

私は本を読む際にはビビッ!ときた箇所すべてに付箋を貼っている。そして付箋を貼った部分をすべて実際に試している。成功しようと失敗しようとお構いなしに、試した部分から順に付箋を外していく。・・・これまで私が読んできた本の数を考えると想像を絶するほどの量を行動に移してきたことになる。その結果、今、ここにいる。」(31頁)

どれだけ本を読んで、どれだけセミナーを受けても、行動に移さなければ、本を読んだ時間、セミナーを受けた時間は無駄になります。

仕入れたら、ちゃんと売り上げにする。

このサイクルが確立していると、仕入れに要した時間が無駄になりません。

本を読むことは手段であって、目的ではありません。

あくまでもプロセスの一部にすぎないということを強く意識することが大切だと思います。

労働災害98 脳梗塞発症に基づく会社の損害賠償責任(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、脳梗塞発症に基づく会社に対する損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

フルカワ事件(福岡地裁平成30年11月30日・労判ジャーナル86号52頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元従業員Xが、Y社及びその代表取締役であるAに対し、Xが脳梗塞を発症し、後遺障害が残ったのは、Y社におけるXの業務に起因するなどと主張して、Y社に対しては民法415条に基づき、Aに対しては会社法429条1項に基づき、損害賠償金の一部として約1億円等の連帯支払いを求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求の一部認容

【判例のポイント】

1 Xは、本件疾病の発症前6か月間に、月平均174時間50分の時間外労働を行っており、恒常的に長時間労働に従事していたといえるうえ、本件疾病の発症前1か月間にも、150時間15分の時間外労働を行っているところ、医学的に、特に、発症前1か月間におおむね100時間又は発症前2か月間から6か月間にわたって、1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合には、業務と発症の関連性が強いと評価できるとされていることが認められるから、本件疾病発症前6か月間におけるXの労働時間は、本件疾病の発症と強い関連性を有する程度の著しい長時間労働であったといえ、また、本件店舗の店長であったXは、自己及び本件店舗の目標を達成するために、相応の精神的緊張を伴う業務に従事していたというべきであるから、この点でも、Xの業務は、長時間労働とあいまって本件疾病の発症の要因となり得るものであったといえること等から、Xの本件疾病は、Xの動脈硬化が、過重な業務に伴う負荷によりその自然経過を超えて悪化したことによって発症したものとみるのが相当であり、Y社におけるXの業務と本件疾病の発症との間には、相当因果関係が認められる

2 Xの本件疾病の発症は、Xの基礎疾患(高血圧及び高脂血症並びにこれらに起因する動脈硬化)が、Y社における過重な業務に伴う負荷によりその自然経過を超えて悪化したことによるものであり、高血圧及び高脂血症は本件疾病の主因とされており、特に高血圧は最大の危険因子とされていること、しばしば喫煙者にみられる多血症も本件疾病の危険因子とされていることによれば、Xの上記基礎疾患については、肥満も寄与していると考えられることからすると、Xの基礎疾患の存在が本件疾病の発症の重要な原因の一つであったといえるから、Y社にXの損害の全部を賠償させることは公平を失するというべきであるが、他方で、本件疾病発症当時におけるXの動脈硬化の自然経過による増悪の程度は明らかではないことに加え、Y社におけるXの業務の過重性の程度や、Xの業務に対するAの関与の内容及び程度をも考慮すると、Y社及びAの賠償すべき損害の額を定めるに当たり、2割を減額する限度で本件既往症の存在をしんしゃくするのが相当である。

これからますます労働人口が減っていく一方で、仕事の量は減らない以上、労働時間の規制をしたところで、このような事件がなくなることはありません。

世の中から「納期」という概念がなくならない限りは、長時間労働を永遠になくならないのではないでしょうか。

本の紹介927 人生を変える筋トレ(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。今週も一週間がんばりましょう。

今日は本の紹介です。

NHK「みんなで筋肉体操」でおなじみの谷本道哉さんの本です。

大袈裟ではなく、筋トレをすると人生が変わります。

これほど経済的、健康的、時間的にコスパの良いスポーツを私は知りません。

書かれている内容自体はいたってシンプルかつ基本的なことですので、これから筋トレをはじめようと考えている人が読む本です。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

自分のお腹を見てみてください。おへその横、脇腹あたりの肉を指でつまんでみてください。それが今の“本当のあなた”です。本気を出す以前に、痩せるため、健康のためのぬるい運動すらできていない現実がそこにあるのです。過去の栄光にすがったところで、内臓脂肪の1gも減りません。筋肉だって1gも増えません。向き合うべきは過去の自分ではなく、“今の自分”です。」(43頁)

手厳しいですが、真実です。

しかもこのことは誰もが理解していることです。

わかってはいるけど、始められない。続けられない。

そうこうしているうちに、人生は終わってしまいます。

年を重ねるごとに運動をする時間は減っていきます。

忙しいのはみんな一緒です。

あとはやるかやらないか。ただそれだけ。

セクハラ・パワハラ53 わいせつ行為とレピュテーションダメージ(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、わいせつ行為等に基づく損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

佐賀県農業協同組合事件(佐賀地裁平成30年12月25日・労判ジャーナル86号42頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元職員Xが、在職中、Y社の組合員による研修旅行に随行した際、Xからわいせつ行為を受けたため心的外傷後ストレス障害(PTSD)を発症したとして、Y社に対し、債務不履行(労働契約上の安全配慮義務違反)に基づく損害賠償として、約2441万円等の支払いを求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件事件の中核である行為(2)は、組合員であるAが、部会の研修旅行の際、Xの宿泊する部屋を深夜に1人で訪れ、入室させるよう求め、これに応じたXと室内で話をしていた際、30分ほどが経過したところで、いきなりXに抱き付いてキスをし、口の中に舌を入れ、着衣内に手を入れて乳房を揉み、着衣内に顔を押し込んで乳房を舐め回し、ショーツの上から臀部を撫で回すなどのわいせつ行為をしたというものであり、他方、Y社の予見可能性を基礎付ける出来事としてXが主張するのは、Y社の組合員が部会の研修旅行中に昼間から飲酒の上、移動のパスの中でXの脚を触り、背後からXに抱き付いて胸に手を当てた、全裸でサービスをするコンパニオンを懇親会に呼んだ等というものであるが、上記の出来事に係る行為者は、いずれもAではないし、行為(2)は、行為を抱いていた女性の部屋で、深夜2人きりになったことを奇貨として及んだわいせつ行為であり、部会の研修旅行に係る営農指導員としての業務の遂行に内在又は随伴する危険が現実化したものと評価することは困難であり、また、Xが主張する出来事が本件事件を予見させるものであったとは認められないから、本件事件について、Y社に予見可能性があったということはできない

2 職員でないAに対し、Y社が実効性のある措置を講ずることには困難な面があるところ、Y社は、内部的に、Aが、Xに対し、被害賠償を行う措置を講じており、Xは、懇親会にコンパニオンを呼ぶこと自体をやめるべきであるというが、部会の行為に係る意思決定は部会自身が行うのであり、研修旅行・懇親会の内容について決定するのも部会自身であるから、コンパニオンを呼ばない等の懇親会に係る監督・指示・決定の権限がY社にあるとは認められず、Y社の職員は、事務委託契約に基づき、部会の研修旅行に随行するにすぎないから、随行を要しないとするのは、再発防止に向けた措置として、より現実的なものというべきであること等から、本件事件に関し、Y社に事後措置義務違反があったとはいえず、農協に安全配慮義務違反があったとは認められないから、Xの請求は理由がない。

請求棄却とはいえ、使用者側のレピュテーションダメージは計り知れません。

それにしてもどんな研修旅行やねん・・・

ハラスメントについては、注意喚起のために定期的に研修会を行うことが有効です。顧問弁護士に社内研修会を実施してもらいましょう。

本の紹介926 弱者でも勝てるモノの売り方(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。

いかにお金をかけずに売上げを上げるかという視点でやさしく書かれています。

これから商売を始める方等は何かのヒントになると思います。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

成熟した社会ではコモディティ商品はどの企業でも、機能の良し悪しに大きな違いはありません。結果、消費者に商品ごとの違いを打ち出しにくい状況が生まれます。ここからコトラーは、最初はオンリーワンだった商品・サービスが、競合他社も同様の商品・サービスを打ち出し一般化してしまう状況を『コモディティ化』と呼びました。」(115頁)

今更感はありますが(笑)

でも、この現実を受け止めつつ、ビジネスを展開していかなければ途中で失速することは目に見えています。

機能の良し悪しに大差がないとなると、どこで差がでるか?

ここが経営者の腕の見せ所なのです。

ここで、さらに機能面に重点を置いた経営をしてしまうのがよくあるパターンですが、これ以上機能を進化させてもたいていの場合、売る側の自己満足であり、顧客は求めていないわけです。

機能面ではなく何を重視すべきか。

この答えを形にすることが経営の楽しさなのではないでしょうか。

賃金166 賃金減額合意の有効性判断(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、賃金減額合意無効等に基づく未払賃金等支払請求に関する裁判例を見てみましょう。

エムスリーキャリア事件(大阪地裁平成31年1月31日・労判ジャーナル86号28頁)

【事案の概要】

本件は、医療従事者の有料職業紹介事業等を目的とするA社の元従業員Xらが同社との間で賃金を減額する合意をしたところ、Xの賃金減額の意思表示がA社の詐欺によるものであるからこれを取り消す、あるいは、動機の錯誤に基づくものであるから無効であるとして、A社を吸収合併したY社に対し、雇用契約に基づき、それぞれ未払賃金及び賞与計約404万円等の支払を求めるとともに、A社の役員による上記欺罔行為が故意にXらの権利ないし法益を侵害するものであるとして、不法行為(使用者責任)に基づき、それぞれ賃金及び賞与相当額等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xが月額45万円(平成26年5月以降は月額45万5000円)の支給を受けており、Xの給与明細においては基本給45万円又は45万5000円と表示されていたこと、本件説明書においても「就業規則での」「報酬約25万円に上乗せして」「高い給与・報酬が得れる形態になっている」、「現行の高め給与設定」などと上乗せ部分が給与であることを前提とする記載があることからすると、Xの賃金額をそれぞれ月額45万円などとする黙示の合意があったと認めるのが相当であり、また、賞与については、平成26年11月以前に春季賞与として80万円、夏季賞与として40万円が支払われた事実は認められるものの、就業規則上、会社の業績等を勘案して支給され、やむを得ない事由により、支給時期が延期し、又は支給しないことがあると定められておりその支給条件が予め明確に定められていると認めるに足りる事情もないから、恩恵的給付であって賃金ではないから、具体的権利としては発生しておらず平成27年の夏季賞与及び平成28年の春季賞与額の請求は認められない

2 A社の業績悪化については、本件説明書にそのような記載がなく、Dがそのことを説明したと認められず、仮に、Xが、本件説明書の「支払不能」や「倒産」等の言葉のみを捉えて、A社の業績が悪化していると思って賃金減額に応じたのだとしても、そのような動機が表示されているとは認められず、また、XがA社の役員報酬も減額されるものと誤信したとしても、業績が悪化して賃金減額を依頼する場合であればまだしも、そうでない状況において、労務提供の対価である賃金の額を決めるにあたり、役員の報酬がいくらかは重要であるとまではいえず、法律行為の要素に錯誤があったとは認められないこと等から、Xの錯誤無効の主張には理由がない。

上記判例のポイント2のようなトラブルは日常的に起こり得ますが、動機の錯誤の問題ですので、なかなか無効と判断されることは多くありません。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

本の紹介925 アフターデジタル(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。
アフターデジタル オフラインのない時代に生き残る

サブタイトルは、「オフラインのない時代に生き残る」です。

また、帯には「すべてオンラインになった世界のビジネスの在り方」と書かれています。

この流れはこれからさらに加速していきます。

おすすめです。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

中国ではこれまでにたくさんの無人店舗が誕生しましたが、その多くは潰れていきました。この大きな社会実験ともいえる『無人』の事例で勝ち残った店には共通項が見られます。・・・『無人化』というとどんどんサービスが機械化していく印象がありますが、実際には従業員とよりコミュニケーションを取り、より人間的な温かいサービスを提供するプレイヤーが生き残っています。これは、リアル店舗での顧客との接点の価値が変わっていく大きなポイントではないかと思っています。」(123頁)

うーん、そうかもしれませんが、どうかなー。

ありとあらゆる雇用リスクを考慮すると、雇用という契約形態は選択しないでいいのであれば、選択しないほうがいいです。

ルールが厳しいですし、使用者の負担が重いので。

となると、経営者個人がこじんまりやるか、それか業務委託するという方法が楽ですよね。

今後、働き方が劇的に変化することは言うまでもありません。

雇用ありきでの経営はそろそろ終わりを迎えつつあるというのが個人的認識です。

解雇301 賃金減額合意の有効性判断(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、能率低下等を理由とする解雇無効地位確認等請求に関する裁判例を見てみましょう。

ネクスト・イット事件(東京地裁平成30年12月5日・労判ジャーナル86号50頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用されていたXが、平成27年4月の賃金減額及び平成28年4月の解雇は、いずれも理由がなく無効であるとして、雇用契約に基づき、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、解雇後の賃金として、雇用契約に基づき、平成28年6月から本判決確定の日まで、毎月末日限り、賃金減額前3か月間の平均である月額約32万円等の支払、Y社による解雇は不法行為にも当たるとして、不法行為に基づく損害賠償として、慰謝料100万円等の支払並びに同意なく減額された平成27年4月分から平成28年4月分までの賃金の差額分として、雇用契約に基づき、約114万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

解雇は有効

賃金減額は無効

【判例のポイント】

1 本件給与体系変更に対するXの同意は、賃金の減額に対する同意であり、賃金債権の一部放棄に対する同意と同視できるから、Xの同意が、自由な意思に基づくものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するときに有効となるところ、Xは、Y社従業員から本件給与体系の変更を告げられた際、給与の減額になることを明確に認識したうえで、入社前に聞いていないなどとして受け入れない意思を表明し、その後総務部長から送信されてきた給与についての確認書には、職を失わないために渋々署名押印したことなどを踏まえると、Xの本件給与体系変更に対する同意が自由な意思に基づくものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとは認められないこと等から、本件給与体系変更による賃金の減額は無効であり、Xは、Y社に対し、減額された賃金分の支払請求権を有する。

2 本件解雇は、Xが、誠実に営業活動を行わなかったことにより営業成績が悪かったことを理由とするもので、Y社の就業規則所定の解雇事由である「能率が著しく低下し、または向上の見込みがないと認めたとき」に該当し、実体面での理由は十分に存在すること、XのY社に対するスケジュールの報告に虚偽が相当数含まれており、訪問していないにもかかわらず交通費の精算を行ったものもあることを考慮すると、XとY社との信頼関係は破壊されているといわざるを得ないこと、解雇に向けた具体的な指導や警告が存在しない手続上の問題は、Y社の営業社員が全員経験豊富な中途採用社員であり、毎週営業会議を行っていたという状況の下では、Xの営業活動に対する不誠実さや営業成績の悪さを凌ぐものとはいえないというべきであることを踏まえると、本件解雇は、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当である。

上記判例のポイント1については、特に注意が必要ですね。

とりあえず同意さえとれば何でも有効と考えるのはやめましょう。実務ではそういう取扱いはしていません。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。