おはようございます。
今日は、正社員との基本給の相違が労働契約法20条に反するとした裁判例を見てみましょう。
学校法人産業医科大学事件(福岡高裁平成30年11月29日・労経速2370号3頁)
【事案の概要】
本件は、Y社の臨時職員であるXが、使用者であるY社に対し、両者間の労働契約に係る賃金の定めが有期労働契約であることによる不合理な労働条件であって、無期労働契約を締結している労働者(正規職員)との間で著しい賃金格差が生じており、労働契約法20条及び公序良俗に違反するとして、不法行為に基づき、損害金824万0750円+遅延損害金の支払を求めた事案である。
原判決は、Xの請求を棄却したところ、Xが控訴をした。
【裁判所の判断】
原判決を変更する。
→Y社はXに対し、113万4000円+遅延損害金を支払え
【判例のポイント】
1 これらの事情を総合考慮すると、臨時職員と対照職員との比較対象期間及びその直近の職務の内容並びに職務の内容及び配置の各変更の範囲に違いがあり、Xが大学病院内での同一の科での継続勤務を希望したといった事情を踏まえても、30年以上の長期にわたり雇用を続け、業務に対する習熟度を上げたXに対し、臨時職員であるとして人事院勧告に従った賃金の引き上げのみであって、Xと学歴が同じ短大生の正規職員が管理業務に携わるないし携わることができる地位である主任に昇格する前の賃金水準すら満たさず、現在では、同じ頃採用された正規職員との基本給の額に約2倍の格差が生じているという労働条件の相違は、同学歴の正規職員の主任昇格前の賃金水準を下回る3万円の限度において不合理であると評価することができるものであり、労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たると解するのが相当である。
2 Xは、Y社と正規職員との俸給の差は不合理なものであるから、本件労働契約における賃金の定めが公序良俗に反すると主張するが、労働者の賃金の定めに関する労働条件は、労働者の職務内容及び変更範囲により一義的に定まるものではなく、使用者は、雇用及び人事に関する経営判断の観点から、労働者の職務内容及び変更範囲にとどまらない様々な事情を考慮して、労働者の賃金に関する労働条件を検討するものということができるというのが相当である。そして、労働者の賃金に関する労働条件の在り方については、基本的には、団体交渉等による労使自治に委ねられるべき部分が大きいということができ、前記認定事実に加え証拠によれば、Y社は、団体交渉を経て、臨時職員の退職金についての労働条件を一部改善し、また、平成25年4月からは嘱託職員への切り替えによる3万円の基本給引上げも実施したことが認められ、これらからすれば、Xが主張する事情から、本件労働契約における賃金の定めが公序良俗に反するということはできない。
高裁判決ですが、労契法20条に関する裁判例はまだもう少しの間、揺れ動くでしょう。
個々の事案ごとの判断が求められるため、前の2つの最高裁判決が出ても一向に判断が落ち着く気配がありません。
もう少し様子をみるほかないでしょう。
日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。