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今日は、休職から復職する際に使用者が賃金減額を提示し、労働者が納得せず復職に至らなかった事例において、以降の不就労期間中の賃金の請求が一部認められた裁判例を見てみましょう。
一心屋事件(東京地裁平成30年7月27日・労経速2364号24頁)
【事案の概要】
本件は、Y社との間で雇用契約を締結していたXが、Y社に対し、①時間外労働に従事したと主張して、本件契約に基づく賃金支払請求として992万0807円+遅延損害金、及び労働基準法114条に基づく付加金請求として742万8009円+遅延損害金の支払を求めるとともに、②労災による休職後、復職するに当たり、Y社が勤務先の変更と賃金の減額を打診したことは、Y社の責めに帰すべき事由による労務遂行の不能(民法536条2項)に該当すると主張して、主位的に雇用契約に基づく損害賠償請求として、上記打診後の賃金ないし賃金相当額+遅延損害金の支払を求めた事案である。
【裁判所の判断】
Y社は、Xに対し、762万3442円+遅延損害金を支払え。
Y社は、Xに対し、121万7367円+遅延損害金を支払え。
【判例のポイント】
1 Xが就労中の事故により本件怪我を負い、休職するに至っていること、Xの実労働時間は相当長期間にわたっていたことからすれば、Xが復職するにあたり、Y社が人事権の行使として、同様の事故が起こらないように配慮する目的でその勤務内容を決定すること自体は不自然なことではなく、また、人事権行使の裁量の範囲内であれば、勤務内容の変更に伴い、職務に対応する手当等の支給が廃止されることも許容される場合があり得る。
しかしながら、Y社は、Xとの交渉において、時間外手当の定額支給を残業時間について割合賃金を支払う方法に変更すること及び通勤手当の2万円減額を提案している。時間外手当については、そもそもY社の賃金規程上何らの記載もされておらず、XとY社との間で定額残業代として支払う旨の合意がされた事実を認めるに足りる適切な証拠はなく、また、Xの勤務内容を調理部(洗浄室)に限定することから当然に時間外手当の支給要件の欠如が導かれるものでもない。
また、Xに対する通勤手当は、賃金規程上の規定内容とは異なる形で支払われていたものであって、Xの勤務内容を調理部(洗浄室)に限定することから当然に通勤手当の減額が導かれるものではない。そうすると、Y社の提案は、人事権行使の裁量の範囲に留まらない賃金減額を含むものと言わざるを得ず、Xの同意なく一方的に決定できるものではないが、Y社がXに交付した書面にはその旨の記載はなく、また、同意の有無が復職とは無関係である旨の記載もない。そして、Xが平成28年10月11日にY社に赴いた際には、Xのタイムカードは準備されておらず、MがXに対して同意書に署名して提出をしてもらいたいとの意向をY社が有している旨を伝えているのみであり、その当時Y社においてXの就労を受け入れる体制にあたことを認めるに足りる適切な証拠はなく、また、Y社がXに対して、同意書の提出がなくともXの就労を認める等の説明を行った等の事実を認めるに足りる適切な証拠もないことからすると、客観的に見れば、少なくとも平成28年10月11日時点では、Y社には責めに帰すべき事由があるといえ、この間、休職前の賃金である月額35万1600円の割合による賃金の支払を請求することができる。
2 Y社は、Xの復職に関する交渉中から、N弁護士を通じて本件訴訟における判断に従って未払賃金等を支払う旨を示している上、本件訴訟手続中も、Y社の主張を前提とするものではあるものの未払割増賃金について弁済の提供を行っている。このことに、本件訴訟手続中の和解交渉の経過を併せ考慮すると、Xが指摘するY社における労働時間管理の問題等があるとしても、本件において付加金の支払を命じる必要性があるものとは認められないというべきである。
結果としては、かなり大きな金額が認められています。
人事権行使の程度、すなわち、どこまでやってしまうと法的にやりすぎになってしまうのかは難しい判断が求められます。
顧問弁護士と相談しながら進めていくのが無難でしょう。