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今日は、育児休業後の有期雇用契約への変更、その後の雇止め等が無効とされた裁判例を見てみましょう。
フードシステム事件(東京地裁平成30年7月5日・労経速2362号3頁)
【事案の概要】
本件は、Y社に期間の定めなく雇用され、事務統括という役職にあったXが、自身の妊娠、出産を契機として、Y社の取締役であるC及びY社の従業員から、意に反する降格や退職強要等を受けた上、有期雇用契約への転換を強いられ、最終的に解雇されたところ、上記降格、有期雇用契約への転換及び解雇がいずれも無効であるとして、主位的請求として、Y社に対し、事務統括としての雇用契約上の権利を有する地位にあること及び25日間の年次有給休暇請求権を有することの確認、平成28年10月から本判決確定まで、別紙1記載の金員の支払を求めるとともに、解雇後の月例賃金、事務統括手当月額1万円及び賞与として毎年7月に20万円、毎年12月に40万円の支払+遅延損害金の支払を求めるとともに、上記解雇等がXに対する雇用契約上の就労環境整備義務違反又は不法行為に当たるとして、Y社らに対し、民法415条及び民法709条等に基づき、連帯して、解雇時までの未払事務統括手当相当額合計18万5000円、未払賞与相当額合計180万円及び慰謝料300万円の合計498万5000円の支払+遅延損害金の支払を求め、さらに、期間の定めのない雇用契約であることが否定された場合の予備的請求として、有期雇用契約に基づき、Y社に対し、有期雇用契約上の権利を有する地位、年次有給休暇日数の確認、平成28年10月から本判決確定まで、別紙2記載のとおりの雇止め以降の賃金の支払+遅延損害金の支払を求めるとともに、主位的請求と同様に、上記雇止め等が債務不履行又は不法行為に当たるとして、Y社らに対し、民法415条又は709条等に基づき、連帯して、慰謝料300万円+遅延損害金の支払を求めた事案である。
【裁判所の判断】
Xが、Y社に対し、事務統括たる期間の定めのない雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
Y社は、Xに対し、本件解雇以降の月例賃金(月額21万2286円)及び事務統括手当(月額1万円)の支払、並びに、不法行為に基づく損害賠償としてイ社yろう50万円等を支払え。
【判例のポイント】
1 Xは雇用形態または雇用契約上の地位の確認を求める訴えを提起しているものの、この点が確定されたとしても、年次有給休暇の肯否及び日数について確定するためには、Xの継続勤務年数がY社とXとの間の雇用契約に引き継がれたかという点についても判断する必要があるから、雇用契約上の地位とは別に、Xの年次有給休暇請求権の有無を確定して紛争を抜本的に解決するためには、同請求権を直接確認の対象としてその存否を既判力をもって確定することが有効かつ適切というべきである。
2 労働者が使用者に使用されてその指揮命令に服すべき立場に置かれており、当該合意は、もともと所定労働時間の短縮申出という使用者の利益とは必ずしも一致しない場面においてされる労働者と使用者の合意であり、かつ、労働者は自らの意思決定の基礎となる情報を収集するの応力にも限界があることに照らせば、当該合意の成立及び有効性についての判断は慎重にされるべきである。そうすると、上記短縮申出に際してされた労働者に不利益な内容を含む使用者と労働者の合意が有効に成立したというためには、当該合意により労働者にもたらされる不利益の内容及び程度、労働者が当該合意をするに至った経緯及びその態様、当該合意に先立つ労働者への情報提供又は説明の内容等を総合考慮し、当該合意が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在することが必要であるというべきである。
3 Xが、Xに対し、第1子出産後の平成26年4月に復職する際、時短勤務を希望したことについて、実際には嘱託社員のままで時短勤務が可能であったものであり、育児休業法23条に従い、嘱託勤務のままで所定労働時間の短縮措置をとるべきであったにもかかわらず、パート契約でなければ時短勤務はできない旨の説明をした上で、Xの真に自由な意思に基づかないで、嘱託社員からパート社員へ雇用形態を変更する旨のパートタイム契約を締結させ、事務統括から事実上降格したことは、同法23条の2の禁止する不利益取扱いに当たり、不利益の内容や違法性の程度等に照らし、Xに対する不法行為を構成する。
4 次に、Cが、Xの第2子妊娠に際し、D課長を通じて、Xの産休、育休取得を認めない旨を伝えたことに加え、Xは引き続きY社において就労を希望しており、その希望に反することを知りながら、平成27年3月30日、多くの従業員が出席し、Xも議事録係として出席した定例会において、Xが同年5月20日をもって退職する旨発表したことはCにおいて、第1子出産後の復職の際にパートタイム契約に変更しなければ時短措置を講じることができないとの態度をとり、更に第2子についての産休、育休取得を認めない態度を示していたこと等の事情を総合すると、Xに対して退職を強要する意図をもってしたものであると認められるから、産前産後の就業禁止を定める労基法65条に違反するとともに、妊娠出産に関する事由による不利益取扱いの禁止を定める男女雇用機会均等法9条3項にも違反する違法な行為であり、不利益の内容や違法性の程度等に照らし、Xに対する不法行為を構成する。
このような事件では、判決により支払を命じられた金額よりも、レピュテーションの問題の方がはるかに大きなダメージがあります。
適切に労務管理を行うことは、今後ますます重要性を増してくることは言うまでもありません。
日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。