有期労働契約85 定年後再雇用について労使協定に定める基準を充足しないことを理由とする雇止め(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、定年後再雇用について労使協定に定める基準を充足しないことを理由とした雇止めに関する裁判例を見てみましょう。

エボニック・ジャパン事件(東京地裁平成30年6月12日・労経速2362号20頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の正社員であるXが、平成27年3月31日付けで60歳の定年により退職し、雇用期間を1年間とする有期雇用契約により再雇用された後、「定年退職後の再雇用制度対象者の基準に関する労使協定」所定の再雇用制度の対象となる物の基準を充足しないことを理由として、平成28年4月1日以降は同契約が更新されず、再雇用されなかったことについて、実際には同基準を充足していたことなどから、労働契約法19条2号により、同一の労働条件で同契約が更新されたとみなされること、平成27年分及び平成28年分の業績賞与の査定等に誤りがあることなどを主張して、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、本件雇止め以降の未払基本給(バックペイ)並びに前期業績賞与の未払分の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

雇止めは無効

【判例のポイント】

1 Y社においても、就業規則16条2項により、継続雇用制度としての定年退職後の再雇用制度が設けられ、平成24年改正法による改正前の高年法9条2項に沿って、継続雇用制度の対象者を限定するための本件労使協定が平成18年4月25日に締結されていた。少なくとも平成24年改正法の施行前については、Y社における60歳定年後の再雇用制度が単一のものであったことは明らかである。
そして、平成24年改正法の施行にあわせ、就業規則16条2項については、特別支給年金年齢到達前の再雇用契約について、本件再雇用基準の適用を制限する趣旨の改正がなされたものの、本件労使協定については、平成24年改正法の施行前後において変更されていないのであるから、本件労使協定は、上記改正後の就業規則16条2項の基準に達しない部分を除いて、特別支給年齢到達前の再雇用契約に対しても効力を有するものと解される(労働契約法12条、13条)。
以上によれば、Y社の正社員として勤務した後に平成27年3月31日に定年退職し、本件再雇用契約を締結したXについては、同契約が65歳まで継続すると期待することについて、就業規則16条2項及び本件労使協定の趣旨に基づく合理的な理由があるものと認められ、CGMも、本件労使協定1条について、本件再雇用基準に該当する限りにおいては必ず再雇用するという趣旨の規定であると述べている。そして、本件再雇用契約の終期である平成28年3月31日の時点において、Xは、本件人事考課基準を含む本件再雇用基準に含まれる全ての要素を充足していたから、本件雇止めは、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当とは認められないものといえ、労働契約法19条2号により、同一の労働条件で本件再雇用契約が更新されたものと認められる

2 高年法それ自体が私法的効力を有していないとしても、高年法の趣旨に沿って設けられた就業規則16条2項及ぶ本件労使協定が私法的効力を有することは明らかであり、これらの解釈に当たり高年法の趣旨が参照されることに支障があるとはいえない。また、労働契約法19条は適用対象となる有期雇用契約の類型等を特に限定しておらず、他の同種の従業員全員が有期雇用であるとか、定年後の再雇用であるといった理由により、その適用自体が否定されるものではないから、同②の指摘は失当である。

3 高年法9条1項は、高年齢者の65歳までの安定した雇用を確保することを目的としているのであり、平成24年改正法は、継続雇用制度の対象者を限定できる仕組みを廃止したうえで、同法の施行の際、同法による改正前の9条2項に基づく措置を実施している事業主のみを対象として本件経過措置を設けたに過ぎない。また、本件無期雇用契約の下でのXの基本給は月額83万3000円であったところ、本件再雇用契約の下でのXの基本給(月額50万円)は、その約6割に減額されていたものであるし、上記において説示したとおり、Xは、本件人事考課基準を充足していた。さらに、年収280万円という金額は、本件労使協定が一般的に定めた定年後再雇用における賃金の最低水準に過ぎないところ、かかる最低水準を上回る労働条件が本件再雇用契約において定められていたのであるから、労働基準法19条2号の要件を充足する以上は、本件再雇用契約の内容である労働条件と同一の労働条件で同契約が更新されるという効果が生じることは否定し得ないものである。

継続雇用制度の運用については、労働人口の減少、高齢化に伴い、ますます重要度が高まってきます。

適切な運用をしていかないと、訴訟リスクが高まりますのでご注意ください。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。