おはようございます。
今日は、パワーハラスメントは存在しないとして不法行為に基づく損害賠償請求が否定された事案を見てみましょう。
三栄製薬事件(東京地裁平成30年3月19日・労経速2358号28頁)
【事案の概要】
本件は、Y社の従業員であったXが、①Xの意思に反して平成28年9月30日付け自己都合退職と扱われたことにより、同年10月1日から同月20日まで就労不能になったとして、民法536条2項に基づき、同年10月分の未払賃金14万1034円の支払、②Y社の専務であるB2からパワーハラスメントを受けたなどとして、民法709条及び同法715条に基づき、968万2658円の損害賠償金の支払、③労働契約に基づき、平成27年6月3日から平成28年9月29日までの未払割増賃金45万0418円+遅延損害金、④労働基準法114条に基づき、未払割増賃金45万0418円と同額の付加金の支払を各求める事案である。
【裁判所の判断】
Y社はXに対し、18万6501円+遅延損害金を支払え
Xのその余の請求をいずれも棄却する
【判例のポイント】
1 本件パワハラ等の事実を認めることができないのは上記のとおりであるから、本件パワハラ等の事実が存在することを前提とするXの上記供述はにわかに採用することはできない。また、Xは、本件合理的配慮を記載したメモを作成してY社に交付したと述べるが、同メモの存在を裏づける的確な証拠はなく、本件カルテにも、XがY社に本件合理的配慮を要望していたことを窺わせる記載はない上、Xは診断書すらY社に提出しておらず、通院状況や服薬状況について、Y社との間で情報交換をしていたことを窺わせる事情も存在しないことからすれば、XとY社との間で本件合理的配慮を提供することの合意があったと認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
2 確かに、Xは、同月5日に行われたY社との話し合いにおいて、労務の提供を申し出ているが、その理由は、XとY社との間で、既に合意されていた平成28年10月20日付の退職を撤回して、引き続き、Y社で勤務し続けたいというものであった。Xは、本件労働契約について、平成28年10月20日付で合意解約するとの申込みをし、Y社は承諾の意思表示をしているため、合意解約は有効に成立している。したがって、Xは、既に合意解約の申込みの意思表示を撤回することができない状況にあったにもかかわらず、一方的に同月20日付退職を撤回するとして労務の提供を申し出たものであることからすれば、Y社において、既に退職が決まっているXに行わせる業務はCへの引継業務以外にはなく、Xの退職の撤回を受け入れることはできないとして、その就労を拒絶したことには合理的な理由があったといえる。また、Y社は、本件口論後のXの言動を踏まえて、Xが同年9月30日付で退職の申込みをしたものと考え、同日付合意退職の扱いにしたものであるところ、本件口論後、XはCへの引継業務を行うことを強く拒絶していたことからすれば、Y社において、本件労働契約が同年9月30日付で合意解約されたものと判断し、そのような処理をしたこともやむを得ないものであったということができる。
以上に照らすと、Xが平成28年10月1日から同月20日までの間、就労不能となったことについて、Y社の責めに帰すべき事由があると認めることはできないから、平成28年10月分の未払賃金請求については、その余の点を判断するまでもなく理由がない。
上記判例のポイント2の経緯は実際にあり得ることです。
微妙な判断が求められる場面ですが、この裁判例を参考にしてください。
ハラスメントについては、注意喚起のために定期的に研修会を行うことが有効です。顧問弁護士に社内研修会を実施してもらいましょう。