おはようございます。
今日は、パワハラによる適応障害発症と休職期間満了後の退職の可否に関する裁判例を見てみましょう。
公益財団法人周南市医療公社事件(山口地裁周南支部平成30年5月28日・労判ジャーナル78号22頁)
【事案の概要】
本件は、Xが、Y社との間で雇用契約を締結し、Y社の事務局内で勤務していたところ、Y社の代表理事であるA、Y社の理事兼事務局長であるB、Y社の経営アドバイザーであったC、Y社の事務部総務課課長補佐であったD及びY社の事務部総務課主任であるEから、平成25年3月22日から平成27年1月14日まで、パワーハラスメント行為を受けたことにより、適応障害に罹患して休職するに至り、給料、期末手当及び勤勉手当を減額されて、その後、休職期間満了により退職扱いされたとして、(1)Y社に対しては、①休職期間満了により退職扱いされたことについて、これが無効であるとして労働契約上の地位の確認、②休職後の民法536条2項に基づく給料、期末手当及び勤勉手当の合計82万2161円+遅延損害金の支払い、③退職扱い後の民法536条2項に基づく給料(月額28万5762円)、6月期末手当、勤勉手当(年額55万6337円)及び12月期末手当、勤勉手当(年額60万8090円)+遅延損害金の支払い、④Y社自身の不法行為による民法709条、Aらの不法行為による民法715条又はXとの雇用契約の債務不履行に基づき、損害賠償金1134万9023円+遅延損害金について、Aらとの連帯支払いを求めるとともに、(2)Aらに対しては、⑤Aらの共同不法行為による民法709条、719条に基づき、損害賠償金1134万9023円+遅延損害金について、Y社との連帯支払いをそれぞれ求めた事案である。
【裁判所の判断】
1 XがY社に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
2 Y社は、Xに対し、82万2161円+遅延損害金を支払え。
3 Y社は、Xに対し、平成27年2月から本判決確定の日まで、毎月21日限り28万5762円、毎年6月30日限り55万6337円、毎年12月10日限り金60万8090円+遅延損害金を支払え。
4 Y社、A及びBは、Xに対し、連帯して、574万9023円(うち300万円についてはCと連帯して、うち200万円についてはDと連帯して、うち100万円についてはEと連帯して)+遅延損害金を支払え。
5 Cは、Xに対し、Y社、A及びBと連帯して、300万円+遅延損害金を支払え。
6 Dは、Xに対し、Y社、A及びBと連帯して、200万円+遅延損害金を支払え。
7 Eは、Xに対し、Y社、A及びBと連帯して、100万円+遅延損害金を支払え。
【判例のポイント】
1 Bは、本件退職勧奨に際し、Xに対し、「自分の生かせるところへ行ったらどうかね」「今までどおりというふうにはいかないから場所を出てもらうようになる」「会議室もないし、ここのところに場所がないから。そういうところで仕事やってもらうし」「あなたの人件費も浮くんだから」「出ていかないというからじゃね、それに見合った仕事に」「仕事をみつけなさいよちゅうて」「自分で探してこいって」「まともな場所はここしかないからじゃね、あとは部屋と呼べるようなところはないから、今度はここが出たら、もうどっか空いてるスペースに行ってもらう」「ここでお前は嫌われている。誰も一緒に仕事をしたくない。他の仕事を探せ」「エッジにおるんよ」「廊下で作るわけにはいかんじゃろうがね、パソコンやら。だからそういう仕事はできなくなる」などと発言した。
退職勧奨に際して、労働者の自発的な退職意思を形成する本来の目的実現を超えて、当該労働者に対して、不当な心理的圧力を加えたり、又は、その名誉感情を不当に害するような言辞を用いたりした場合には、違法なものとなるというべきである。
これを本件についてみると、まず、Bは、Xが退職すればXの人件費が浮く、Xは嫌われていて、誰も一緒に仕事をしたくないなどと、名誉感情を不当に害するような言辞を用いており、精神的な攻撃を加えるものである。
また、Xは、そもそも、経歴、資格を見込まれた管理職候補として採用されており、これまでいわゆる現業には従事していなかったところ、Bの上記各発言は、Xに執務場所も、デスクワークの仕事も与えずに、X自ら仕事を探すことを求めるものであり、人間関係から切り離して隔離したり、過小な要求をしたりするなどして、不当な心理的圧力を加えるものである。
そうすると、Bが行った本件退職勧奨は、違法、不当なパワハラ行為であると認められる。
2 本件駐車場管理命令は、本件病院の駐車場の管理、植栽、施肥、草引き(除草作業)、清掃作業、駐車料金の回収等の業務を行うことを命ずるものであるところ、①Xが経歴や資格を見込まれた管理職候補として採用されており、Xがこれまで現業に従事した経歴がなかったこと、②Y社では、平成26年2月以前から、総務課職員が、駐車場の料金の回収は行っていたものの、除草作業や清掃作業等は行っていなかったことからすれば、本件駐車場管理命令は、業務上の合理性がなく、能力や経験とかけ離れた仕事を命じるものであり、違法、不当なパワハラ行為であったといえる。
3 Aらのパワハラ行為があったと認められること、証拠によれば、Xの主治医であるB医師が、Aらのパワハラ行為によって適応障害を発症した旨詳細な意見書を作成しており、その信用性を疑わせる事情がないことからすれば、Xの上記主張を認めることができる。
そうすると、Xの適応障害は、労働基準法19条の定める「業務上の疾病」にあたり、被告公社によるXの退職扱いは解雇制限を定める同条に反し、無効であるから、Xは,Y社に対し、雇用契約上の権利を有する地位にある。
上記判例のポイント2の視点は押さえておきましょう。
従業員の資質・経歴からして、業務上の合理性のない業務命令や配置転換等をすると違法と判断される可能性がありますので注意しましょう。
ハラスメントについては、注意喚起のために定期的に研修会を行うことが有効です。顧問弁護士に社内研修会を実施してもらいましょう。