配転・出向・転籍36 配転命令と労働者の自由意思に基づく同意(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、定年後再雇用社員に対する配転命令の適法性に関する裁判例を見てみましょう。

KSAインターナショナル事件(京都地裁平成30年2月28日・労判1177号19頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であるXが、違法無効な配転命令により損害を受けたと主張して、債務不履行又は不法行為に基づき426万5800円の損害賠償+遅延損害金の支払を請求している事案である。

【裁判所の判断】

Y社はXに対し、214万5000円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 Xは、平成27年1月16日にA監査室長から外す旨の配転命令を発しており、同月16日にはXが一度提出した始末書を書き直させることもしており、さらにXは同月22日に労働組合に加入して本件配転命令の撤回を求めていることからすると、Xが同月16日に嘱託契約書に署名捺印したのは、本件配転命令に不服があったものの、業務命令であるのでやむなく従ったにすぎず、自由な意思に基づく同意がされたと認めることはできない
また、Y社では、同月26日に、同年2月1日付けでXを関西営業本部B事業部参事に異動させる配転命令をしたのであるから、それに基づいてXが引き継ぎをしたことについても、業務命令であるのでやむなく従ったにすぎず、自由な意思に基づく同意がされたと認めることはできない
そして、配転命令が、その本来の適法性いかんにかかわらず、労働者の同意によって有効とされるためには、配転命令が違法なものであってもその瑕疵を拭い去るほどの自由意思に基づく同意であることを要すると解するのが相当であるから、本件では、Xがこのような同意をしたとは認められない
したがって、本件配転命令がXの同意を理由に有効であるとは認められない。

2 ・・・A監査室長の地位が、Y社の業務の内部監査と社員の研修を行う立場にあることを考慮しても、この社内メールをもってXがA監査室長として不適格であると認定することは、いささか早計に過ぎるというべきである。そして、XをA監査室長から外すことにより、Xが本件特約による退職金の補てん措置の対象外に減給措置を伴うものといえ、Xに経済的な不利益を及ぼすものでもある。これらの点を考慮すると、本件配転命令は、Xに経済的な不利益を及ぼしてまで行う業務上の必要性に欠けるというべきである。

3 本件配転命令により、Xは、月額5万円の退職金の補てんを得られなくなり、これは本件配転命令の不法行為と相当因果関係のある損害と認められる。そして、平成27年2月から本件口頭弁論終結日の属する月である平成29年12月までの間の35か月間の合計額は、175万円である。Xは、それ以後の分の損害も請求するが、XとY社との労働契約に職種限定がないことからすると、Xは業務上の必要があれば配置転換を命じられるべき立場にあるから、将来分の請求については未だ損害として認めるに足りない。
また、Xは、本件配転命令により精神的苦痛を受けたと認められるところ、経済的な不利益は前記により償われること、Xにも、A監査室長の立場にありながらY社の財務状況が悪いと根拠なく社内メールで述べたことに責められるべき点があることを考慮すると、本件での慰謝料は20万円と認めるのが相当である。

上記判例のポイント1はとても大切です。

当該同意が自由意思に基づいているかという論点はさまざまな事案で登場します。

裁判所がどのような点に着目して判断しているのかを理解しておきましょう。

実際の対応については顧問弁護士に相談しながら慎重に行いましょう。