賃金155 運行時間外手当は固定残業代として有効か?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、運行時間外手当は時間外労働等の対価の趣旨を有すると判断された裁判例を見てみましょう。

シンワ運輸東京事件(東京地裁平成29年11月29日・労経速2339号11頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用され、大型貨物自動車を運転して小麦粉を配送する業務に従事していたXらが、乗務員が車両を運行することによりY社が受託先から得る運賃収入に一定の率を乗じて算出した金額の運行時間外手当を時間外手当相当額として乗務員に支給する旨のY社の賃金規程上の定めについて、運行時間外手当は実質的には歩合給であり、同定めによる運行時間外手当の支給は労働基準法37条に定める割増賃金の支払に当たらないなどと主張して、①運行時間外手当を基礎賃金に含めて算出した割増賃金+遅延損害金、②割増賃金に係る労働基準法114条の付加金+遅延損害金の各支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 労働基準法37条は、同条等に定められた方法により算出された額を下回らない額の割増賃金を支払うことを義務付けるにとどまり、使用者に対し、労働契約における割増賃金の定めを同条等に定められた算定方法と同一のものとし、これに基づいて割増賃金を支払うことを義務付けるものとは解されず(最判平成29年2月28日)、運行時間外手当についても、その算定方法から直ちに同手当の支給が割増賃金の支払いに当たらないということはできないものの、同手当の支給により労働基準法37条に定める割増賃金を支払ったといえるためには、そもそも、同手当が割増賃金、すなわち時間外労働等に対する対価の趣旨で支払われるものであるか否かを検討する必要がある。

2 Xらは、Xらの基本給の時間給の額と運行時間外手当の時間給の額との不均衡等を指摘する。
しかし、上記のとおり基礎賃金額を意図的に操作するなどといった事情が認められないY社において、労働基準法所定の計算方法による割増賃金の額を上回る額を支給するか、下回る額を支給する場合であってもその差額を支給している限り、いかなる計算方法によりどの程度の額の運行時間外手当を割増賃金として支給するかは、基本的にその経営判断に委ねられた事項であるといえ、支給する運行時間外手当の額が労働基準法所定の計算方法による割増賃金の額を上回ることから直ちに、同手当について時間外労働等に対する対価性が認められなくなるものとはいえない
以上によれば、その他、Xらが種々指摘する点を考慮しても、運行時間外手当について、その全額が割増賃金、すなわち時間外労働等に対する対価の趣旨で支払われるものであると認めるのが相当である。

上記判例のポイント2は、ここ最近の固定残業制度に関する裁判例の流れからすると自然な結論です。

残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。